Entry

音楽雑誌編集者(アナログ派)がiPod音質向上に初挑戦

 やっとiPodを購入した。ここ数年、自分の中でアナログへの志向が強まっていたこともあって何となく敬遠してはいたものの、「そろそろ手に入れた方がいいよな」「でも、mp3だし、CDプレイヤーで聞くより音は落ちるだろうしなぁ」「それに慣れちゃっていいのか?」「でも、実際に使ってみないと、今どきの音楽ファンの気持ちはわからないんじゃなかろうか?」……などと、いろいろ葛藤はあった。

 しかし、昨年暮れにやっと決断し、購入するに至った。今さらiPod入門でもなかろうと思うが、まだまだ年配層に多く存在すると思われるアナログ派(?)の躊躇オヤジの代表として、自分の経験を敢えて書いてみることにした。

 今回、iPod購入を最終的に決断するに至った背景として、電車の中でポータブルCDプレイヤーを取り出してCDを取り替えたりする際に浴びる周囲からの視線がかなり気になってきたこともあるのだが、iPodやいくつかのデジタル・オーディオ・プレイヤーに関して言われていた、いわゆる“『狂気』問題”がいつの間にか解決していることを知ったのも大きかった。

 具体的に言うと、iPodだけでなく、デジタル・オーディオ・プレイヤー(以下、DAP)の多くの機種では、曲間にポッと一瞬の空白が出来てしまう仕様になっていた。普通に曲が並んでいるアルバムを聞く場合には問題はない。だが、ピンク・フロイドの『狂気』や、ビートルズで言えば、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』や『アビー・ロード』B面のような、当初から曲間なしで聞かせるように制作されているタイプのコンセプト・アルバム系の作品や、オーディエンスの歓声で曲と曲の間が埋まっているライヴ・アルバムなどを聞く際には、多少なりとも不自然なことになってしまっていた。

 DAPにはアルバム全曲を1曲として認識させて聞く、というような裏技もあるにはあったが、それでは曲ごとの選択ができなくなったり、iPod得意のシャッフル再生には適さない「曲」が生まれてしまうなど、それは万全とは言い難い方法だった。

 ソニーのものなど、わりと早くからこの問題を解決できていたDAPもあったようだが、iPodでは、2005年10月発売の第5世代、および2006年9月発売の第2世代iPod nanoから、「ギャップレス再生」(曲の切れ目なく次の曲を再生する)がサポートされ、やっとこの問題は解決を見ることになっていたのだった。そのピンク・フロイドのアルバム『狂気』も愛聴盤の一枚であり、人並み以上にライヴ盤を愛好する僕のような人間にとっても、やっと安心して使えるプレイヤーになっていたのだった。

 もうひとつ気になっていた問題は音質。iPodには、CDの音を非圧縮でそのままの音質で取り込んだり、元の音質が再現可能な可逆圧縮ファイル(人間の聞こえないはずの部分をカットして圧縮するわけではなく、ただ圧縮して音楽再生時に元に戻して再生するというもの)にして取り込む方式も用意されている(ソニーや東芝、ケンウッドのDAPにも同様の機能は用意されている)。が、それだと容量的なデメリットが大きいので、多くの曲はiPodの標準フォーマットであるAAC(Advanced Audio Coding)か、より汎用性の高いmp3ファイルなどの非可逆圧縮フォーマット(元の音楽データを人間の聞こえないはずの部分をカットしてさらに圧縮して、大幅にデータを減らす圧縮方法)で取り込むことになる。けれども、その音質は大丈夫なのか? という心配が、当然のことながらあった。

 これに関しては、デフォルトの設定より圧縮レートの数字を1から2段階高めに設定し、なおかつヘッドフォンを付属のものよりもう少し高級なもの(註1)に替え、ヘッドフォン・アンプ(註2)も導入してみたら、それまでポータブルCDプレイヤーで聞いていた時の音質をあっさり陵駕してしまった。それまでが、ポータブルなんだから高望みしてもしょうがないと半ば諦めて貧弱な器材しか使っていなかったということもあるが、これにはちょっと驚いた。


iPod classicにヘッドフォン・アンプ(iBasso T2)とヘッドフォン
(harman/kardon ep720)を繋いだ状態


 もっとも、ポータブルの主役がカセットやCDプレイヤーだった頃に比べても、最近の電器店の店頭でのヘッドフォン・コーナーの充実ぶりには目を見晴らされるものがある。さらにDAPを意識したコンパクトなスピーカー群まで大増殖。

 さすがに国内では売られているケースは少ないが、インターネット上では話題のポータブル・ヘッドフォン・アンプのような、やや特殊な機器が何種類も登場してきている。そして、かつてシルヴァー、黒や、せいぜい木目調ぐらいだったオーディオ製品群の中で「白もの」の比率が大きくなってきていることを考えても、これらの機器の充実そのものが、iPod効果であることは明らかだ(さらに言えば、iPodシャッフルやiPod nanoを意識したカラフルな色彩の製品もすごく増えている)。

 僕の場合のようなポータブル環境の音質向上の例自体が、その恩恵を受けた結果と言えなくもない。ただし現在でも同じ機器をポータブルCDプレイヤーに繋げば、そちらの音質もその分アップするのだから、CD直聞きとiPodとの一定の音質差はキープされていると言えなくもないが、敢えて今は、そこは問わないことにする(笑)。

 それと、圧縮フォーマット/圧縮レートの選択をどうすべきか?ということに関しては、インターネット上でかなりいろいろな実検結果が報告されている。

○オーディオ圧縮技術の音質について
http://anonymousriver.hp.infoseek.co.jp/Audio-Codecs.html

○アップルの「iPod」で一躍有名に、AACオーディオ圧縮規格を解剖する
http://pc.nikkeibp.co.jp/article/NPC/20070319/265666/?P=1


 最終的には自分の耳での判断が重要になるが、それらを参考に、自分のDAPのメモリーの容量とも相談しながら、取り込む作品ごとに、圧縮方法やレートをきめ細かに設定していく(もちろん可逆圧縮、非圧縮の選択肢もある)というのもひとつの手だ。

 iPodでの推奨フォーマットはAACだが(iTunesのデフォルト設定では、AACの128kbpsが選択されているが、個人的にはちょっとレートが低すぎでは?と思う)、汎用性を考えてmp3の方を選択しておいた方がいいという声もある。ただし、mp3に関しては、iPod標準の音源管理ツールであるiTunes以外のソフトを使った方が音質的に有利だという報告を目にすることも多く、これも気になる点ではある。

 次回も、iPodから見えてくる日本の音楽事情について考えてみるつもりだ。特に「着うた」主導の日本の音楽配信の状況とiPod─iTunes Storeとの関係などについて、もう少し触れてみたい。


<註1>
 付属のものから、3から4千円クラスのヘッドフォンに取り替えただけでも音の違いは実感できると思うが、音質の変化の度合いと価格のバランスを考えた場合、1万円前後のものがお得だと思う。筆者はソニーのMDR-EX90SL(従来からあるダイナミック型)とharman/kardonのep720(比較的新しい方式のバランスド・アーマ・チュア型)と対照的なドライヴァー・ユニットを持つ、いずれもカナル・タイプ(耳栓型)のものを使用。最近は、持ち運びしやすいインナーイヤー型でも、下は1000円ぐらいのものから上は4から5万円のものまでラインナップされていて、お金に余裕さえあれば、ステップアップしていく楽しみもある。

<註2>
 iPodなどのDAPのラインアウトから音声信号を取り込んで、iPod内のアンプを通さずに増幅して聞かせてくれる機器。オーディオ機器としては古くからあるが、ポータブルなものが数多く出回るようになったのは、やはりiPod効果のはず。ほとんどが海外製なので、個人輸入で購入する必要があるのと、iPodとの接続のためには、ラインアウト・ドックやケーブルが必要。現在売られているDAPの中で、iPodが必ずしも音質的に最高ではないようだが、ラインアウト出力が可能というのは、見逃されがちであるものの評価できる点である。筆者はコスト・パフォーマンスの点と可搬性を考えて最も小型(75mm×35mm×9mm)のiBasso T2(http://www.ibasso.com/)を選択。

 

【関連情報】

○iPodまとめサイト
http://ipod.x0.com/index.php


○裏技shop DD 2007/04/10
 「iPodにRockboxをインストールする方法!」
 Rockboxとは、有志の方々によって開発されているオープンソースの
 ポータブルプレイヤー向けファームウェアです。iPodの音質が良くなったり、
 スキンを対応させる事で、自分なりにカスタマイズしたりすることができる
 ようになります。
http://shopdd.blog51.fc2.com/blog-entry-524.html


○iPodレビュー 2006/11/30
 「iPodの音質を向上させるテクニック」
http://turedureview.blog48.fc2.com/blog-entry-2.html


○iPodレビュー 2007/03/25
 「MP3GainとAACGainの正しい使い方 実践編」
http://turedureview.blog48.fc2.com/blog-entry-103.html


○iPodレビュー 2007/07/08
 iPodイヤホン・ヘッドホンについて (7) 結論
http://turedureview.blog48.fc2.com/blog-entry-129.html


○日経トレンディネット 2007/03/22
 【完全版】iPod+携帯音楽プレーヤー対応 ヘッドホン&イヤホン徹底聴き比べ! 2006
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/tokushu/gen/20060405/116171/?P=1


○フジサンケイ ビジネスアイ 2008/01/11
 アップル、iPodで映画…アイチューンで「レンタル」を検討 
http://www.business-i.jp/news/ind-page/news/200801110054a.nwc


○kawasakiのはてなダイアリー 「iPodは何を変えたのか?」2007/04/08
http://d.hatena.ne.jp/kawasaki/20070408/1176040263


○CNET  2008/01/07
 フィリップス、デジタル音楽プレーヤーで「Rhapsody」と提携
http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,20364229,00.htm


○新宿経済新聞 2007/11/02
 「新宿高島屋オリジナルiPod専用ケース─人気アクセブランドとコラボ」
http://shinjuku.keizai.biz/headline/302/index.html

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/523
iPod に躊躇している(特に)年配の方へ 2008年01月16日 22:27
Media Sabor(メディア・サボール)の記事より 音楽雑誌編集者(アナログ派)がiPod音質...