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不況こそが福袋の過熱人気を生んだ

  • MediaSabor 編集部

毎年、福袋人気のニュースを見るたびに、なぜ日本人は中身のわからないものに、これほど熱狂するのか、と不思議に感じる人も多いだろう。特にここ最近の長蛇の行列などをみると尋常でない。不況といわれているのに、どうにも辻褄が合わない現象だ。

しかし、この不況こそが福袋の過熱人気を生じさせたといえるのである。

昔の福袋は在庫品を捌く意味合いが強かった。いわば店側の都合を優先させたものであった。景気がそこそこよかった時代(先行きの不透明感が顕在化していなかった時代)には、不人気商品を詰めて売っても、客の方は正月のイベントということで、細かいことはいわなかった。

ところが、グローバル経済が本格化し、BRICs(ブリックス)と称されるブラジル、ロシア、インド、中国などの台頭によって、商品、人材両面での世界的な競争が激化することになった。これによって、日本企業の人材戦略がリストラ、非正規雇用増加に傾き、労働者のあいだに先行きの不安感が広がった。そのため、消費者に正月だからという余裕がなくなり、福袋に対しても要求は厳しくなった。

一方、海外で製造された割安な商品人気、消費性向の多様化、流通業態の多様化などによって、ほとんどの伝統的デパートにおいて、普段の売上げが伸び悩むようになった。そこで、在庫品セールというネガティブな側面のあった福袋を積極的な顧客獲得、売上拡大の手段として戦略転換させることになっていったのである。

しかも、ネット社会の進展で、福袋発売後に掲示板などで、中身の評価が一斉に行われるようになった。今までは買った客と、その知り合いなど、ごく限られた人にしか分からなかったことが、瞬時に多くの人に広まってしまう世の中になった。価格以上の商品が入っていたとしても、売れ残りや不人気商品で埋められていたりすると、そういった福袋はネット上で「欝袋(うつぶくろ)」、「ごみ袋」などともいわれる。

こうなると、福袋を企画する担当者の責任は重くなる。企業のブランド価値、その年トータルの売上をも左右しかねない重要イベントの位置づけになった以上、企画担当者のセンス、アイデア、マーケティング力が問われる。まさに、ものいう消費者との戦いである。

このような時代に福袋の企画は、どうあるべきか。


▼限定感をより際立たせる。

 福袋は限定商品である。それをより際立たせるため、通常ルートでは手に入らない
 プレミアがつくかもしれない商品を同梱する。


▼優越感をくすぐる。
 
 あえて、まだ正式販売されてない、その年の戦略商品を、プロモーションもかねて
 優先的に提供。


▼意外性、偶然性の驚きを演出。

 ファッションなど、自分の意志では購入しないような色、デザインの偶然性が、
 本人の隠れていた魅力を引き出す。気分をリフレッシュさせる。


▼お金では買えない体験型企画を組み合わせる。

 西武百貨店、高島屋、そごうでは、日産『GT-R』の福袋を、2008万円で売り出した。
 福袋は、GT-R本体に加え、ドライビングレッスン、5カラットダイヤモンド、
 シャトーレストラン「ジョエル・ロブション」のディナーがセットになっている。
 ドライビングレッスンは、日産モータースポーツチームのエースドライバー、本山哲選手、
 柳田真孝選手によるプライベートレッスン。茂原ツインサーキットで実車走行や
 プロカメラマンによる撮影などGT-Rの魅力を堪能できるものとしている。


▼お正月のおめでたい気分を、さらに高揚させるような夢のある(ハートに訴える)商品を
 含める。

といったようなところか。


渋谷の109などでは、若者が福袋を手に入れた後に、エントランス前で「福袋交換会」を行うのが恒例となっている。新年の運だめしというギャンブル的要素は薄れてしまうが、より確実な成果を求める人たちは、家族と行くよりも、同世代の友人と連れ立って臨んだほうが、福袋購入後の商品交換が可能になり、それも含めてイベントの楽しみの一つと考えることもできる。

販売店への信頼関係があるからこそ、長時間、行列に並ぶのもいとわない。他方、そうした顧客に満足感を与えるには販売側の工夫もレベルの高さを要求される。福袋は消費者にとって年に1回の祭りのようなものであり、一種の消費レジャーでもある。

評判がよければ、クチコミ、ネットの情報などを介して客が客を呼ぶ相乗効果が以前に増して大きくなっている。福袋商戦の成否は、その後の店舗の売上をも左右する重要な企業戦略の一つとなっている。いうなれば、福袋企画担当者には、エース級の人材を投入しなければならないということだ。

 

【関連情報】

○シブヤ経済新聞 2008/01/02
 渋谷「109」初売りに4万人─福袋目当てに若者集結、「交換会」も
http://www.shibukei.com/headline/4902/index.html


○ヨコハマ経済新聞 2007/12/11
 「そごう、タカシマヤで日産GT-R福袋─2,008万円で販売」
http://www.hamakei.com/headline/2873/


○煩悩是道場 「webサービスの福袋を考えてみる」 2008/01/05
http://d.hatena.ne.jp/ululun/20080105/1199504643


○これきに日記 「福袋のブランド物について」 2007/12/12
http://kore-kini.jugem.jp/?eid=52


○スタバでだららん─ロハスなスターバックスマニア生活
 「スターバックス福袋限定タンブラー」 2008/01/06
http://ameblo.jp/starbucks/entry-10064151192.html


○DesignWorks 福袋の中身をネタバレ「izumo福袋」 2008/01/03
http://designwork-s.com/article/76264781.html

 

 


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