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観光庁新設を意義あるものに 

 今年10月を目途に国土交通省の外局として観光庁が新設されることになった。観光業界にとっては、長年の念願がようやく叶ったというところか。

 世界を見渡せば、観光省や文化観光省を設置している国が数多くあるが、日本は国土交通省の総合政策局の中にある一部門でしかない。

 2003年9月に小泉内閣の石原伸晃国土交通大臣から現在の冬柴鐵三大臣まで国交相が観光立国担当大臣を兼任するかたちが続いているが、道路、航空、鉄道、海事、都市計画、都市整備など多岐に渡る重量級の事業を担当する国土交通行政のなかにあって、観光事業の「軽さ」は否めない。

 観光関係者でない限り、いや観光関係従事者の中にも、「観光庁は本当に必要か?」という意見はあるだろう。不祥事が続いた社会保険庁がいずれ解体されるが、このご時世で、逼迫する国家予算の中から省庁を新設するということは、国民が納得するだけの大義名分と、眼に見える成果や、明確な仕事内容が求められるはずだ。

 そこで件の観光庁だが、観光という仕事内容や成果は、不幸にも傍目には一目瞭然とはいかない分かりづらい仕事なのだ。

 例えば、数億円規模の予算を投じて海外に向けて日本の観光魅力をアピールする。しかし、その宣伝活動が即、観光客の増加につながるかといえば何の保証もない。予想を上回る観光客が訪れる可能性もあれば、まったく効果が出ない可能性もないではない。都道府県など地方自治体にも観光予算なるものがあり、毎年膨大なパンフレットを作ったり、観光宣伝隊が街頭でお祭りのようなイベントを行ったりしているが、戦略的、効果的な観光宣伝費を使っている地域と、おざなりの手法をいつまでも踏襲する地域との差が出ているのも事実。

 仮に、誘客戦略が上手くはまり、一時的に観光客が増えたとしても、喜んでばかりはいられない。観光ブームには流行り廃りがあり、長期的に増え続ける保証はどこにもない。だから、単年度の観光客数の数値に一喜一憂するのではなく、数十年、百年先を見通した長期的な視野に立った観光行政というものが必要なわけだ。その視点からみると、現状の政府の観光行政の体制は十分とは言い難い。

 現在、国土交通省の各局や、経済産業省、中小企業庁、環境省、農林水産省など多くの省庁が、まちづくりや地域活性化、商店街の再生、地域資源の積極活用、文化交流事業、地元農産物による地域活性化などの支援に予算を計上している。そのいずれも数十億円、数百億円という眼も眩む予算規模を投じている。

 一方で、国交省の観光関連予算は、最大で外客誘致促進事業「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の30億円程度。あとは数億から数千万円規模で、他省庁が各々予算として計上する規模に比べると、ケタが一つ、二つ違う。それに、各省庁の予算の重複もあるように思えてならない。それらいずれも地域を超えた交流人口の拡大を意図しており、広義に捉えれば観光振興にもつながる事業内容なのだ。現状では、明確にリーダーシップを取れる官庁が存在しない観光事業がこのまま強力な旗振り役もいないまま、各省庁や民間企業が恣意的な施策を続けていくのは、予算やエネルギーの無駄に思えてならない。

 観光庁という観光に特化した行政機関ができることで、観光地域振興部などが各省庁との調整役を果たすということが可能ならば、多少なりとも支援事業の予算の重複も防ぐことができ、無駄なエネルギーも削減できるのではないかと期待をしている。

 観光はトップセールスの時代に入っている。地域活性化が至上命題である各都道府県知事はメディア等を利用し、自分の県に観光客を誘致しようと懸命である。観光客誘致を重要な柱とする地方行政は急速に増加している。

 国家も同じで、大統領や首相が自国の観光プロモーションビデオに登場して空港や航空機の中で「ぜひお越しを!」と呼びかける。この意味では対外的に知名度の高い文化人や、民間企業人が観光庁長官に就任し、日本の顔として積極的に海外のイベントに顔を出し、日本の文化の奥深さや魅力をアピールするのも一つの手であるが、各省庁との調整を重視し、事務次官クラスが長官になる可能性が高いようだ。
 
 いずれにしても、今年10月には観光庁が100人体制でスタートする。同じ国交省の海上保安庁の2500人体制と比べると、小さな組織でしかない。しかし、たとえ微小な組織であったとしても、「観光庁が新設されることのメリットも大きいのだ」ということを言っておきたい。

 


【関連情報】

○旅館経営道場 ─旅館経営の情報発信
 「旅館経営にとっての2008年」 2008/01/05
http://ryokankeiei.blog114.fc2.com/blog-entry-99.html


○とんみんくん 2007/12
 観光立国目指して「観光庁」誕生でも日本にそんなウリがあるの?
http://tonmin.seesaa.net/article/73512512.html


○イザ! 観光庁新設 「形より中身」と銘記せよ 2007/12/23
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/111411


○ドバイ&ドバイ&イスラム圏 2007/12/22
 「日本政府、観光庁2008年10月発足」
http://blog.so-net.ne.jp/dubainettoursngo/2007-12-22-2

 

 


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