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日本家電メーカーの国際競争力はだいじょうぶか。グローバル戦略を推進する韓国勢との違い。

  • 米国在住ジャーナリスト

 年明けにラスベガスで開かれた世界最大の家電見本市(コーンシュマー・エレクトロニクス・ショー=CES)で目に付いたのは、韓国メーカーの勢いだった。米国依存型の貿易を抜け出し、中国、欧米への輸出機会を増やしている韓国だが、米国市場を相手にするショーで目にした勢いは、日本勢を凌いでいるように映った。

 ショーの開幕に先駆けて行われた、各社の記者発表の先陣を切ったのは韓国のLG電子。朝8時開始という早い時間帯だったにも関わらず、会場は満席。通常よりも大きな部屋で、恐らく1000人前後はいたのではないだろうか。最後列には各社のテレビカメラが並んだ。

 プラズマテレビやLCDディスプレイなど映像機器の新製品ラインナップの説明では、今年の2桁成長を計画。一昨年より300万台多い2,720万台を昨年の米国で販売した携帯電話では、初めて50ドルを切る価格のキーボードつき端末の投入を明らかにした。オンラインDVDレンタル大手のNetflixとの提携や、規格統一に向けた動きが進んでいるモバイル・デジタル・テレビシステムのLG版など、45分間の会見は盛りだくさんの内容だった。

 続けて、パイオニア、東芝、パナソニック、シャープといった日本メーカーの記者発表会が45分刻みのスケジュールで行われたが、どちらかというと地味目。会見内容やパフォーマンスなど全体の印象で比べると、LGに分があるように思えた。唯一パナソニックが、
「生活の中のハイディフィニション」として、総合力を生かした製品発表や取り組みをしたのが目立った印象を残したぐらいだ。

 韓国メーカーの勢いを象徴していたのは午後から行われたサムソン電子の発表。どの社に限らず、記者たちは良い席を狙って開始前から会場前に並ぶため、数十メートルに渡る列ができる。だが、サムソンの会見ではあまりに列が伸びすぎて会場をぐるりと囲んでしまった。

 そして通常ではありえないことだが、半分ぐらいの記者が満席のため発表会に参加できない事態が発生した。発表のあったテレビ向けウェブサービスは、午前中のシャープの会見でも同様のものが発表されたばかりで、特別に注目するものでもない。今年のCESで、入場できないほどの記者が押し寄せた発表会は、知る限りではこのサムソン電子のみだった。

 韓国家電メーカーの米国での注目度をここで力説しても、日本の読者には恐らくピンと来ないかもしれない。国内の家電量販店にはソニー、パナソニック、シャープといった国産メーカーのテレビが並び、携帯電話はやはり日本メーカーのものばかりが目立つ。日本にいる限り、メイド・イン・コリアの電気製品を見つけようとすること自体が困難だからだ。

 しかし、米国の携帯電話ショップで日本製の端末を見かけることはまずない。モトローラやノキアなど欧米メーカーと並んで展示されているアジア製の端末はLG電子。家電量販店へ行けば、薄型テレビやDVDプレーヤーで日本製品を発見できるが、ここでもサムソン、LGといった韓国製品が健闘している。日本製品と比べて価格が安めなのも人気の要因だ。

 2006年の対米輸出総額は、日本が1456億5000万ドルなのに対して韓国は428億4900万ドル。日本の3割弱に過ぎないが、電気機器だけに限ると韓国の輸出額は102億ドルとなり、268億ドルの対日本比で4割近くまで上昇する。自動車が強い日本に対して、韓国の対米輸出品目シェアでは電気・電子機器が首位を占め、家電に強い韓国像が浮き彫りになる。

 ちなみに、電気機器の全世界向け輸出に目を転じるとこの傾向はさらに顕著だ。日本の1382億ドル(前年比4.4%増)に対して、韓国は1207億ドル(同12.4%増)まで迫り、その差はわずか175億ドル。いつ逆転されてもおかしくない。

 韓国家電メーカーは米国で勢いがあるといったが、実は電気機器全体の対米輸出額では2004年の144億ドルをピークに減少している。国を挙げて輸出の多角化戦略を進め、米国依存率を低めていることも背景にある。

 日本メーカーのほうが米国での市場規模で2倍以上勝っているのに、韓国メーカーに注目度が集まるのはなぜなのだろう。日本の総合家電メーカーで経営戦略を担当する知り合いが解説してくれた。

 「人口の少ない韓国では、国内市場だけでメーカーが生きていくことはできず、まずアメリカを主要市場に据えた展開を行います。一方、日本メーカーは国内での競争が激しく、どこも余裕がありません。だから、海外展開は二の次になりがちです。その差が現れるのです」。

 なるほど。でも、それでは3億人を超える人口を抱える米国市場をみすみす明け渡しているようにも思えるが・・・。

 「その通りです。グローバルな米国市場で成功するということは、世界で成功する近道になるのですが、日本メーカーの思考は実はかなりドメスティック(内向き)で、なかなかそれを実行できるところは少ない。始めからグローバルな視点で製品開発を進めているソニーやキャノンなどは特別な存在です」。

 日本メーカーの技術力は、依然として世界一だと思う。あれだけの多機能携帯電話や、重さ1キログラムを切りながら10時間近く駆動できるノートブックパソコンを作れるところは、世界中探しても日本メーカー以外にない。それが、お家の事情で国内市場にとどまっているとしたら、なんとももったいない話ではないか。

 携帯電話メーカーの国際競争力低下は国内でもすでに問題になっているようだが、それだけでは済まない侵食作用が急速に始まっているのをひしひしと感じる。日本は部材には強いが、消費者向け製品には弱いということも耳にした。それは詰まるところ、マーケティング戦略の弱さでもある。この弱点は昔から言われ続けてきているにも関わらず、一向に改善されたように見えないのにも困ったものだ。

 


【関連情報】

○MediaSabor  2008/01/17
 「ブロガーを取り込み始めた世界最大の家電見本市CES 2008」
http://mediasabor.jp/2008/01/ces_2008.html


○キャズムを超えろ! 2007/12/16
 「松下電器を退職してネット家電を企画販売するベンチャーを起業」
http://d.hatena.ne.jp/wa-ren/20071216/p1


○FPN  2007/11/06
 「GoogleによるOpenSocialはネット家電にとって福音となる」
 家電メーカーの視点からみると、複数コミュニティを渡る統一APIが
 整備されるのは喜ぶべきことである。従来のSNS各社が独自APIを持っている
 状態では、いずれか1社のSNSサービスの去就に商品(家電)の運命を委ねる
 ようなものだったからだ。
http://www.future-planning.net/x/modules/news/article.php?storyid=2827


○雑種路線でいこう『ウェブ国産力』を読む 2008/01/20
 日本には今も昔も優秀な技術者がいる。戦後日本の企業は彼らが存分に
 活躍できる場を与え、家電産業も自動車産業も世界を席巻した。なぜIT特に
 ソフトウェアでは世界進出が難しいのか。経済の成熟が問題なのか、
 ソフトウェアやサービスの参入障壁が低いこと・フラット化が問題なのか、
 天才を伸び伸びと育てられない教育の問題なのか、理由はきっと複合的なのだ。
http://d.hatena.ne.jp/mkusunok/20080120/nwp


○玲瓏「ウェブ国産力 日の丸ITが世界を制す」2008/01/19
 日本のIT業界の歪な構造の是正こそ政府には是非進めてもらいたい。本書の中では、
 新しいネットベンチャーの登場や90年代後半に終身雇用制が崩れたことにより、
 状況は改善されつつあるとしているが、逆にドットコムバブル崩壊のトラウマが
 いまだ残っていて、優秀な人間がそもそもコンピュータサイエンスに興味を示さなく
 なっているという事実もある。3Kと呼ばれる土建屋のような業界構造も嫌われる理由だ。
 いかに魅力的な業界であるかをわれわれは結果を持って示していかなければいけない。
http://takuyaoikawa.blogspot.com/2008/01/it.html


○広告ウーマン★広告が分かれば、オンナが分かる 2007/07/27
 「情報大航海プロジェクト。コラボ企業とそのプロジェクト内容とは?」
 プロジェクトでは、いろいろな会社が持つ、いろいろな技術を一緒につなげて、
 1)プライバシーに配慮した新たなパーソナルサービス、
 2)新たなコンテンツアクセス技術が産み出す次世代ウェブサービス、
 3)社会インフラのIT化による新たなソーシャルサービス――の3つの
 先進的サービスの実現を目指しています。最終的には世界をリードする技術や
 サービスを提供していきます。
http://ad.onnagokoro.net/?eid=615316


○fladdict.net blog 2007/01/14
 「iPhoneは携帯でも音楽プレイヤーでもないし、Appleは家電屋じゃあない」
 「タッチスクリーンは何のためにあるのか?なぜあえて選択をしたのか?」と
 いうのが、iPhoneを見極めるポイントではないかと考えた。
http://fladdict.net/blog/2007/01/iphoneapple.html


○ITmedia News 「Samsung、日本の家電販売から撤退へ」  2007/11/09 
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0711/09/news025.html


○ITmedia News  2007/08/04
 「世界携帯端末出荷台数、SamsungがMotorolaを抜いて2位に――IDC調べ」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0708/04/news009.html


○CNET  2007/06/01
 「巨人ノキアのお膝元、日本とは顔ぶれ異なる携帯電話機」
http://japan.cnet.com/column/europe/story/0,3800077429,20349464,00.htm

 

 


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