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シンガー・ソングライター(SSW)の源流 ジェイムス・テイラーが集大成ライブ・アルバム『ワン・マン・バンド』発表

  • レコード・コレクターズ 編集部
  • 祢屋 康

 アメリカのシンガー・ソングライター、ジェイムス・テイラー(James Taylor)のヒア・ミュージック移籍第1弾アルバム『ワン・マン・バンド』(CDとDVDの2枚組)が12月に発売された。以前、ジョニ・ミッチェルのアルバムを紹介したときに触れたけれど、ポール・マッカートニー、ジョニに続くヒア・ミュージック(スターバックスとユニバーサルが共同で設立したレーベル)からの第3のアーティストとしての登場だ。

 ジェイムス・テイラーはビートルズのアップル・レーベルから68年に最初のアルバムを発売しているように、ポール・マッカートニーとも初期から交流があり、さらにはこの『ワン・マン・バンド』のMCで自身がしゃべっている通り、ジョニ・ミッチェルとも恋人だったというから、彼らと同じレーベルの第3のアーティストとして登場するというのにも何か不思議な縁を感じてしまう。

 今回の『ワン・マン・バンド』は代表曲を収録したライヴ・ベストとも呼べる作りになっているが、昨年7月にマサチューセッツ州バークシャーのコロニアル・シアターで行なわれた40年のキャリアを回顧するコンサートを収録したもので、“ワン・マン・バンド”というタイトルから想像される通り、彼のギターとヴォーカルを中心に聞かせる。曲によってピアノやアコーディオンでラリー・ゴールディングスが加わったり、ビデオで収録されたバック・コーラス(奥さんの仲間の合唱団の人たちによる)が入ったり、大掛かりな機械仕掛けのドラム・マシーン(?)が登場したりと、少ない音数ながら趣向も凝らされている。

 ジェイムス・テイラーが「ファイアー・アンド・レイン」「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」といったヒットを出したのは70年代初頭のこと。60年代末の“ウッドストック”を中心としたカウンター・カルチャーの嵐が吹き荒れた、混沌とした時代からの転換点に、友人の死をある種の諦念と希望をもって歌った「ファイアー・アンド・レイン」がヒットした。

 それはまた彼の個人的な体験が反映されたものでもあった。17歳で精神科に入院したり、その後、バンド活動をしようと出てきたニューヨークで薬物中毒になってしまったりした彼自身も“火と雨”をくぐり抜けてきていた。そんな個人的な体験を普遍化して歌う“シンガー・ソングライター”が70年代初頭に大きな話題となり、ジェイムス・テイラーはそのムーヴメントを代表するアーティストとして71年には『タイム』誌の表紙も飾った。

 70年代から現在に至るまでの曲から選ばれたこのアルバムには、「ファイアー・アンド・レイン」のほかにも「マイ・トラヴェリング・スター」や「シャワー・ザ・ピープル」「ライン・エム・アップ」など、ゴスペル的というと言い過ぎかもしれないが、静謐でありつつも力強く、感情がかき立てられるような曲がいくつもある。それらにあるのは「ファイアー・アンド・レイン」と共通するようなこの人ならではの味わいだ。自身のギターと歌もいつも通り、独特のソウルフルさを湛えて説得力にあふれている。

 同じ内容が収録されたCDとDVDが入っているこのアルバムだが、DVDには曲間のMCがノーカットで収録されており、自身がユーモアも交えて曲にまつわるエピソードを紹介しているのがまた面白い。ステージ後方にスクリーンが用意され、そこに関連した写真を映し出しながら、そんなことまで言っちゃっていいの、とこちらが心配になるほどの開けっぴろげな感じで、ざっくばらんに曲を紹介する。その飾り気のなさがまたこの人の魅力でもある。

 ポール・マッカートニーやジョニ・ミッチェルのアルバムとは違って、純粋な新作ではないということで当初はちょっと残念な気もしていたのだが、DVDも見終わってみると、ジェイムス・テイラーの魅力を新たなファンにまで届けようとするヒア・ミュージックの戦略(?)にこちらもうまいこと乗せられていたのだった。

 


【関連情報】

○River Phoenix - Fire And Rain(YouTube映像 03:33)
http://jp.youtube.com/watch?v=--ZdQcvNKpg


○Pixar 「Cars」 - Our Town(YouTube映像 03:25)
http://jp.youtube.com/watch?v=mUxACOJiz2c


○ジェームス・テイラー 公式サイト
http://www.jamestaylor.com/


○ジェイムス・テイラー特集【OnGen:国内最大級の音楽ダウンロードサイト】
http://lounge.ongen.net/international/artist/feature/james_taylor071212/index.php


○ジェイムス・テイラー・スペシャル
 よく考えてみると、自分が一番レコードを聴いていた時期が1970年代で、
 その頃のアコースティック・ギター・ブームの火つけ役は間違いなく
 ジェイムス・テイラーだったような気がしています。
http://www.jah.ne.jp/~ishikawa/jt.html


○あ─斧がっ、しゅっ!!「ジェイムス・テイラー(その6)」2007/12/21
 特筆すべきなのは、JTのMCが大々的にフィーチャーされていること。
 JTのMCはファンの間では定評がありましたが、日本語訳を交えてしっかりと
 堪能できる映像作品は、これが初めてのはずです。たかがお喋りと言うなかれ。
 ウィットに富んだJTのMCは、これがまた素晴らしいのなんの。
http://blog.livedoor.jp/kaninu_xes/archives/50789677.html


○名盤紹介の館 James Taylor「One Man Band」2007/11/28
 普通一般的なアルバムは、この類のDVDは「おまけ的」存在なんですが
 この盤のDVDは違います!! おまけではありません!むしろこっち(DVD)が主役!
 全曲収録!! このライブ盤は絶対に映像で見て聴くべしです。絶対に。
 ・JTが本当に唄うことを心から楽しんでいる様子。
 ・会場であるコロニアルシアターの実にいい雰囲気。
 ・観客全員が「コンサートに来てよかった」と思っている表情。
http://seagulls.blog10.fc2.com/blog-entry-328.html


○趣味的音楽生活 「JAMES TAYLOR/ONE MAN BAND」2007/12/08
 ジェイムス・テイラーのライブ盤と言えば、これまでは93年にコロムビアから
 発表された2枚組や、98年のDVD『Live At the Beacon Theatre』など、
 コーラス隊を含む大所帯のバンド編成で収録されたものが多く、息の合った
 鉄壁のアンサンブルが印象的だったが、今回はそれらとはガラリと趣向を
 変えたところに妙味がある。日本盤のライナーでも言及されているが、編成が
 小規模になったからといって、歌のスケールが小さくなったわけでは決してない。
http://dwarnebula.blog25.fc2.com/blog-entry-16.html


○MONOmonologue 「SSWといえばJTでしょう」 2006/02/12
 「SSW」とは「Singer Song Writer」の略。そして「SSW」といえば
 「JT」、James Taylor。一般的にはシンガーソングライターって死語でしょうね。
 言葉からは、ユーミンとか山下達郎あたりがイメージされるのでしょうか?
 私的にはダンゼン、ジェームス・テイラーやキャロル・キングなどが思い浮かびます。
 カテゴリー的には、70年代前半に登場した自作の楽曲に内省的な歌詞を乗せて
 アコースティックなアレンジを施し自分で唄う人、ぐらいなかんじでしょうか。
 ジェームス・テイラーといえば4枚目の「One Man Dog」が素晴らしい。
http://mono-mono.jugem.jp/?eid=69


○Keith Yoshidaの新・飯がわりに1枚!「名盤/ジェイムズ・テイラー」2007/11/29
 ジェイムズ・テイラーこそ、今じゃ、アーティストと呼ばれる人種に付きものの、
 自作自演、そうそう作詞作曲に歌も、っというシンガー・ソングライターの
 代名詞的存在の人。彼が71年に発表したアルバム「マッド・スライド・スリム」は、
 彼を代表する作品と共に、あの時代に大いに盛り上がったシンガー・ソングライター
 達の代表作を並べる時に、必ずといっていい程、そこに並ぶ名盤の1枚だ。
http://ch11532.kitaguni.tv/e446606.html


○日々是好収集 「ジェイムス・テイラー ワーナー紙ジャケ」2006/12/28
 『スウィート・ベイビー・ジェイムズ』と『マッド・スライド・スリム』を購入。
 これはどちらか1枚というわけにはいかなかったね。1枚だけ買っておいて在庫切れ
 になったら、きっと後悔するだろうから。この2枚だと「きみの友だち」収録の
 『マッド・スライド・スリム』の方が好きです。だけど名盤と言われているのは
 『スウィート・ベイビー・ジェイムズ』か。
http://soundbeat.exblog.jp/5215766/


○♪♪ まいんど・げーむす ♪♪
 「ハンディ・マン:ジェイムス・テイラー」 2007/04/28
 「ハンディ・マン(Handy Man)」は、ミディアム・テンポで語りかける
 ように歌う。「JT」は、70年代フォークの名盤だろう。「きみの笑顔
 (Your Smilin' Face)」もよい。
http://plaza.rakuten.co.jp/mindgames/diary/200704280000/


○Journey2Past 「Running On Empty - Fire and Rain」2007/11/04
 Running On Emptyといってもジャクソン・ブラウンじゃなくて、
 シドニー・ルメット監督リバー・フェニックス主演の映画「旅立ちの時」の方。
 この映画の中の重要な場面とラストでも使われているのがジェイムス・テイラーの
 「ファイヤー・アンド・レイン」。映画館では観る事ができなかったけどその後
 深夜TVでも放映され、DVDをレンタルし、その度に胸が締め付けられるほどの
 切なさにいたたまれなくなる映画と曲です。
http://journey2past.blogspot.com/2007/11/running-on-empty-fire-and-rain.html

 

▼ジェームス・テイラー以外のSSW系アーティスト

○シンガー・ソングライター特集:ジャンル虎の穴
【OnGen:国内最大級の音楽ダウンロードサイト】
 反体制運動やヒッピー・ムーブメントなどの盛り上がりが終焉を迎えた70年代の
 初めに、政治や反戦のことではなく、ごく個人的な歌を歌うシンガーが登場し
 人気をさらう。ジェイムス・テイラーである。「ファイアー&レイン」や
 「君の友達」をヒットさせ、「君の友達」の作者であるキャロル・キングも、自らの
 『タペストリー』という歴史に残るロングセラー・アルバムを生み出した。
 この二人の活躍から、“シンガー・ソングライター”が注目されはじめ、70年代の
 ポップ・ミュージックの大きな潮流となる。
http://www.ongen.net/international/serial/tigerhole/singer_songwriter/index.php


○地味音楽の小部屋  2006/11/17
 正統派アメリカンSSWの系譜 Josh Ritter 「The Animal Years」
 この印象的なジャケットはもう何度もあちこちで目にしていたし、
 萩原健太さんのサイトなど信頼の置ける筋での評判が高かったのも知っていた。
 でも、特にこれといった理由もなく後回しにして買っていなかった。手に入れた
 のはつい最近。…危うくこんなすごいアルバムに出会い損ねるところだった。
http://yasjimi.seesaa.net/article/27698355.html


○素晴らしき音楽との出会い 「BILL STAINES/SAME」2007/05/10
 コラム:SSW(シンガー・ソングライター)

 シンガー・ソングライターが団塊の世代を中心に今、再び静かなブームのようだ。
 1970年代に日本のみで異常なブームとなったシンガー・ソングライター。世界的に
 見ればジェームス・テイラーやキャロル・キングの大ヒット曲や名盤が
 シンガー・ソングライターというジャンルのようなものを築いたと思うけど、
 日本でのブームはちょっとマニアックな部分が多かったように思う。
 ジェシ・ウインチェスター、エリック・ジャスティン・カズ、ジェシ・デイビス、
 トニー・コジネック、ブルース・コバーン、カレン・ドルトン、サミー・ウォーカー、
 ジョン・サイモン、ピーター・ゴールウェイ、ボビー・チャールズ、ロッド・テイラー、
 ドン・ニックス、ダン・ペン等その当時人気の高かったアーティストを
 アット・ランダムに書き上げてみるとかなりの数に上る。
http://blog.diskunion.net/user/uncledog/tapestry/category_497.html


○La Belle-海外DIVA Blog「UKの若き新星SSW、Belle登場!」2006/11/22
 UK出身、現在16歳のシンガー・ソングライター、Belle.
 Massive Attack, Madonna, Beth Orton, Kate Bush, Joni Mitchellなど、
 割と古い年代の音楽に影響を受けたという彼女の奏でる音世界は、同じ
 年代のティーンエイジャー達の音楽とは明らかに趣が違う。
 商業的な音楽が多い昨今、新風を巻き起こす次代の逸材だと思う。
http://la-belle.jugem.jp/?eid=146


○プレイリストから新たな音楽を発見する[MUSIC SHELF]
 「2007年的SSWの薫り」 selected by Saigenji
 現在の音楽市場って完全に飽和状態じゃないですか、そんな中でもの凄く
 プロデュースされたものより、アーティストの「素」が出た音楽の方が
 今の気分じゃないかなと思うんです。
http://musicshelf.jp/playlist/704274

 

 


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