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ネットで無料公開した電子書籍が100万部を超えるダウンロード。印刷本の売上にも貢献。

  • 米国在住ジャーナリスト

 アメリカで人気の女性ファイナンシャルアドバイザーが、自身の著作をインターネット上で無料配布したところ、100万部を超えるダウンロードが行われて話題になっている。こうしたアプローチは、究極のプロモーションツールとなり得るのだろうか。

 話題となった本は、スージー・オーマンさんが書いた「ウーマン・アンド・マネー」。女性がどのように資産運用をしていくべきかを説いたもので、副題には「あなたの運命をコントロールするための力を所有する」とある。新刊ではなく、すでに昨年2月に出版されている。

 オーマンさんは人気トークショー番組の「オペラ・ウインフリー・ショー」に出演し、同書を同番組のウェブサイト上で33時間の間、無料配布できるようにすると告知したところアクセスが殺到。100万部以上のダウンロードが行われた。番組によると、英語版が110万部、スペイン語版が1万9000部ダウンロードされたという。

 これらはお試し版ではなく、中身は販売されている印刷本と同じもの。33時間が過ぎてもずっと読める。印刷本との違いは体裁だけ。ちなみに本の内容は272ページあり、定価24.95ドルで売られている。

 オーマンさんについて少し説明すると、1951年にロシア系ユダヤ人の移民の子としてシカゴで生まれた。大学卒業後、カリフォルニア州バークレー市のレストランでウエイトレスとして働き、そこで知り合った客の一人から、彼女の夢でもあったレストランの開業資金として5万ドルを借り受けることになる。

 資金を一旦メリルリンチに投資したところ、ストックブローカーとのトラブルからせっかくの資金を失ってしまうことになる。その経験からファインスと投資について学ぶ決意をし、メリルリンチに職を得て、最終的には証券会社の副社長にまでなる。退職後にはファイナンシャルプランニング会社を立ち上げ、同時にファイナンスに関する執筆活動を始めた。現在までに7冊を出版し、「ウーマン・アンド・マネー」は、最近出された本。

 今回の時間限定ネット配布は、番組出演にタイミングを合わせ、著作の宣伝を兼ねて行われたもの。結果として空前のダウンロード数を記録し、プロモーションは成功したことになる。ただ、人々の大きな関心は、すでに発売されている印刷本への影響だろう。体裁が違うとはいえ、同じ内容のものをネットで無料配布してしまったら、印刷本を購入する人がいなくなってしまうのではないだろうかと。

 アマゾンドットコムで確認してみると17日現在、同書の人気はベストセラーの2位。前日にAP通信が報じた記事では6位と伝えられていたので、順位は上昇している。もともとこの本は、同サイトの2007年読者人気ランキング上位100位に入るなど話題性の高い本だったが、ネット上で無料配布されたことがきっかけとなり、さらに人気を高めたようだ。

 この結果を見ると、無料配布という手法で話題性を出し、印刷本の売上増につなげる戦略は見事に成功したようだ。時間内に入手できなかった人々が印刷本の購入に走ったと考えられるほか、ダウンロードした人でも、きちんとレイアウトされた本の体裁で読みたいと思う人が購入したと見られる。

 出版本とネット無料配布の二本立て戦略を取るケースは、たまにある。有名なのが2001年9月11日に起きた同時多発テロ事件の公式報告書である「9/11 委員会報告書」。PDF形式で585ページに渡る全編がネット(http://origin.www.gpoaccess.gov/911/)から無料入手できるが、印刷本も19.95ドルで発売されている。当時、印刷本はベストセラーになった。

 こうしたことを例に挙げて、ネットでの無料配布が印刷本の市場を奪うことにはならないと指摘する声もある。ダウンロードバージョンを利用するのは、少々体裁的に見づらくともすぐに内容を確認したい人たちで、印刷本を買う人たちとは層が違うとの見方だ。

 確かに一理ある。自分の場合でも、きちんと読みたいときや、長く保存しておきたい場合には印刷本を購入する。電子ブックだとハードディスクに保存したままで再読しないケースが多いし、紙代やインク代を考えるとプリントアウトするのもコストがかさむからだ。

 


【編集部ピックアップ関連情報】

○メディア・パブ 2007/11/12
 「激変する広告業界,今後5年間のシナリオは?」
 広告業界は激動の時代に突入したようだ。過去50年間の変化を上回る
 地殻変動が,これからのわずか5年の間に,広告業界に訪れると
 IBMが予測している。
http://zen.seesaa.net/article/65703912.html


○CNET  2008/02/20
 ネット広告費が雑誌広告を抜き去る、電通発表「2007年日本の広告費」
http://japan.cnet.com/marketing/story/0,3800080523,20367761,00.htm


○CNET  2007/09/18
 「次世代型広告マンの育成プロセス」
 「インターネットの登場で、ビジネス環境は大きく変わるのだろうが、
 従来のビジネスモデルも生き残るのか、生き残るとするとどの程度
 なのか……。このままやっていけるものなら、せっかく創ったビジネスモデル
 をわざわざ自ら壊すこともないし……」これが、業界の素直な気持ちである。
http://japan.cnet.com/column/netad/story/0,3800075540,20356570,00.htm


○ITmedia アンカーデスク 佐々木俊尚  2008/01/05
 「マスメディアとインターネットの対立関係は、どこへ向かうのか」
 2007年は国内外でマスメディアとネットの関係に変化が見られた年だった。
 とはいえさらに先に進む米国メディアとあまりに動きの遅い日本メディアの
 差は広がるばかりだ。何が起きつつあり、何が問題なのか、2008年以降に
 向け何をすべきなのか。
http://www.itmedia.co.jp/anchordesk/articles/0801/05/news007.html


○ITmedia News  2007/11/06
 「低コスト・CGMで世界に発信──ユニクロのWeb戦略」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0711/06/news053.html


○エキサイト ウェブアド タイムス 2007/12/04
 「マス広告に頼らない現在形ブランディング―illumeの画期的リニューアル」
 2007年9月1日、MAX FACTORのスキンケアブランド「illume」のサイトが
 リニューアルを果たした。画文家・大田垣晴子さんのほっこりした
 イラストで綴る「365日・絵こよみ」を毎日更新、メールマガジン発行、
 ブログパーツ配布など、意欲的な試みを多角的に展開。従来まで行って
 いたテレビCMなどのマスマーケティングから、Web、雑誌を中心とした
 マーケティングへスムーズにシフトした。その結果――サイトの
 トラフィックは3倍増。
http://www.excite.co.jp/webad/special/rid_1051/


○ある編集者の気になるノート 2006/08/11
 「夏の文庫キャンペーン、キャッチコピーだけ見たら新潮社のひとり勝ちだ!」
http://aruhenshu.exblog.jp/4312631/

 

 


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