Entry

ポピュラー音楽史に輝く名作曲家バート・バカラック 東京公演2008

  • レコード・コレクターズ 編集部
  • 祢屋 康


『バカラック・ベスト─生誕80年記念スペシャル』


 アメリカの作曲家、バート・バカラック(BURT BACHARACH)の11年ぶりの来日公演が2月16、17日と東京国際フォーラムで行なわれた。今回は80歳のメモリアル・コンサートとのことで、日本の東京ニューシティ・オーケストラと一緒に、東京で2回、相模原、大阪で1回ずつの公演となった。

 以前、ご紹介したロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ(http://mediasabor.jp/2007/12/aor40.html)と同じく、バート・バカラックも90年代の渋谷系ムーヴメントで改めて大きく再評価された一人だが、もちろん60年代からアメリカのポピュラー音楽史に残る大ヒット・メイカーであり、ずっと前から多くのファンをもつ名作曲家として評価されてきたのはみなさんご存知の通りだろう。

 会場には年配のお客さんも多く、僕が見た17日の公演は、1階席は奥までびっしり一杯で、その人気のほどが窺えた。

 ポップスのコンサートでは珍しいオーケストラのチューニングに続いて、アメリカから同行してきたバンド(ヴォーカル/コーラスの3人やサックス、トランペット奏者も含む)とオーケストラが「世界は愛を求めてる」を演奏する中でバカラックが登場、コンサートは始まった。

 まずは60年代のディオンヌ・ワーウィックやハーブ・アルパート、ダスティ・スプリングフィールドらのヒット曲(「ウォーク・オン・バイ」「ジス・ガイ」「恋よ、さようなら」「ウィッシン・アンド・ホーピン」などなど)をメドレーで披露。次々と繰り出される有名曲の雨あられ、10曲以上のヒット・ソングのメドレーにまず圧倒される。これだけ惜しげもなくヒットをメドレーにして、後でやる曲がなくなるんじゃないか、と同行していた妻が言っていたけれど、そんな心配はもちろん無用だった。

 ちなみに、90年代にバート・バカラックの再評価が進んだのは日本だけではなかった。映画『オースティン・パワーズ』(第1作は97年公開)シリーズへのカメオ出演やバカラック・ナンバーの大フィーチャー、98年にはエルヴィス・コステロとの新作アルバム『ペインテッド・フロム・メモリー』(収録されている「ゴッド・ギヴ・ミー・ストレングス」は、先に96年の映画『グレイス・オブ・マイ・ハート』に書きおろしたもので、大きな話題をまいた)を発表と、バカラックの話題が途切れることはなかった。そんな中で前回の来日公演も97年に行なわれている。

バート・バカラック&エルヴィス・コステロ  『ペインテッド・フロム・メモリー』

 ノーネクタイの白いシャツにスーツといういでたちのご本人のカジュアルなMCなどをはさんで、その「ゴッド・ギヴ・ミー・ストレングス」も披露され、同行した3人のシンガーのうちの一人、ジョン・パガーノが見事に歌い上げた。この人はパンチのある歌声で、後で歌ったトム・ジョーンズの「何かいいことないか、子猫ちゃん?」もぴったり合って、印象的だった。

 その後も「僕ではない人が書いた曲に聞こえるかもしれないけれど…」と最初期のヒット4曲を続けて演奏したり、05年に発表したヒップ・ホップのトラックメイカーらとも組んだソロ・アルバム『アット・ディス・タイム』からのナンバーを聞かせたり。オランダの人気シンガー、トレインチャ(バカラック作品を集めたアルバムを2枚出していて、バカラック本人も参加)がサプライズ・ゲストとして登場し、端正な歌声を聞かせたりと盛り沢山でコンサートは進行していった。

バート・バカラック 『アット・ディス・タイム』

 最も印象的だったのは終盤に入って、バカラックが自身の歌声を少しずつ披露してくれたこと。今回はやらなかったが、彼の歌う「ハスブルック・ハイツ」という曲が好きで、いわゆる作曲家の歌という範疇なのかも知れないが、若干ハスキーな感じの声で、メロディを短く切りながら独特の情感をかもし出すその歌声をゆっくり聞きたいと思っていたからだ。

 たぶん最も有名な曲の一つである「雨にぬれても」、そしてピアノを弾きながらゆっくりとつぶやくように歌った「アルフィー」、それに続けてサックスがメロディを取った後、語るように一節聞かせた「ア・ハウス・イズ・ノット・ア・ホーム」はジンときた。

 中盤で披露したまっさらの新曲「フォー・ザ・チルドレン」(オーケストラをフィーチャーした美しいインストゥルメンタル)は公演直前まで準備したらしく、「間違ってすみません。オーケストラには責任はない」とMCで言っていたが、仕事への熱意はまだまだ衰え知らずという感じのようだ。今年に入ってから楽しみに待っていた、バート・バカラックの4度目の来日コンサートは期待に違わぬ実に素晴らしいものだった。

 

 余談だが、昨年、この欄でご紹介したフランスの歌手、アンリ・サルヴァドール(http://mediasabor.jp/2007/05/post_86.html)が2月13日に90歳で亡くなった。この場を借りてご冥福をお祈りしたい。


【編集部ピックアップ関連情報】

○大貫妙子 「2月17日 バート・バカラック東京公演」 2008/02/19
http://onukitaeko.jp/blog/category/diary/post_38/


○パーカッショニスト/作曲家 尾方伯郎 Takero Blog
 「バート・バカラック in 東京2008」 2008/02/17
 バート・バカラックの来日公演を観てきました。大感動でした。
 これまで見たライブやコンサートの中でもベスト3に入ります。
 (他の二本は、1989年のパット・メセニー・グループと、2007年の
 エグベルト・ジスモンチです。次点:1995年のPMG。)
http://ogat.blog8.fc2.com/blog-entry-981.html


○新 LANILANIな日々「バート・バカラック@東京国際フォーラム」2008/02/17
 あの大きなホール全体があったかい雰囲気に包まれたのを感じました。
 ホールを出て駅に向かいながら、今夜一緒にあのライブを観た大勢の
 人のひとりひとりの心に灯火がともったと思いました。音楽ってすばらしい!
http://yossina.exblog.jp/8252423/


○ぶっとんだ音像字  2004/11/08
 「PAINTED FROM MEMORY/
 ELVIS COSTELLO WITH BURT BACHARACH」
 凄く静かで情熱的な曲が詰まっていた。全て恋のうた。
 バカラックのピアノが素晴らしい、コステロの声が素晴らしい。
 曲のアレンジはバカラックが担当で、ピアノ、ストリングス、ホーンを
 中心にして本当に心地よいサウンドを造り出している。コステロの声
 にはこれしか無いという名アレンジ振りである。
http://blog.livedoor.jp/lenmac/archives/9055672.html


○タナカ・ミドリのミュージック・ライフ・カフェ
 「アルフィーを作曲したバート・バカラックはすごい!」2007/08/18
 1966年に製作された映画『アルフィー(Alfie)』のエンディング曲
 としてバート・バカラックが作曲、シェールの歌によってヒットした
 ようです。そしてジャズ界の大御所、ソニー・ロリンズがこの映画の
 音楽担当をしているというから、すごい!!
http://musiclesson.jp/midori/2007/08/post_146.php


○BYRD'S SELECT MUSIC  2005/10/13
 「“Goin' Back :The Very Best Of Dusty Springfield”Dusty Springfield 」
http://blog.livedoor.jp/nktk46/archives/50113842.html

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/575