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米国カリフォルニアの司法試験事情━ 高額な授業料でも専門の補習校人気

昨年の終わり、カリフォルニア州の司法試験の結果が発表された。結果は過去五年間で最高の56%の合格率となった。今期は4570人の新米弁護士が誕生したことになる。

米国の司法試験は各州によって行われ、全国共通の弁護士資格というものは存在しない。カリフォルニア州の司法試験(BAR EXAM)は、全米でも最も難関とされており、半分以上の合格者を出した事は特筆に価する。

無念の涙を呑んだ約4000人の不合格者は、半年後の試験に挑むわけだが、そこでクローズアップされているのが、ロースクール卒業生のための補習校だ。すでに卒業してしまっているのだから、大学の授業は受けられない。(受講可能な大学もあるが)かといって、独学で一年間を過ごすのも効率が悪い。

そこで司法試験専門の補習校が注目されるわけだが、その人気はここ数年うなぎのぼりだ。どのプログラムにも共通しているのが高額な授業料だ。3000ドル程度の通信教育から、6週間の授業で一万ドル以上という、ロースクールを上回る金額を請求する学校もある。その費用の高さから敬遠されるのではないかと思いきや、高額な補習校ほど人気が高いそうだ。カリフォルニアでは大手のものだけで、20社以上の補習校サービスがあるが、その殆どが大盛況、プログラムの増強をもくろむ学校も多い。 

司法試験補習校の人気が上昇した一因に、合格の可能性を少しでも高めようとする現役の学生による受講が増えている事が挙げられる。日本では法科大学院の学生が予備校に通う事はまだ珍しいが、米国ではここ数年急上昇しているという。一クラスを20名の学生に限り、一万二千ドルという授業料を設定したある補習校は、合格率80%という数字を打ち出して生徒を募っている。こうなると本家であるはずの法科大学院の面目も危うい。

補習校の存在には賛否両論となっている。法科大学院の名門として知られるUCLAのリチャード・サンダー教授は、補習校の効果には懐疑的だ。「法科大学院での成績がもっとも重要である事は、統計でも明らかだ。法科大学院での成績が良い学生は、当然司法試験を突破する確率も高い」

しかし、補習校の効用は大きいという主張も多い。現役では合格しなかった法科大学院の卒業生が、名の通った補習校に通ったおかげで合格したケースは多い、と語るのは、司法試験専門の学習コンサルタント。「過去問題の分析から、新しい傾向まで、豊富なデータを分析した授業は法科大学院には出来ないものだ」という。

確かに、こうした受験テクニックは、法科大学院の主要な目的ではないだろう。 “裏技”を教わることによって、難関を突破できる可能性が高まるならば、大枚をはたいて補習校に通おうとする学生の気持ちも理解できる。

こうした流れ全体に警鐘を鳴らす関係者も少なくない。ある法科大学院の教授は、補習校の存在自体には何の意見も持たない、と前置きしながら、「法科大学院の目的は、良い法曹を育てる事以外にないはずだ」という、最も至極な意見を述べている。法科大学院で教えるのは法の精神であって、受験についての問題は二の次、というのだ。

とは言え、5万ドルから8万ドルという学費を捻出して(その多くは学生ローン)法科大学院を卒業した学生にとっては、これも空虚な理想論にしか聞こえない。合格しなければ貴重な時間も含めた投資がすべてパーになってしまうのだから。かくして、大手の補習校の需要はますます高まるばかりである。いかにも合理主義の米国らしい話だが、米国の法科大学院をモデルにした日本が、これに追随していくのかどうかは、興味をそそられるところである。

 

【関連情報】

○梅田望夫 My Life Between Silicon Valley and Japan
 「法科大学院での特別講義」 2007/11/25
 法律にたずさわる仕事をする人には、「人間への強い関心」を持つことが
 不可欠ではないかなと思ったのです。
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/20071125/p1


○GIGAZINE  2006/12/20
 「巨大企業から訴えられた場合になどに備え、いい弁護士を選ぶ方法」
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20061220_lawyer/


○町弁(まちべん)のひとりごと
 「司法修習生の就職活動が様変わりした?」2007/06/07
 司法試験に合格した後,裁判官・検察官・弁護士になる前に,司法修習という
 研修期間があるわけですが,弁護士になろうとする人は,その間に,自分が
 入る法律事務所を決めます。そのこと自体は,はるか昔も現在でも同じ
 なのですが,司法試験合格者が増加して弁護士の就職難が言われている昨今,
 司法修習生の就職活動はどのように変わったのでしょうか?
http://lake.269g.net/article/4398724.html


○黒猫のつぶやき 2008/01/02
 「司法試験予備校が廃れる原因は・・・?」
 現行制度に対する不満は,むしろマクロ的な視点で言えば「このままでは
 法曹界全体がぶっ壊れる」,ミクロ的な視点で言えば「司法制度改革のせいで,
 まともな新人弁護士が取れず事業拡大ができない。どうしてくれる。」
 といったところにあります。
http://blog.goo.ne.jp/9605-sak/e/6d0dbc104a97afaec1438fa47ea2b38e


○黒猫のつぶやき 2007/09/20
 「弁護士開業の難しさ」
 アメリカでは、サブプライムローンの問題でM&Aの件数がかなり減少している
 ようですが、この影響が日本にも波及してきたら、M&Aの仕事をしている
 日本の弁護士さんたちは一体どうするのだろうと、思わず考えてしまいます。
 M&Aに代わる「花形」の仕事など、急には見つけられるものではありませんし。
http://blog.goo.ne.jp/9605-sak/e/ba9a4dc5819defe7ed507f208669c74a


○弁護士のため息  「ロースクール生の悲劇」 2006/07/26
 私が今学生だったら、絶対に弁護士をめざさないだろう。とてもじゃないが、
 投下資本や投下労力に見合うだけの生涯所得や社会的地位が期待できないから
 である。よほどの高額給与が見込まれる渉外事務所に就職しクビにならない
 自信があれば別だが。このようなロースクール生の悲劇はこれからも続くの
 だろうか。そして、こういう過程を経て弁護士になった人たちが、司法改革の
 キャッチフレーズだった「市民のための司法」の担い手になれるのだろうか・・・。
http://t-m-lawyer.cocolog-nifty.com/blog/2006/07/post_c92a.html


○おおすぎ Blog 2007/12/21
 感想文:『弁護士の就職と転職』を読んで
 本書の特徴は、弁護士という商売の特徴、および法律事務所という
 ビジネスモデルの要諦が、経済的な側面から語られていることです。
 弁護士が必要とされるのはどのような場合で、そのとき依頼者は
 弁護士にどの程度のお金を支払う意志があるのか、というベーシックな
 ところから(つまり観念的にならずに)、「弁護士となること」の
 意味が語られています。
http://blog.livedoor.jp/leonhardt/archives/50474534.html


○プロフェッショナルかスペシャリストか 「司法試験結果データ集」2007/09/13
http://blog.livedoor.jp/name/archives/51082421.html

 

○弁護士就職難時代(YouTube映像 09:30)
http://www.youtube.com/watch?v=aD82LF6itWg

 

 


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