新遺伝子組み換え法にドイツ農産・食品経済界から批判の声
- ドイツ在住ジャーナリスト
<記事概要>
世界中の食品が集まる見本市「ベルリン国際緑の週間(Gruene Woche)」(1月18日─27日)における開催オープニングでも、ドイツの食品市場に関する問題が改めて取り上げられている。
なかでも話題を呼んでいるのは14日に大連合政府が合意した「新遺伝子組み換え法」である。ここでは既存の遺伝子組み換え法に幾つかの改正が行われており、遺伝子組み換え食品が取り入れやすくなるのではないかと、ドイツ食品産業連盟(BVE)やドイツ農民協会(DBV)などの農産・食品経済界からは批判の声が上がっている。
今回合意された当改正法が、翌週連邦参議院からの承認を得るのかどうか注目されるところだ。
「『Netzeitung.de』 「新遺伝子組み換え法」を巡る論争」2008年1月17日の掲載より
URL: http://www.netzeitung.de/deutschland/881491.html
<解説>
この「新遺伝子組み換え法」では、
1. 遺伝子組み換え作物を扱う土地は、一般の畑などから最低150メートルの距離を
保つこと(近隣畑がオーガニック製品を育成している場合には300mの距離が必要)。
2. こうした距離は近隣の農業者との話し合いによって短縮することが可能であること。
3. その場合、近隣農業者の生産物が汚染されても損害補償権が存在しないこと。
4. 「遺伝子組み換えフリー」という表示使用の条件などについて改正が行われている。
中でもドイツの農産・食品経済界の批判の的となっているのが、第4の表示に関しての規定である。ここでは、遺伝子組み換え作物を「一切使用しなかった」家畜の肉、牛乳、卵などには「遺伝子組み換えフリー」の表示を付けることができると規定されているが、同時に、市場に代替品のない遺伝子組み換え技術によるビタミンなどの表示にも使用することが出来ると規定されている。
具体的には、現在問題となっている鳥インフルエンザの予防接種ワクチンは、市場で手に入るものは、遺伝子組み換え技術による製造品であるため、こうしたワクチンを打った家畜の肉や卵も「遺伝子組み換えフリー」の表示を付けることができるそうだ。その他代替品のないビタミンやアミノ酸、酵素、薬といった食品添加物もこの例外に含まれる。
第1の遺伝子組み換え作物を扱う土地は、一般の畑から距離を保つことという規定も、遺伝子組み換え実験を行う畑における花粉等の取り締まりはされているものの、土に埋まったままの根などの処理をキチンと行っていないケースも見られると話題になっている。
はたして、距離をとるだけで実際に周辺の畑に影響を与えないのかどうかという点に関しては、ドイツでもいまだ証明されていない段階である。
遺伝子組み換えの実験には多額の投資が行われているため、オーガニック農業者よりも年間収入が多いとしても、比較は出来ないという政治家の声もあるが、こうした法改正は結果として、市民の健康よりも、大量生産を援助することにつながってしまうであろう。
【関連情報】
○MediaSabor 2007/10/16
「すでに三大作物の大半が遺伝子組み換え作物(GMO)
─消費者意識とは裏腹に市場浸透が拡大する理由」
http://mediasabor.jp/2007/10/gmo.html
○HeavyBommer@blog 「遺伝子組み換え作物の危険性」2006/08/29
GM技術自体は若い技術であって、まだ余り長い歴史を有してはいません。
そのために、「何ができて何ができないか」「屋外と言う半自然環境で
長年栽培した場合どのような変化を起すか」「その変化を人間が充分
制御できるか」「制御不能になった場合に環境にどれくらい影響を与えるか」
といった部分は未知数である部分も多いと思います。
http://b51.blog55.fc2.com/blog-entry-17.html
○星野敬子 シューマッハー通信 「開発・発展にまつわること」2006/04/04
グローバリゼーションという名の産業化は、様々な問題を引き起こしています。
インドでの深刻な問題の一つに、多国籍企業による農作物(種子)特許の問題が
あります。種子が、多国籍企業の特許に所有され、自由に栽培したり、地元農家
同士で交換したりすること(昔から行われていた行為)ができなくなっている。
そして、何千人もの農夫が、企業から買った種子の負債を返せず、家族を養えない
という理由で、自殺している。インド人口の約75%が農家なので、この特許の
仕組みは、インドに甚大な被害を与えていると言います。
http://scoh.exblog.jp/4868540
○栗本敬浩 コピーライターのひみつNOTE 「ぼくは矛盾なひと」2005/08/11
『ザ・フューチャー・オブ・フード』というドキュメンタリー映画で、
遺伝子操作を施した作物の課題について告発しました。監督、脚本家、
共同製作者デボラ・クーンズ・ガルシア氏は、ドキュメンタリー映像と、
農家や農学の専門家へのインタビューを組み合わせて、遺伝子組み換え
食品がわれわれの食の安全を脅かしていることを表現。同作品によると、
遺伝子組み換え作物は過去10年足らずのうちに、われわれの食糧供給を
汚染し、何千年もかけて培われてきた耕作法をむしばみつつあるといいいます。
http://kuri8.livedoor.biz/archives/30113302.html
○野菜日記(農健クラブ)「経済から見た農業」2006/06/02
http://oisi-yasai.jugem.jp/?eid=12
○一夢庵風流日記 2006/04/14
「多国籍アグリビジネス(種苗市場─遺伝子組換え)」
穀物メジャーが食料で世界を制したのなら、次は一歩進んで「種子を制するものは
世界を制する」と考えるのは自然の成り行き。 種子支配は、イコール食料支配と
いうことでもあるのだから。 それが、さらに「遺伝子を制するものは世界を制する」
という流れに変わった。世界的な規模で「種子戦争」の火蓋は切って落とされた。
http://plaza.rakuten.co.jp/inasedane/diary/200604140000/
○関心空間 「“自殺する種子”―遺伝資源は誰のもの?」2004/07/20
熱帯の人々が数千年かけて作り上げてきた作物という遺伝資源を基盤とする
農業に、ターミネーター(自殺する種子)テクノロジーなどによる
巨大種子メーカーの種子独占が進んできている。
http://www.kanshin.com/keyword/529359
○田谷 徹 明日は明日の風が吹く 2006/11/08
河野和男(著)『自殺する種子』:遺伝資源は誰のもの?
http://tayatoru.blog62.fc2.com/blog-entry-148.html
○The Future of Food-Introduction(YouTube映像 09:49)
http://jp.youtube.com/watch?v=jNezTsrCY0Q
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