Entry

バンキング(銀行)2.0: 信用収縮で増えるソーシャルレンディング(P2P金融)

(記事要約)

米国ではサブプライムローンの債務不履行が山積しつつあることで、金融業界全体に信用収縮が広がっている。経済が急速に冷え込む中で連邦準備制度(FRB)は金利の引き下げを続けているが、銀行はどこも貸付審査の基準を厳しくしているため、クレジット履歴のよい人でさえローンを組みにくくなっている。

ウォールストリート・ジャーナルが3月12日に伝えるところによれば、こうした中で中小企業らは銀行ではなく、Prosper.comのようなインターネットを活用したP to P(パーソン・トゥ・パーソン)の貸付サイトから当座資金の調達をする例が増えているという。

記事リンク:
http://online.wsj.com/article/SB120526439925827991.html?mod=SmallBusinessMain_feature_articles
(ウォールストリート・ジャーナル、3月12日掲載、「借り手と貸しが集まる場所」英語)


(解説)

ちょうど1年まえに、本コラムで「Prosper.com」というサイトの紹介をした。銀行から貸付を受けるようなクレジット履歴がない人と、余剰資金を銀行の預金利率より有利に運用したいと考える人を結びつけるP to P(パーソン・トゥ・パーソン)の貸付、貸し出しサイトである。当時はProsper.comが革新的なアイディアとして各種メディアで紹介されたが、今ではProsper.comのようなP to P貸付を行うメジャーなサイトがいくつもある。

P to P貸付は、貸付最高額は25,000ドル(250万円)と小規模だが、信用収縮の暗雲が広がる中で、今やこうしたサイトは中小企業にとって不可欠なようだ。「GlobeFunder.com」は、貸し手側がどんな条件で貸付をするかを設定し、借り手側はサイトにある判断・マッチングソフトを使って要望に沿った貸付オファーを捜す。「LendingClub.com」は、有資格の借り手が希望するローンを掲載し、貸し手側がそこから選んでオファーを出すといった形だ。

もちろんProsper.comも健在である。コイン・ランドリーを経営するジェフ・ウァルシュさんは、小規模事業者ローンの借り換えをしたかったが、2007年に住宅ローンを組んだばかりで収入からみて負債総額が大きい。「銀行にローンを申し込んで、却下されたくない」として、Prosper.comから22,500ドルを調達したと、ウォールストリート・ジャーナルの記事で紹介されている。利率は10.25%で、すぐに調達できる上に、利率も銀行で借りるより数%低いとウェルシュさんは考えている。約束通り返済されれば、貸し出し側は10%以上の利子を稼げるのだから、銀行預金の利率や、まして株式市場の状態からすれば、かなり良い投資である。

返済保証のないギャンブルは嫌だという人のために、新たに「Zopa.com」というサイトも現れた。ここでは貸し手の資金は連邦政府が保証する譲渡性預金に入れるため、利率は現在4.25%と低めだが、一般の銀行定期預金より良い利率だし、返済不履行があっても出資した分は必ず利子つきで戻ってくるのが魅力だ。

リチャード・ブランソン氏のバージン・グループが所有する「VirginMoneyUS.com」は、他とは毛色が変わっていて、家族間、友人間で貸し借りを行う場合に、返済条件や支払い期限などの文書化・管理を代行してくれるサイトだ。無謀なサブプライム・ローンを貸し付けた金融機関や、任意に貸付金利を引き上げるクレジット・カード会社にも批判が高まっており、人々は顔の見える相手と貸し借りすることに魅力を感じている。P to Pローンが日常生活支援の強い味方として人気を高めていけば、Bank 2.0に発展しそうだ。


<関連リンク>

○MediaSabor  2007/03/07
「ネットと50ドルで、あなたも投資家に─Prosper.com」
http://mediasabor.jp/2007/03/50prospercom.html

○各種P to P貸付サービス・サイト
http://www.globefunder.com/
http://www.lendingclub.com/home.action
http://www.prosper.com/
http://www.virginmoneyus.com/
https://us.zopa.com/

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○nikkei BPnet ビジネススタイル  2008/03/21
 「バンキング2.0個人間融資は起業家の資金源になるか」
 銀行による信用調査は厳しく、中小企業は切り捨てられることが多い。
 しかし、比較的小さな額の融資を容易に受けられるこうしたサイトは、
 中小企業の助けになる。米Lending Clubの上級副社長で、米Wells Fargoの
 中小企業部門の幹部だった経歴を持つPatrick Gannon氏は「中小企業は
 昔から、2─5年分の財務報告を提出できるようになるまで、銀行から
 融資が受けられなかった」と語る。同氏によると、個人間融資サイトは
 「会社を立ち上げたばかりの人や、事業のアイデアを温めている人に、
 融資を受けるチャンスを与える。起業家としての夢を追うことを支援する」
 ものだという。
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/forbes/080321_banking20/


○-時代を読む新語辞典- ビジネスABC「ソーシャルレンディング」2008/03/25
 ソーシャルレンディングは登場まもない概念なので、さまざまな呼称が
 乱立している。命名法は大きく2系統に分かれる。まずこのサービスが
 個人間融資であることに着目する場合はソーシャルレンディング、
 P2P金融(融資)などを呼ぶ。P2Pはpeer to peer(対等の結びつき)や
 person to person(人と人)を意味する。一方、同サービスが競売で
 あることに注目する場合は、金融オークションと呼ぶ。
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/abc/newword/080325_43rd/


○株式相場展望  2008/02/18
 「不気味に迫るクレジットカード危機(BusinessWeek)NO.2」
 なにしろ米国では過去25年間このような規模の信用収縮(貸し渋り)は
 見られなかった。多くの人は収入の範囲内で暮らそうとするに違いない。
http://blogs.yahoo.co.jp/kabushikisobatenbo/15135250.html


○ITmedia News  2008/03/08
 ソーシャル融資サービス「Zopa」、日本進出
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0803/08/news010.html


○On Off and Beyond 「ソーシャル金貸しZopa日本進出」2008/03/06
 新しい形態の金融業が日本に登場するのは大変よいことだとは思いますが、
 しかし、結局アメリカのこの手のP2Pローンの金利設定は、借り手の
 クレジットスコアに寄るところが大きい。クレジットスコアは、過去の
 借金返済状況を記録したクレジットヒストリーに基づくもので、全米で
 3つの民間企業が握っている。「アメリカ人としての人間の点数」
 みたいなものです。
http://www.chikawatanabe.com/blog/2008/03/zopa.html


○りーがるまいんど 「日本でもP2Pローン広がるか」2008/03/13
http://legalmind.at.webry.info/200803/article_9.html


○もっと、ましなやりかた・・・。「KIVA」 2007/09/09
 KIVAは発展途上国、主にアフリカのウガンダの起業家にインターネット
 を通じて融資するシステムである。”P2Pローン”って言うんだそうです。
 先進国の人にとっては僅かな金額でもウガンダの起業家にとっては充分
 な運転資金であるというのがミソで個人レベルでインターネットを
 通じて営業の進捗が報告されたり起業家と融資した人が対話出来るのも
 素晴らしい。
http://gasira.radilog.net/article/212292.html


○ZDNet Japan Blog 「金融ビジネス2.0-俺に投資しろ!!」2007/03/10
http://blog.japan.zdnet.com/iida/a/000793.html

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/615