Entry

環境税(炭素税)導入決定。カナダBC州民の生活は、意識はどう変わる?

(記事概要)

とうとうブリティッシュ・コロンビア州に環境税が導入されることになった。2月19日州政府が環境税(Carbon Tax)を盛り込んだ今年の予算を発表したのだ。

これは全ての化石燃料使用に対して適用され、ガソリン、ディーゼル、天然ガス、石炭、プロパンガス、家庭用暖房燃料などが対象となる。適用開始は7月1日からで、2012年まで毎年段階的に燃料費が値上がりする。

(2008年2月20日)The Vancouver Sun:
BC州で最も発行部数の多い一般紙。徹底した地域密着型の内容に定評がある。


(解説)

環境税導入はカナダではケベック州に続いて2番目。しかし人々の生活に直接影響するものは北米全州でも初めてとなる。

値上げ幅はガソリンが1リットルにつき2.4セント加算され、2012年には7.2セントまで引き上げられる。他の燃料費も概ねこれくらいの値上げ幅になるという。ただし電気は課税対象外(BC州は全発電量の90%が水力発電のため今回の課税対象とはならない)。

では実際にどれほどの負担増になるかを、家計に直結するガソリン代で見てみる。現在は1リットルが1ドル20セント(約126円/1カナダドル=約105円)前後だが、今年はトヨタのプリウスなら年間で約20ドル(約2100円)、ドッジのピックアップトラックなら年間70ドル(7350円)の負担増となり、来年はその倍、2012年までには3倍となる。

政府では増税分の負担の割合を、燃料使用の多い企業が全体の3分の2、個人使用が3分の1と試算していて、3年で約18.5億ドル(約1940億円)の増収を見込んでいる。

ではこの増収分はどのように温暖化効果ガス削減に役立てられるのだろうか?

実はこれらの増収は基本的に全て州民に減税という形で還元されることになっている。来年から2011年までの法人税、中小企業税、所得税の引き下げや低所得者向けの減税にはじまって、環境に配慮した家電や自動車購入時の奨励金制度も続行、さらに、環境税導入前の今年6月には、突然襲い掛かる増税負担軽減のための対策として全州民に100ドルの小切手を送ることも決まっているのだ。

つまり、環境税から得た増収分はほぼこれで還元され、例えばエコ技術やクリーンエネルギーの開発などに充てられる予定にはなっていない。それには別にこの先4年間で10億ドル(約1050億円)の予算が組まれている。

ではでは、何のためにわざわざ声高に環境税導入を叫んだのだろうか?

BC州財務省キャロル・テイラー大臣は、「人々の生活パターンをより環境を意識したものに変えるためのもので、州民の意識改革を促すための政策です」と説明していた。

BC州ではCO2排出の最大の原因は輸送機関、つまり自動車やトラックなどで、全排出量の約40%を占めると算出されている。次に化石燃料生産業、工業生産業と続いている。個人や企業の意識を変え、交通量を減らし、エコカーを選んでくれれば、削減に即効性を期待できるのである。

しかし、果たしてそううまくいくかどうかはかなり疑問である。「過去4年間でガソリンは40セントも値上がりしたが、町を走る車の数は一向に減らない」と紙面にあったがその通りだ。

それに、BC州民の気質としてお金に対して結構無頓着という面がある。税金や保険料が多少上下してもあまり騒がないし、一生懸命働いて億万長者になりたいという欲もない。今の状態を維持して日々の生活が楽しければそれでいいという感じなので、3年で7.2セントガソリン代が上がってもその分減税してもらえるのであれば、州民の生活も意識も今とそれほど変わらないのではないかと思う。

去年BC州は6600万トンの温室効果ガスを排出している。今年はさらに増えて8000万トンになる見込みだ。キャンベル州首相は政府目標を2020年までに2200万トン位まで削減するとしている。今回の環境税導入で、削減される量は年間300万トンと予測され、これが2020年まで続いたとして7.5%しか削減されない、と現実はなかなか厳しい。

結局これだけでは不十分ということだが、政府にも州民にも環境税導入による負担がそれほどかからないのであれば、やってみる価値はあるのではないかと思う。「要はBC州にとって、カナダにとって、まずは最初の第一歩を踏み出したということが大切なことだ」とテイラー大臣は強調していた。

確かにこういうことに対して腰の重いカナディアンにとって、なかなか思い切った政策ではある。政府の狙いはきっと別のところにあるのだろうが、それはまた別問題だ。これまでのところ、州民から大きな反対の声は聞こえてこない。

この1週間後に発表された連邦政府予算には環境税は組み込まれていなかった。まずは2012年頃BC州がどう変わっているのか、北米のモデルケースとなっているのかゆっくり観察したいと思う。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○ECO NEWS DIGEST  2008/02/27
 「カナダのブリティッシュコロンビア州が炭素税を導入へ」
http://econewsdigest.seesaa.net/article/87379803.html


○しなやかな技術研究会  2008/01/09
 温暖化防止 : 「生活レベル下げられる」49%・・・毎日調査 / クリッピング
http://greenpost.way-nifty.com/sinaken/2008/01/49_1008.html


○ももきゅう環境ブログ 「世界の二酸化炭素排出量の分布」 2007/09/26
http://momokyu.jugem.jp/?eid=111

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/596