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フランスのサルコジ大統領が公共放送の広告(CM)廃止宣言

<記事要約>

フランスのサルコジ大統領は、1月8日に、国営放送のフランス・テレビジョンとフランス・ラジオで流れる広告を、2009年1月1日から一掃すると宣言した。削られた広告収入は、公益費で補填するので、テレビ局側の収入は変わらないという。また、いくつもの局をもつフランス・テレビジョンだが、どの局も民営化はしないという。フランス・テレビジョンの従業員は、1974年以来の大規模ストライキを行い、決定に反対意思を示している。

2月19日付け日刊経済誌「レ・ゼコー」
http://www.lesechos.fr/info/comm/300243138.htm


<記事解説>
 
サルコジ大統領は、民放は経済的利益を追求してもいいが、国営テレビは公共の利益のためにあり、すみわけをするべきだとしている。フランス・テレビジョンは複数の局を包括した国営会社で、フランス2、フランス3、フランス4、フランス5、海外放送用のRFOと5局をもつ。

70年代までは、フランスの全てのテレビ局が国営テレビだったため、固いテーマが中心で、内容も教育的なものが多かったが、1987年に1チャンネルのTF1が私有化され、民放になり、6チャンネルのM6が登場した。民放は、娯楽中心で高い視聴率をとれる番組が好まれる。

国営のフランス・テレビジョンも制作費補充のため、コマーシャルをいれるようになった。現在では、フランス・テレビジョンも、広告収入が収益の3分の2を占めるまでになった。2007年には8億3300ユーロを計上している。そのためか、番組内容の質低下が叫ばれて久しい。

サルコジ大統領は、広告の全面削除は、広告主に左右されない「質の高い、文化的な番組」を公共電波にのせるための英断だという。イギリスのBBC放送同様の番組制作を目指す。

しかし、財界は、その裏にある大統領の経済的目論見も見逃していない。2009年から国営テレビ局への広告が完全にシャットアウトされた場合、年間8億3300ユーロもの広告費の大半は、民放局のTF1とM6に流出するだろう。TF1局のオーナーは、大統領の近しい友人であるヴイッグ氏。TF1局の株価は1月の大統領の発言をうけて、跳ね上がったという。2009年から広告収入が倍層するとあれば、大統領とビジネス界の大物との友情は更に深まるだろう。フランスの政界と民放の絆が強くなっていくという計算だ。

大きく影響を受けるのは、スポーツ界ではないだろうか。フランス2が放映している5月の全仏オープンテニス(通称ローラン・ガロス)と7月から8月に行われる自転車競技のトゥール・ド・フランス。フランス人にとっては、日本人の箱根駅伝に相当する以上の人気スポーツイベントだ。

テレビで毎日3─4時間も生放映する。人気が高いので、広告収入も多く、大会側に支払っている放映権が高くても帳尻があうのだ。広告が入らなくなれば、スポーツ放映の時間も極端に短縮されるだろう。それが、スポーツイベント運営に大きく影響してくることも否めない。フランス人の年中行事となっているスポーツ観戦の態度が、今後変わってしまうだろう。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○うるわしのブルターニュ 「公共放送職員の大規模ストライキ」2008/02/15
http://bretagne.air-nifty.com/anne_de_bretagne/2008/02/post_b859.html


○ヨーロッパご飯作り日記  「フランスの国営TVとコマーシャル」2008/02/13
 公共放送からCMが無くなるとどうして大騒ぎなのか。
http://blogs.yahoo.co.jp/brusselhaiitokoro/32721485.html


○KBのぶろぐ 「フランス公共放送のコマーシャル終了」2008/01/20
 文化通信大臣は,公共放送における広告の廃止に伴う財政補填は
 10億ユーロになると述べた。
http://blogs.yahoo.co.jp/kobakoba1974/51408678.html


○La Vie Strasbourgeois 「コマーシャルの廃止(2)」 2008/01/10
 だいたい、公共放送を維持するために民間放送のコマーシャル費用に
 上乗せの税をかけるなんて、どういう理論から出てくる話なんだろうか?
 と疑問に思っていましたけど、ああ、そういうことだったんですね。
 確かに民間広告の価格に対する需要の弾力性はとても低いでしょうから、
 民間放送にとっては価格を吊り上げやすい、よって国も税金をかけやすい
 ということだったんですね。民間放送の株主にとっては、税金負担は
 増えるけどそれ以上の広告収入の増加が期待されるから大丈夫!という
 ことなんですねえ。裏取引が疑われるなあ…。
http://strasbourglife.at.webry.info/200801/article_5.html

 

 


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