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あぶない牛肉、鈍感な米国人━米史上最大規模の冷凍肉リコール(回収)命令

▼米国の大規模牛肉リコールに関するAP通信ニュース・ビデオ
http://www.youtube.com/watch?v=ItvbXYNwVY8(YouTube映像 01:01)


2月17日、カリフォルニアの食肉パッカー・Hallmark/Westland社(食肉処理会社ウエストランド/ホールマーク・ミート・パッキング社)に対し、食肉安全管理上の問題があるとして、1億4300万ポンド(約7.2万トン)という米国史上最大規模の冷凍肉のリコール(自主回収)を開始した。

動物愛護協会が公表した屠殺場潜入ビデオに、弱って歩けない「へたり牛」をフォークリフトで無理に歩かせている同社の様子が写っており、農務省の食品安全検査局が調査をしていた。へたり牛(ダウナー・カウ)は狂牛病やサルモネラ菌、大腸菌などに感染している可能性もあることから、食物への使用が禁じられている。
 
農務省側は、これらの牛はすでに屠殺前検査に合格しているため危険性はほとんどなく、今回のリコールは食品管理上の問題の処置だとしている。リコール対象の牛肉は2006年2月1日以降のもので、ほとんどはすでに消費されているが、これまでに同社の牛肉による病気の報告はないとしている。

しかし同社の牛肉は全米の学校給食向けにも出荷されていたため、リコール開始後、全米各地の学校はフリーザーに残っている同社の冷凍肉廃棄で忙殺された。米国での牛肉リコール件数は、2005年が5件、2006年が8件だったが、昨年は病原性大腸菌に関連するものを含めリコール件数は21件に上っている。だが、米国人はあまり心配している様子がない。
 
YouTubeで公開されたAP通信のビデオでは、農務省当局者が「屠殺前検査に合格した牛が、実際の屠殺までに疲れて歩けなくなってしまうこともある。その場合は業者が報告し、農務省の獣医が再検査をすることになっているが、それをしていなかった」とした上で、「農務省は違反の確認後、4日で同社の操業を停止させた」と迅速な対応を強調している。が、この会社は2006年2月から違反をしていたのだから、それを今までキャッチできなかった体制が問題だとは思わないのだろうか?

同社に潜入した動物愛護協会では、「一日に2回、農務省の検査官が来るが、その時間はだいたいわかっており、検査官がいない時に牛を虐待していた」と話している。農務省は今回の事件を「単独の事例」と言っているが、こうした違反例が他にもあると危機感を抱かないのだろうか?

私は常々、アメリカは多少の過ちが起こることを前提とした大雑把な国だと思っている。仕組みが機能しない場合があることがわかっていても、そこはあきらめて、大事にいたらなければ大騒ぎしない。リコールが発表された直後こそ各種メディアで報道されたが、その後はすっかり話題に上らなくなった。人々は心配する様子もなく、スーパーで牛肉を買っている。誰も病気になっていないし、問題の牛肉はリコールされたのだから、大丈夫ということか。

消費者の食嗜好を調べている調査会社のハリー・バルザー氏は、マーケット・プレースというラジオ経済番組の中で、「不思議なことに、問題が起きても長期的には食糧供給システムの安全性に対する米国人の考え方に変化が見られない」と話している。

2003年12月に初めて狂牛病が米国内で発生した時も、牛肉の輸出は大きく減少したが、国内需要はほとんど変わらなかったと経済学者らも言う。エコノミストのマイケル・スワンソン氏は、「ニュースの最初の5分間で、誰かが病気になり苦しむ状況が伝えられない限り、消費者は大事だと思わない」と、ロイター通信に話している。

消費者がこの調子では、米国では契約牧場からだけ牛肉を仕入れる高級スーパーで牛肉を買うといった自衛策をとるしかなさそうである。

▼牛の虐待ビデオから大規模牛肉リコールへ (AP通信) (YouTube映像 01:28)
http://www.youtube.com/watch?v=TQD_-Z9TGuw

                                 
▼記事リンク(英語):

最大規模の牛ひき肉リコール命令 (ニューヨークタイムズ)
http://www.nytimes.com/2008/02/18/business/18recall.html?em&ex=1203483600&en=1a6b042d906ba4fa&ei=5087%0A

お昼の定食:リコールの牛肉 (公共ラジオ、マーケット・プレース)
http://marketplace.publicradio.org/display/web/2008/02/18/meat_recall

最大規模の牛肉リコールを気にかけない消費者 (ロイター通信)
http://www.reuters.com/article/healthNews/idUSN1927425220080219?feedType=RSS&feedName=healthNews


▼関連リンク(日本語):

米国で史上最大の牛肉製品リコール ダウナーカウと蓄のBSE規制違反
http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/bse/news/08021801.htm

米で牛肉6万5000トン回収 過去最大、へたり牛処理か(中日新聞)
http://www.chunichi.co.jp/article/world/news/CK2008021802088521.html

アメリカ牛肉輸入再開、本当に安全なのか
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/report/40/

厚生労働省:米国及びカナダ産の牛肉の輸入再開について
http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/12/tp1212-1.html

厚生労働省:牛海綿状脳症(BSE)等に関するQ&A
http://www.mhlw.go.jp/topics/0103/tp0308-1.html

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○動物衛生研究所 世界の飼育牛におけるBSE発生報告数 
http://niah.naro.affrc.go.jp/disease/bse/count.html

○狂牛病で危険な食品早見表
http://osakana7777.at.infoseek.co.jp/syokuhin.htm

○森永卓郎オフィシャルブログ 2006/02/19
 「経済社会問題 #19」
 輸入が再開された米国産牛肉に、特定危険部位である背骨が交じっていた
 事件は、アメリカが日本の消費者の健康のことなどかけらも考えていない
 ということを明らかにした。
http://blog.goo.ne.jp/moritaku_goo/e/4a501e47f5cfdd3a0cb68b3adbb2bb36

○Sasayama’s Weblog 「狂牛病殺人事件???」 2005/05/08
 この出来事は、BSEとCJDとアルツハイマーとのつながりをめぐる
 黒いうわさとして、今でも語り継がれているという。
http://www.sasayama.or.jp/wordpress/?p=275

○Sasayama’s Weblog 2008/02/18
 「ファイナル・ルール後、ダウナー牛扱い逃れの動物虐待問題」
 今回のアメリカのカリフォルニアのHallmark Meat Packing Companyでの、
 動物虐待問題と、ダウナー牛肉出荷問題だが、どうも、問題が錯綜して
 いるので、ちょっと、その背景を述べておくことが必要のようだ。
http://www.sasayama.or.jp/wordpress/?p=819

○Saudadeな日々 「ネタバレした?農水省」 2007/08/10
http://hartwarmingclub.seesaa.net/article/50928878.html

○BSE&食と感染症 つぶやきブログ  2006/04/07
 【狂牛病】病院に行く人には他人事ではないBSE/vCJD
http://blog.goo.ne.jp/infectionkei2/e/812942aa7165bb964b29107e18713aab

○アメリカ奮闘記 2005/08/07
 「アメリカの馬鹿げた法律─食品悪評禁止法でメディア規制」
 この法律やばいね。食品に関することなんてグレーだらけなのに、
 メディアが損害賠償をおそれて報道できない。つまり、食品に関しては
 言論の自由が認められていないことになるのだ。
http://plaza.rakuten.co.jp/vinalia/diary/200508070000/

○日本とその隣人たち。 「BSEと言論規制」2005/10/15
 アメリカの多くの州に存在する“veggie libel law”というものが問題の
 法律である。日本語に訳すると、「農産物名誉毀損法」というもので、
 農産物について中傷、具体的に言えばその安全性を否定する行為を
 禁止するものである。
http://ameblo.jp/mkri/entry-10005161051.html

○平和エッセイ 『週刊文春』の米国産牛肉の記事(2) 2006/02/09
 ・山田正彦議員の調査によると、アメリカからメキシコへ30カ月以上の牛や
   内臓がノーチェックで輸出されている。

 ・米国産牛肉が輸入禁止になる2003年末まで、メキシコから日本への牛肉
   の輸入はゼロに近かった。ところが、その後2年間で急激にメキシコからの
   輸入が増えている。
http://blog.goo.ne.jp/heywa/e/55d7dad9a7d9092409c45354191ff583

○林田直樹 LINDEN日記
 「米国産牛肉の恐怖の実態(週刊文春より)」2006/02/07
http://blog.livedoor.jp/naoh123/archives/50457527.html

○Speak Easy 「ヒト狂牛病は痴呆症中に隠れているのか?」2005/04/12
http://blog.livedoor.jp/manasan/archives/18716716.html

○BSEと食の安全 観察ブログ 2005/11/18
 「アルツハイマーとヤコブ病の誤診・集団発生など情報リンク」
http://d.hatena.ne.jp/infectionkei3/20051118

○極端大仏率 Returns! 「ハートのエースが出てこない?」 2006/08/18
 破滅的な副作用のあるテクノロジーというのは、人類の繁栄が続く限り,
 必ずいつか開発され、人類を破滅に導くいうことだ。その理由は上に
 述べたトランプゲームと同じである。一度の賭けで負ける可能性は
 きわめて低くても、それを無限回繰り返すと、必ずいつかはハートの
 エースをひいてしまう、つまり破滅的な結果がもたらされるというわけだ。
http://mira.bio.fpu.ac.jp/tadas/cgi-bin/blxm/blosxom.cgi/060818.htm

○薬事日報 2006/10/24
 【医薬食品局】米国産ウシ使用医薬品の原材料切り替え状況まとめる
http://www.yakuji.co.jp/entry1475.html

 


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