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治安悪化で失業者を公共交通機関のセキュリティー要員とするベルリン

<記事概要>

近頃、ベルリン市内公共交通機関BVG(Berliner Verkehrsbetriebe)利用者の間でアクシデントが立て続けに起きている。どれも暴力による利用者間のいざこざだ。日本の駅と違ってドイツの駅には改札機がない。ここ数年でほとんどの駅は無人になってしまい、乗り換えのための情報が必要になったり、身の危険を感じたりしたら、SOS用のインターフォンが唯一の命綱だ。

インターフォンのボタンを押すと、セントラルの監視室に座るBVG職員が、利用者の姿をカメラで見ながら応対するが、職員は駅にいるわけではないため、緊急のときに走って出てきてくれるわけではない。駅のあちらこちらには、そのほかセキュリティー用のカメラが取り付けられているが、それでも外国人や弱者への攻撃が絶えない。

とはいえ民間のセキュリティー会社に依頼するにはコストが掛かりすぎるというものだ。そこでBVGは、セキュリティー強化のため、失業者をトレーニングし、1000人ほどの監視官を配置するという。

『Welt』2008年3月3日
http://www.welt.de/berlin/article1750643/Arbeitslose_sollen_im_Bus_fr_Sicherheit_sorgen.html

 

<解説>

数年前まで、各駅のホームには宿直室のようなものがあって、発車前の電車に乗り込む乗客に注意を呼びかけたり、次の電車のコネクションを教えてくれる職員が常時いた。ここ数年でこうした職員の代わりに、セキュリティー監視のためのカメラが駅のあちらこちらに取り付けられ、駅は無人駅となっている。

ベルリンの地下鉄や地上を走る市内の列車は、週末は24時間走っているし、普段でも終電の後には、街のアチラこちらからナイトバスがでて、どこからでも家にたどり着ける。電車が走っていれば、夜中に徘徊する人の数も多く、その点、女性が1人で夜中に駅にいても危ないなんてことは殆ど無かった。欧州大都市の中でも最も安全な町ベルリンとまで言われていたのである。
  
ところが、今年に入ってかなりの数の暴力事件が起きている。19歳の女性が、ホームにいた外国人に人種差別的な発言を行い、更にはホームから突き落とした事件などが世間を騒がせた。バスや電車で起きる傷害事件は年間約3000件。被害を受けるのは利用者だけではなく、バスの運転手などBVGの職員も近年危険な目にあっているようだ。

治安が今より良かった数年前でも、ベルリン市内における公的場所には訓練されたシェパード犬を連れたセキュリティー要員が目に付いたものだ。ところがコストの問題から、ここ10年ですっかり減少。1998年にはホームにあった駅員室が廃止され、2003年からは警察とBVG職員による見回りも無くなってしまったのだ。

このように赤字を抱えたベルリン市は、セキュリティーへの予算も削減しているが、BVGは再び安全性を確保しようと、失業者を訓練してセキュリティー専門の要員として配置することを検討中。これはいわゆるガードマンのように、身体を張って現場で行動する人物ではなく、何か事件がおきたときにすぐさま警察に連絡をするための要員である。失業者の職業訓練のための予算は、欧州議会の社会基金が支援するとのこと。

ベルリン交通機関BVGではそのほか、今年中頃までにカメラを駅やバス、路面電車、列車などに取り付けたり、訓練を受けたガードマンを配置、また非常ボタン一つで警察官が現場に現れるようにすることなどを検討中だ。

ただ気になるのは何故、失業者にそうした仕事を依頼すると強調しているのかという点である。今のところそれに関する詳しい説明はメディアではされていない。

一見、失業者対策のようにも見えるこの案、実際は警官をガードマンとして駅にいつも配置するわけにいかないだけではないだろうか。BVGのスポークスマンによれば、もちろん失業者には「それなりの賃金」が支払われるとのことだが、ここでもまた最下層の失業者達が、安い給料で危険な仕事に振り向けられることで、社会の格差が一層拡大するのではないかと懸念されるところだ。


【編集部ピックアップ関連情報】

○ノスタルジイDEストレンジャー  2008/03/11
 「もったいないという気持ちと、社会の格差」
  社会の格差が拡大しているドイツでは、処分される直前の食料品を活かした
 ボランティアが広がりを見せています。 朝、ベルリン市内のスーパーや
 レストランなどを回って、野菜や果物、パン、それに乳製品などを次々と
 集める人たち。ボランティアグループ「ベルリンの食卓」のスタッフです。
http://blogs.yahoo.co.jp/bigsheep712/40935877.html


○ごんたの寝言 「ワーキングプア 格差はヨーロッパでも?」2006/12/17
  そういえば、最近ドイツ人の13%が貧困危機層であり、その元凶が
  失業と教育であるとの報道があった。
http://gontasnegoto.at.webry.info/200612/article_7.html


○Weblog of 346(三四郎日記) 2006/10/08
 格差社会だからこそ考慮に入れなければならない「新・中間層」問題。
  近現代のドイツ史とえば、「ナチス」(NSDAP)であるが、このナチスが
 台頭した原因は、第一次世界大戦と第二次世界大戦を挟む時代の
 ワイマール期に、世界恐慌に際して「プロレタリアート」に転落すること
 を恐れた「新中間層」がナチスの支持基盤になったからだという俗説
 (というか通説)がある。
http://blog.goo.ne.jp/yojiro5/e/203469952398cafe39e3c0ee9b5aaa1e


○鋭読 ─英独のニュースから世界を読む─ 
 「ドイツの格差社会問題」 2006/10/17
http://gorimaru.blog58.fc2.com/blog-entry-33.html


○NPO NOIR official site  2005/02/04
 「セックス産業で失業対策? ドイツ人売春婦の提案」
http://d.hatena.ne.jp/noir_staff/20050204

 

 


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