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破綻まであと30年、米大統領選挙と年金問題

“年金破綻”随分前から警告され続けている事だが、先月25日発表された米財務省のレポートでは、最近の金融不安でさらなる状況悪化が見込まれている事が明らかになった。ポールソン財務長官は、早急に対応することの大切さを訴えた。“先延ばしすればするほど、次世代にかかる負担がさらに増える事になる”(3月25日ロイター)

サブプライム問題でドルの信用不安を引き起こした米国だが、これを上回る憂鬱が米国の将来に影を落としている。このまま行けば遠からず破綻すると言われている年金問題だ。
大統領選挙では、イラク問題と並んで大きな争点になっている。

年金問題は元々、サブプライムのような人偽的なものではなく、第二次大戦後に大幅に変化した人口動態の産物だ。戦後の爆発的な出生率を経験した先進国に共通の問題でもある。日本ほど出生率が減少していない米国でも、その影響はかなり大きい。

米国の場合、2020年ごろに財源が赤字に転落する。現状の税制が改善されないとすると、社会保障基金が底をつくのは2041年、あと30年後の計算になる。これに続いて、更に深刻な問題、高齢者向け医療保険、Medicareが控えている。こちらはすでに赤字に転落し、財源を食いつぶしている状況。蓄えを使い果たすのは年金よりもずっと早く、10年後の2019年だ。

対処の仕方は2つある。税率を上げて収入を増やすか、給付額を抑えるかの単純な算数だ。
米国で約10万ドルの収入がある場合、約12%の社会保障税が徴収される。これを14%に引き上げれば、社会保障の赤字転落は防げる。あるいは給付額を12%減らせば、これまた何とか維持が可能だ。医療保険の場合、医療内容をグレードダウンさせない限り、現在の税率2.9%から倍以上の6.44%に引き上げる必要がある。ざっと計算しても年金と高齢者保険を合わせて10%近い増税、労働者には痛い話だ。

ところで、今回のレポートは、サブプライムに端を発するドルの信用不安については最小限の影響しか考慮していない。今後米国の景気が悪化し、失業率が増加すれば予定されていた収入源さえ危うくなり、破綻はさらに早まる可能性がある。現在出されている2041年破綻という予想にしたところで、7年前までは2055年と言われていた。イラク戦争その他の出費で危機が14年早まった事になる。最近の米国はまさに綱渡りだ。

増税か年金削減か、あるいは医療保険の民営化か。大統領候補はそれぞれ自説のアピールに躍起になっている。共和党候補マケインは増税に反対して給付額を減らす事を主張。いわゆる自己責任での対処を唱えている。これに対して民主党候補は増税の立場を取っている。ヒラリーに至っては国民皆保険という、現状の逆風に逆らうかのような政策を打ち出している。クリントン時代に果たせなかった夢を再び、という訳だが、同じ民主党のバラク・オバマは“現実的でない”としてこれに反対している。果たして誰が一番正しいのか。

一方、有権者の意見もまた複雑だ。ブッシュ現政権にうんざり、という点では一致しているものの、保険と年金の問題については支持政党が同じでも意見はまちまちだ。
福祉を充実させ、皆保険を実現しよう派。年金破綻は防ぎたいが増税は勘弁してくれ派。今後の米国は自己責任でいくべき派。当然ながら、これから年金を貰う立場の団塊世代は増税派、若い世代のビジネスマンには自己責任派が多い。

ある経済評論家の談話は興味深かった。“年金は破綻しないだろう。その時集まった金額を受給者の頭数で割ればいいだけの話だ。金額が少なくなっても仕方ない。もともと未来がどうなるかは誰にも分からないのだから”自己責任論は政府の怠慢とは思えど、やはり自分の身は自分で守らなければならないか、と感じ始めている今日この頃である。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2008/03/31
 「米金融危機で復活したニューディール政策めぐる論議とその限界」
http://mediasabor.jp/2008/03/post_351.html


○マスコミに載らない海外記事 2007/10/24
 「愛し合って、戦争になった: 好戦国家アメリカとの遭遇 ノーマン・ソロモン」
 私の本「Made Love、Got War」で詳細に描いていますが、5、60年間にも
 わたって、私たちは好戦国家の中で暮らし育てられてきたのです。
 ですからその影響は恐ろしいほど致命的です。マーチン・ルーサー・キング
 は「精神的な死」について語っています。彼の言葉は、毎年、社会福祉
 よりも、軍事の方に多額の金を支出する社会に不可避な「精神的な死」
 です。これは40年前の話です。そうした精神的な死の効果は一体どんなもの
 でしょう? そして、これほど恐ろしい結果をもたらす、この類の危険で、
 恐ろしい流れに対し、対抗する機会はあるのですが、そうするためには、
 私たち自身をまず活性化させねばなりません。
http://eigokiji.justblog.jp/blog/2007/10/post_e0db.html


○映画 “WAR MADE EASY”(「仕組まれた戦争」)公式ホームページ
 ジャーナリスト ノーマン・ソロモンのノンフィクション書籍を映画化。
 ベトナム戦争からイラク戦争に至るまで、開戦のために、政府が、
 どのように工作したのか、また、どのように大手メディアを利用した
 プロパガンダをすすめたかを描いている。
http://www.warmadeeasythemovie.org/


○イザ! 田村秀男の経済がわかれば、世界が分かる 
 「世界はなぜバブルにまみれるのか」 2008/04/18
 日本の経済学者の多くが心酔する米国の経済学は、市場原理とは神の見えざる
 手で、均衡するものだとみなし、ヒトのモラルの重要性を見落としてしまう。
 バブルが起きて崩壊しようとも市場による「自律的調整」と解釈する。
 多重債務者や低所得層まで巻き込んでカネを返さなくても済むぞ、と誘う
 サブプライムローンは正常な頭で考えると詐欺商法のはずだが、米国では
 アメリカン・ドリームと錯覚する。政治家は票獲得のために公的資金で
 焦げ付き住宅を買い上げようとする。資本主義文明の退廃、きわまれり、
 である。
http://tamurah.iza.ne.jp/blog/entry/548028/


○中岡望の目からウロコのアメリカ 2008/03/06
 「就任3年目のバーナンキFRB議長を評価する:
  彼はリセッションを回避できるのか?」
http://www.redcruise.com/nakaoka/?p=239


○在野のアナリスト 2008/04/17
 「経済の話、米国に関する最近の情報について」
 これまで米国でうたれた対策は、全て短期間で減速する経済を反発させる、
 いわば特効薬です。逆に効き目は短く、その間に経済が健全化されずに
 影響が長引くと、負の効果が出始めることになるのです。対症療法から
 根治療法へ、米国の対策はここに至らない限り、回復は難しいのでしょう。
http://blog.livedoor.jp/analyst_zaiya777/archives/51322336.html


○大西 宏のマーケティング・エッセンス
 「この赤字は誰が負担するのか」 2008/04/15
http://ohnishi.livedoor.biz/archives/50533054.html


○404 Blog Not Found 「年金制度-間違っていたのは誰か?」 2008/03/12
 今の「ねずみ講方式」のままで、基礎年金部分を税で徴収するというのは、
 早い話、既得権世代の若者の逆襲を封殺することに当たる。若者の視点から
 すれば、基礎年金部分の税金化(すでにある程度なされている)というのは、
 賛成する理由がない。今なら未納という形で意思表示が出来るのに、
 その機会さえ奪われようとしているのだ。
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51017081.html


○Business Media 誠 2008/03/05
 「勝間和代氏に学ぶ、金融リテラシーの基本7カ条とは?」
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0803/05/news045.html

 

 

 


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