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調性をねじまげながらポップに輝く期待の新星「Base Ball Bear」


Base Ball Bearのアルバム『C』

 前回(ジョイ・ディヴィジョンの壮絶な歴史を描いた映画『CONTROL』http://mediasabor.jp/2008/03/control.html)は、終わりのほうでガールズ・アット・アワ・ベスト!(Girls At Our Best!)が「意図的に調性(tonality)をねじまげている」と書きましたが、まだ若手ながら、日本にもそういった大胆なことをするバンドがいます。名前を「Base Ball Bear」といいます。

 僕が彼らを知るきっかけになったのは『リンダ リンダ リンダ』(05年)でした。韓国からの留学生をヴォーカルに誘い込み、女子高生4人がブルーハーツのカヴァーを演るという青春映画ですが、香椎由宇、前田亜季といったバンド・メンバーのなかに、初めて見る顔がありました。香椎がギター、前田がドラムスで、その“初顔さん”がベースを担当していたのですが、撮影前に特訓していたとしても、一人だけ技術が抜けている。どうも単なる女優さんではなさそうだな…と思ったので、エンド・クレジットを集中して見ていたんです。

 名前の後に「(Base Ball Bear)」とカッコで括られているのを見つけた僕は、「彼女がベース担当でカッコ内がバンド名だ!」と確信してレコード屋に直行し、メジャー・デビュー直前の彼らの存在を知りました。

 初めて聴いた彼らのアルバム『夕方ジェネレーション』の印象は「ギターが鋭くて耳障り」。まるでTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTがニュー・ウェイヴ化したような…。うるさい音楽は嫌いではありませんが、これならGang Of Fourを聴けばいいか、と正直思ったものです。でも、曲名に「微熱ボーイ」というのを見つけ、また、どの曲も日本語メインの歌詞がとても新鮮だったので、松本隆→草野マサムネ(スピッツ)の流れを汲んでいるかも…と感じたのを覚えています。そして、映画に出ていた女の子(関根史織)ではなく、小出祐介というメンバーがキーマンだと知りました。

 『夕方ジェネレーション』は発売から2年が過ぎていたので、現在の姿を聴いてみたいと思って次に手にしたのがメジャー・デビュー・シングル「ELECTRIC SUMMER」です。この曲は、『夕方ジェネレーション』にはまだ感じられた雑然とした「青さ」が消え失せ、恐ろしいほどの完成度でジャケットのオブジェのようにそびえ立っていました。僕の音楽人生のなかで最も衝撃的な体験のひとつだったといっても過言ではありません。

 なにがそれほど衝撃的だったのか。それは「ELECTRIC SUMMER」に含まれた「情報量」の多さです。ダンス・ミュージックからの影響が感じられるドラムスに、ニュー・ウェイヴのエッセンスが詰まったギター。それでいて、ベースは70年代初期のクラシック・ロックの香りがするぶっといサウンドを響かせている。

 楽曲そのものも凝っていて、オクターヴ奏法のギターが印象的なメロディを奏でるイントロでは変拍子を効果的に挟み、2回目のヴァース(Aメロ)では各々の楽器が絡まり合ってリズムのトラップを仕掛けてくる。そして、曲をクール・ダウン&再び盛り上げるために効果的に使われる転調。今まで何度リピートしたかわかりませんが、聴いていて飽きるということがありません。サビ部分で「ELECTRIC SUMMER」と歌う関根のコーラスは、プリファブ・スプラウト(Prefab Sprout)のウェンディ・スミス(Wendy Smith)を彷彿させ、もう20年以上、ずっと彼らがフェイヴァリット・バンドであり続けている僕にとっては、耳を惹きつける大きなポイントとなっています。

 この「ELECTRIC SUMMER」が収録されているアルバム『C』は、その内容からすればまだまだ評価されているとは言えません。もちろん同世代からの支持は集めていますが、『C』に収録されている楽曲は決して「十代・二十代限定」といったものではありません。その中身の濃さが知れ渡れば、近い将来「日本のロック名盤100選」といった企画には必ず選定されるであろう充実した作品です。本当はこのアルバムの音楽分析だけでまるまる1回使いたいぐらいなのですが、それは許してもらえないでしょうから、今回の重要なテーマである「意図的に調性をねじまげている」部分について触れることにします。

 1曲目に収録されている「CRAZY FOR YOUの季節」。この曲のAメロ部分でヴォーカルと共に主役を張るリード・ギターは、何と曲そのもののキーとは異なるキーでフレーズを奏でている。文字にするとめちゃくちゃ不協和音が奏でられているように見えるでしょうが、実際はそんなことはありません。どこかストレンジではありますが、とにかくポップに響いている。これは凄いことです。偶然の産物と信じたいところですが、計算して演っているとしたらもう「天才」の域ですね(昨年末に発売されたメジャーからの2枚目『十七歳』はかなり素直な作りになっているので、「偶然」かもしれません…)。

 そんな彼らは、いったいどういう音楽から影響を受けているのか。それが真っ先に気になりました。そこで「ネット検索」です(笑)。世の中、便利になりましたね。公式HPhttp://www.baseballbear.com/をチェックすればわかることですが、あえて引用します。

 まず、メイン・ソングライターの小出祐介。「好きなアーティスト:XTC、はっぴいえんど、オールドスクールもの」とあります。XTCは『夕方ジェネレーション』のギター・カッティングから納得。はっぴいえんどはおそらく歌詞の部分でしょう。オールドスクールもの? これって具体的にはどのへんを指してるんだろう? 気になるところですね。

 続いてクリックすると関根嬢が出てきました。僕にバンドの存在を教えてくれた恩人です。彼女の項目には「好きなアーティスト:JETHRO TULL、CARAVAN(UK)、鈴木慶一」とある。えーっ、ジェスロ・タルが好きって、アイアン・メイデン(Iron Maiden)のリーダー、スティーヴ・ハリス(Steve Harris)と同じじゃん!と盛り上がってしまいます。でも、実はBase Ball Bearとアイアン・メイデンって、音楽的にはけっこう共通点があるんですよ。バンドもファンも思いっきり否定するだろうけど…。

 そして、冴えまくったフレーズを弾くリード・ギターの湯浅将平。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTとSLY & THE FAMILY STONEを挙げている。そうかー、『夕方ジェネレーション』での耳に痛いギターは彼の趣味だったんだね。

 そして最後にドラマーの堀之内大介。好きなアーティストはRed Hot Chili Peppers、The Police、John Frusciante、Nile Rodgersとのこと。たしかにドラミングにはレッチリとナイル・ロジャーズの影響を感じます。でも、あえてレッチリとジョン・フルシャンテを両方挙げるところにこだわりがあるのね(笑)。

 小出祐介のブログ、小出メッセ(ガーン、なんと3月13日が最終回! これいつも楽しみにしてたのに…)をチェックするかぎりでは、メンバーの趣味も以前とは変わってきて…ということらしいので、現在はまた少し違っているのかもしれませんが、なぜあえて引用させていただいたかというと、『「情報量」豊かな音楽を奏でるバンドにはそれだけの「背景」がある!』ということを言いたかったからなんです。当たり前のことなんですが、このことを認識していない音楽ファンやミュージシャンって意外と多いんですよね。

 これまでにもクラムボンやくるりといった自分より歳が若いグループを好きになったことはありますが、この二つのバンドはどちらも1975年生まれぐらいのメンバーが中心です。Base Ball Bearは僕より一回り以上年下ですから、この若さでこれだけ成熟した音を出すということがもの凄く衝撃的だったわけですが、彼らの音楽的背景を知ったときは、その年齢からは想像できない懐の深さに、また違った形で衝撃を受けたのでした。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○リンダリンダリンダ 予告編(YouTube映像 01:38)
http://jp.youtube.com/watch?v=6ZyQH8ZDyk4


○Sex & Books & Football 【映画】「リンダリンダリンダ」2005/08/03
http://sbf.cocolog-nifty.com/blog/2005/08/post_161b.html


○関心空間 「Base Ball Bear」2007/10/10
http://www.kanshin.com/keyword/1219947


○free walkin' @ 邦楽レビューとか 「愛してる -Base Ball Bear」2007/11/11
 思春期の情熱が形になったかのような音楽性でいて、
 音はしっかりとロックバンドしていましてリスナーは中高生に留まりません。
http://freewalk.blog35.fc2.com/blog-entry-66.html


○マドリの『今日気づいた事NEO!!』
 「日本のポップ/ロックアルバムについて」  2007/09/29
http://d.hatena.ne.jp/madori927/20070929/p1


○誰の声も届かない 「C/Base Ball Bear」 2006/11/29
 「ギターロックへ近寄りすぎず、ポップ方面へ近寄りすぎず、
 ギターロックであり、ポップミュージックである」という“バランス”
 を大切にこのアルバムを作った。そう話すボーカルのこいちゃん。
 その言葉に違わず、まったく新しいサウンド、とまではいかないんですが、
 1曲目から11曲目まで、これでもかと言わんばかりのポップな
 バンドサウンドが展開されていきます。
http://who-voice.jugem.jp/?eid=4

 

 


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