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知的財産権侵害をめぐりイタリアブランド(GUCCI)が中国で勝訴。中国は変わるか。

<記事要約>

ロゴを無断で使用されたとして中国の靴メーカーを訴えていたイタリア企業グッチ(GUCCI)が、上海市浦東新区人民法院において勝訴した。訴えられていたのは江蘇省の森達公司(SENDA GROUP)で、人民法院は同社に1万6千ユーロの支払いを命じた。

2008/4/15付 Il Messaggero紙より
(Il Messaggero : 創刊1878年のローマの地方紙。販売部数22万部)

 

<記事解説>

問題になったのはグッチのロゴ(に酷似したもの)がついたサンダルで、2006年夏から上海のヤオハンデパートで販売されていた。グッチはヤオハンと森達公司の両社に、61万元(5万4千ユーロ)の損害賠償を求めていたが、判決の結果、森達公司は18万元(1万6千ユーロ)の支払いを、ヤオハンは商品の早急な撤去を命ぜられた。

商標権をめぐる争いで、中国国内でヨーロッパの企業が勝訴したのは、これが2件め。1件めは、菓子メーカー大手・フェッレーロ(FERRERO)。やはりイタリアの企業で、90年代から中国産の偽造チョコに悩まされてきた。2003年に中国国内で訴えを起こすものの、敗訴。その後も声を上げつづけ、この4月上旬に最高人民法院で勝訴した。中国菓子メーカー・モンテゾール(MONTESOR)には、5万ユーロの賠償金の支払いが課せられた。グッチが勝訴する1週間ほど前のことだ。

グッチ、フェッレーロ両社とも、被害にあったであろう金額を鑑みれば、勝ち取った賠償金はいかにも少額だ。しかし、中国産の偽造品に悩まされているイタリアの多数の企業にとっては、価値ある第一歩だ、というのがイタリアメディアの論調だ。グッチに代表されるようなブランド物と、チーズ、ワイン、オリーブオイルからトマトの缶詰にいたるまで、食料品分野での中国による知的財産権の侵害が深刻なイタリアにあっては、この2社の勝訴はたしかに象徴的なものなのだろう。名を知られたブランドを抱える企業は、裁判に訴えながらひとつずつ決着をつけてゆくほかない、ということか。

一抹のむなしさを感じたのはわたしだけではあるまい。偽造品を売ることで莫大な利益を得ることができるなら、数万ユーロの賠償金など痛くもかゆくもない。その背後にひかえる多数の偽造品製造業者にとっては、裁判で負けても実利で勝つ、という見本になっていやしないか。一方、中国の裁判所が一応の「良識」を世界に示したことにもなった。どう考えても中国側のひとり勝ちにしか見えないのだが。

「米中経済安保調査委員会」の2005年度年次報告書によれば、中国の偽造品製造は、国内総生産(GDP)の8%を占めるとのこと。もはや中国経済を担う大事な一角になっている、ということだろうか。これでは世界に胸を張れるような取り締まりはできまい。下手にEUや米国の指摘するままに取り締まりを強化すれば、自分にムチ打つような行為になってしまうのだろう。

中国産の偽造品には、効果のほどはさておき、各国の企業が日々対策を講じていることだろう。マクロな話から私事に飛躍させていただくと、一日でもはやく中国にはコピー大国の汚名を返上してもらいたい、と思っている。それは、例えば中国のこどもたちにも本物の任天堂のWiiを楽しんでほしい、などという高尚な気持ちからではなくて、恥ずかしながら超利己的な理由からだ。つまりわたしが海外に住む東洋人だから。日の丸のついたはちまきを頭に巻くか、着物を着て歩くかでもしない限り、現地の人にとって日本人と中国人の見分け方は難しい。

ガラスの工芸品や手作りの靴などの写真を撮らせてもらおうと店主に許可を求めたら、「あなたたち中国人はコピーするからダメ」と断られたことがある。「わたしは日本人で、日本向けに記事を書いているのです」と理由を言えば事足りるのだが、後味は悪い。スーパーマーケットの中で、それまで模造品を作る中国を悪く言っていた主婦たちが、わたしがそこを通ると口をつぐむ、ということもある。

知的財産権に関しては、中国企業と日米欧の企業との争いはまだまだ続くだろう。将来、中国のブランド品が先を争ってコピーされるような日が来て、中国企業自身が被害を実感したとき、何かが変わるだろう、と思うのだが楽観的すぎるだろうか。

 

GIGAZINE 中国で出回っている偽ブランド品の写真いろいろ
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20070430_chinese_fake_brands/

日経BP 偽造大国「中国」にどう対処すべきか
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/11/

YOMIURI ONLINE 大手町博士のゼミナール
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/dr/20080205md01.htm

JETRO北京センター 知財関連記事
http://www.jetro-pkip.org/html/ipmore_42_page_1.html

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○JETRO北京センター ニセモノ写真館
http://www.jetro-pkip.org/photo.htm


○Gucci: Fall 2008(YouTube映像 03:09)
http://jp.youtube.com/watch?v=Pzp970kH34g&feature=related


○Commercial Gucci by Gucci-David Lynch(YouTube映像 01:01)
http://jp.youtube.com/watch?v=DOGNyV9ngMk


○Gucci by Gucci Behind the scenes - David Lynch(YouTube映像 05:12)
http://jp.youtube.com/watch?v=G2c8asLbQ4s&feature=related


○Ferrero Rocher Commercial(YouTube映像 00:50)
http://jp.youtube.com/watch?v=qzTOFIxj6aw&feature=related

 

 


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