JP・モルガンが救済したベアースターンズにデモ隊が押しかける
- 米国在住ジャーナリスト
3月26日、約60人の市民によるデモ隊が、先ごろ救済買収が発表された大手証券会社ベアースターンズのニューヨーク本社ロビーに乱入した。サブプライムローンによる経営破綻が懸念されていた同社の救済に連邦銀行が乗り出した事に対し、「サブプライムの直接の犠牲者である俺たちをまず救済すべき」というのがデモ隊の主張だ。ロビーを占拠したデモ隊はその後同社を買収したJPモルガン・チェイスのオフィスに移動、ここでもシュプレヒコールを上げた。
サブプライム問題が叫ばれ始めた昨年、ベアースターンズは“一番危ない”会社と囁かれていた。子会社のヘッジファンドがサブプライムの影響で2つ破綻しており、住宅ローン関連で12億ドルの損失が明らかになっていた。昨年の段階で何度か身売りを試みているがどれも失敗。今回買収に応じたJP・モルガンも一度は断っている。
倒産した場合、ウォール街、ひいては米国経済に与える影響があまりに大きいため、連銀が特別融資を条件にメインバンクであるJP・モルガンに救済合併をさせたらしい。連銀はJP・モルガンを通じて300億ドルを融資、経営破綻は回避される見通しだ。しかしこれで危機が去ったわけではない。第二、第三のベアースターンズがいつ現れるのか、ウォール街は戦々恐々だ。
連邦政府は3月はじめ、経営困難な企業に特別金利で資金援助をする用意がある事を発表している。ウォール街の火消しに躍起になっている観が否めないが、その火事場に現れたのが今回のデモ隊である。「HELP MAIN STREET, NOT WALL STREET (ウォール街じゃなくて一般人を助けろ)」というシュプレヒコールは、まさにサブプライムローンの影響に喘ぐ人々の声だ。その声は連日大きくなるばかりである。“フォークロージャー(不動産差押え=競売)の件数が記録を更新”というニュースには、もはや“またか”程度の反応しか起こらない。
時まさに大統領選の真っ只中、大統領候補もこの問題に積極的に触れている。オバマは窮地に立ったホームオーナーの救済を積極的に表明している。ヒラリーはさらに、連邦政府の援助により州政府がフォークロージャーに陥りそうな物件を買い上げて低所得者層に販売するという援助策を提示した。これに対して共和党候補のマケインは救済をよしとせず、あくまで“自己責任”で処理すべきという姿勢を貫いている。
世論も二つに割れている。CNNの調査では、51%が救済すべき派、46%が必要なしの自己責任派だ。もっともこの数字は去年のものなので、経済の減速が明らかになり、失業率が増加した今では逆転している可能性も高い。
個人的な意見を言えば、サブプライムローンに関しては、筆者は自己責任論が必ずしも非情な意見だとは思わない。全米の不動産価格が不自然なほど上昇していた2005年頃、更なる値上がりを見込んで3年後に金利が10%近くなるようなローンに手を出した人の感覚というのは理解できないし、そうした人々が100%の犠牲者だとはどうしても思えないのだ。
バブル景気の熱病に浮かされたのだと言ってしまえばそれまでだが、それは株式とて同じだろう。株で損をしても自己責任なのに、住宅ローンの場合は哀れな犠牲者、という理屈はどこかおかしい。こういうメチャクチャなローンを節操なく販売した会社や、それを放置した政府の責任もあるだろう。しかし、単純な計算を怠った消費者にも、現在の危機を引き起こした責任の一端はあるのである。
住宅と株式を同じ土俵で論じるのも乱暴な話かもしれない。マイホームが競売の危機に瀕している人々に救いの手は差し伸べられるべきだろう。しかし、ベアースターンズの破綻を個人の破綻と同列に論じるのはおかしい。今回の救済劇は、ベアースターンズのために行われたのではない。連銀とアメリカの金融界は一丸となって防御壁から流れ出る水を食い止めるのに必死となっている。サブプライムという穴が大きくなってダムが決壊すれば、ウォールストリート全体、ひいてはアメリカ経済が水浸しになる危険だってあるのだ。
【編集部ピックアップ関連情報】
○田中宇 「ドル崩壊が近い」 2008/03/18
私は以前から通貨の多極化を予測してきたが、その根底には、
米ブッシュ政権はどう見てもアメリカの覇権を自滅させる動きを
しており、この動きはニクソンやレーガンといった過去の政権の
動きを踏襲しているので、米中枢では世界の覇権体制を多極化する
戦略が以前から進行しているようだ、という分析がある。金融危機に
対し、連銀が見当違いな対策をやってドルを自滅させているのも、
多極化戦略の一環と考えられる。
http://tanakanews.com/080318dollar.htm
○ウォールストリート日記 「Soros氏の警告?」 2008/01/26
今日の金融危機は米国の住宅バブルによって引き起こされた。この危機は、
第二次大戦後に何度か見られたような金融危機と似ている側面もあるが、
一点だけ今までと大きく違うことがある。それは、この危機が、ドルを
世界の基軸通貨とすることによるアメリカの信用拡大の時代の、終焉を
意味している点である。
http://wallstny.exblog.jp/7133434/
○債券・株・為替 中年金融マン ぐっちーさんの金持ちまっしぐら
「はじまった、不動産バブル崩壊・・・」 2008/03/21
不動産に関しては「お客様、シートベルトをもう一度お確かめ下さい」
ですぜ。Fasten Your Seat Belt!!
http://blog.goo.ne.jp/kitanotakeshi55/e/9a4bf0d57e34a03f3b9e3fb5d1eb0417
○Klug 2008/03/05
「バーナンキFRB議長、銀行に住宅ローンの元本減額を
提案=住宅差し押さえ対策で」
提案は大きく分けて二つあり、一つは住宅ローンの貸し手である銀行に対し、
返済遅延や破綻懸念がある住宅ローン、特に、サブプライムARM(変動金利)型
住宅ローンの不良債権処理を迅速に進めることを求めるもので、これは、
住宅ローンの元本を損金処理によって減らすという荒療治を意味する。
同議長は、この元本減額を提案した背景には、サブプライムARMローンの
大半が、ネガティブ・エクイティ(住宅価格が購入価格を下回りマイナスの
純資産額になることで破たん予備軍といわれる)の状態に陥っていることが
あると指摘している。
http://www.gci-klug.jp/masutani/08/03/05/frb_67.php
○僕のアメリカ移住スケッチBOOK 「クリスタルメスの館」2008/02/15
先日見えられたお客様がこんな事をおっしゃっていました。
『私の勤める会社はフォークロージャーの手続きを請け負う会社なのですが、
半年前まで一日あたり25件だった件数が、今は一日800件にも
なってるの。全米じゃなくてアメリカのわずか8州での事よ。 私達の
会社はこの莫大な件数をこなすためにツーシフト制で作業にあたっているわ』
http://coolcuts.blog6.fc2.com/blog-entry-1394.html
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