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新旧の文化が同居する魅力ある東京に─NPO法人「江戸城再建を目指す会」とは 

 国際的な観光客誘致競争が活発化している。国内では地域活性化・再生へのさまざまな取り組みが全国各地で行われている。この状況にあって、江戸城天守閣の再建を目指して活動する「江戸城再建を目指す会」がNPO法人を立ち上げてから2年。「江戸城天守閣の再建を魅力ある国づくりを目指す観光立国・日本のシンボルにしよう」と、さまざまな精力的な活動が話題を呼んでいる。「なぜ今江戸城再建なのか」――。理事長の小竹直隆氏に話を聞いた。


 「ロンドンにはバッキンガム宮殿があるし、パリには凱旋門や、ベルサイユ宮殿、ニューヨークには自由の女神、北京には紫禁城など、世界都市にはその国の文化、歴史を象徴する傑出した遺産が存在する。しかし、東京は――」。

 東京には皇居という日本の文化、歴史を象徴する存在がある。最近では少しずつ開かれてきているが、庶民や外国人観光客が自由に立ち入りできる場所ではない。「大阪、名古屋には立派な城があるが、なぜ東京にはないのか」という素朴な疑問も、小竹氏を江戸城再建に駆り立てるきっかけとなった。
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 小竹氏はJTBの代表取締役専務を退任したのち、東京都と東京商工会議所、民間で立ち上げる第三セクター「東京コンベンション・ビジターズビューロー」(現・東京観光財団)の初代専務理事として5年間、“東京を世界に売り出す”という仕事に携わる。

 ところが、「外国人は日本を魅力ある国と見なしてくれなかった。実際、世界的な評価として東京はコンクリートジャングル的な都市の一つに過ぎなかった。ビジネス都市としては世界一流であっても、『東京に行って何が経験できるのか』と疑問を持つ外国人が多く、国際競争力がないことに気づかされた」と語る。「歴史や伝統をないがしろにしてきた日本のツケが、魅力ある国として見なされない事態となった」。そのなかで東京の魅力を再発見しようと考えていたときに、「江戸城再建」というテーマに行き着いたという。

 ロンドン大火、ローマ大火と並び世界三大大火と言われる1657年の「明暦の大火」で江戸城天守閣が焼け落ちた。そのあと350年間も世界に誇れる天守閣が聳え立っていない。「国際的なグローバリゼーションの波の中で日本独自の歴史や文化、伝統、魅力を正しく世界に発信するうえで、最大のシンボルがないと痛切に感じている」と強調する。「もともと無いものを作り上げようとすると、破綻も起こり得る。しかし、この東京には江戸城という天下一の巨城が、350年前にあったんです。天守閣を支えた石垣の台座は今も皇居の東御苑に残されている」。


天守閣を失ってから350年が経った。石垣の台座に観光客が訪れるが……


 
 江戸城再建の目的は1)魅力ある国づくりを目指す観光立国のシンボルに 2)日本の伝統と文化の象徴として後世への歴史の贈り物に 3)地域交流、国際交流の拠点に――としている。NPO法人を立ち上げてから2年。会員総数は約800人。今年度中に1500人を目指す。最終的には3000―5000人に拡大して草の根の力として、江戸城再建を目指す会から“目指す”を取る国民運動にしていきたいと話す。

 「当時の江戸のまちは世界最大の100万都市。世界で最も魅力的で、最も美しい、心やさしい人たちが住んでいて、あらゆる伝統、風物に魅せられた都市だった。しかも日本の歴史、文化、伝統が生活の中に息づいていた場所だった」と語る。関東大震災、東京大空襲を経てすべてを失ったという不幸もあったが、再建、再興していく過程でことごとく、今までの歴史、文化、伝統を壊していった。谷中や浅草・浅草寺などにはわずかに昔ながらの面影は残っているものの、ほかの世界都市が持っているようなその国の歴史、文化を代表するようなモニュメントはまったくなくなったと残念がる。

 海外からの外国人旅行者も、天守閣のほかにも、「大奥」や「松の廊下」に高い関心を持って来る人は多い。また、再建の目的の一つである江戸城を国際交流の拠点とするために、日本の歴史的な文化財の展示施設の建設や、海外要人との会見の舞台としての活用、さらには国際会議場をつくる――など夢も広がるが、小竹氏は「今は我われがそこまでイメージを固める段階ではない。まずは昔あった天守閣の姿を再現するだけで、大変な魅力ある存在になる」と言うのだ。


再建された江戸城の天守閣(CGによるイメージ)

 江戸城を再建し、海外に発信することで、「日本の各地にはこんなにも美しく素晴らしい城がたくさんあるんだ」というメッセージにつながると小竹氏は強調する。「日本を訪れる外国人旅行者の多くは東京に来て、そのまま帰ってしまう。日本各地に素晴らしい伝統文化があることを、もっと知ってもらうべき。江戸城がそのためのベースキャンプとなり、起爆剤となればいい」と話す。

 幸か不幸か、江戸城は徳川幕府だけでなく、全国の大名、農夫、大工が集まって造った城である。それゆえに「江戸、東京だけの城ではなく、『日本の城』だと私は思っている。だからこそ、世界に類を見ない日本独自の文化を体現するような存在として再建したい。また、江戸城は一度も戦火を交えたことがなく、平和のシンボルとしても意味がある」と語る。

 明治・大正期の名建築である東京駅赤レンガ駅舎の復元が進み、日本橋再生への動きも見られるが、「温故知新を皆が感じ始めたこと」と歓迎する。「『壊すことが都市の持つ力』という時代はもう終わった。古い文化と新しい文化が同居する街こそが、これからの新しい国づくりに繋がるんじゃないかと思う」。
                  
 敷地は皇居の東御苑の一角にあり、宮内庁が管理する。遺跡そのものは文化庁が管理している。「どんなに難しくたって、『江戸城が再建できたらいいですね』と思う人が広がっていけば、決して叶わない夢ではないと思う。世の中も変わる。それが国民主権の持つ意味だから。でも本当にこれが動き出したら大化けしますよ。それを信じて運動しているわけですから」と語る。大阪城は1931(昭和6)年に大阪市長の提唱で市民の浄財を中心に再建した。

 石原慎太郎東京都知事や有力政治家も前向きの発言をしているが、あくまで草の根運動として民間中心の再建に向けた活動を貫く考えだ。かつて政治家主導で再建構想が持ち上がったが、あっさりと立ち消えになった経緯も踏まえてのことだ。建設費は300億円ともいわれるが、寄付金も徐々にではあるが集まりつつある。


                              ※
江戸城は太田道灌(1432─1486年)が1457年に築城。天守閣は1607年に、2代将軍秀忠の代で完成。外観5層(内部6階)で地上からの高さは58・6メートル(大阪城は30メートル)。しかし、死者10万人ともいわれる1657年の明暦の大火で焼失し、以後約350年間、江戸城の天守閣は再建されることはなかった。日本一の名城の壮麗雄大な容姿を誇ったのはわずか50年間だった。総構え全体の面積は世界最大の城郭。当時の幕閣からも「天守閣再建を」との意見が多数を占めたというが、家光の異母弟の保科正之らが天守閣再建よりも江戸市民の救済を優先したため再建されなかったと伝えられる。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○やまとごころ.jp 鈴木勝 観光立国ニッポン事始め
 「世界観光競争力ランキングと観光立国日本」2008-02-12
  世界観光競争力ランキングの話ですが、発端は、日経新聞
 (2007年3月2日朝刊)のこの記事でした。「世界経済フォーラムが
 1日発表した初の旅行・観光競争力報告で観光業の活性化に取り組む
 各国の競争力をランキングで示した。欧米などの先進国が上位を
 占めるなか、観光立国をめざす日本は調査対象の124カ国・地域中
 25位と振るわなかった・・・・」。
http://www.yamatogokoro.jp/suzuki/2008/02/post-3.html


○IDEA*IDEA 2008/02/11
 「外国人の友達が来たら連れていきたいところ(東京版)」
http://www.ideaxidea.com/archives/2008/02/post_362.html


○FLO:Q 日刊ランキングニュース 2007/12/04
 外国人観光客に人気の「はとバスツアー」ベスト5
http://rankies.blog.so-net.ne.jp/2007-12-04-1


○僕の旅と彼方の友と 「ぜひ、江戸城再建を!」 2006/06/11
 せめて二の丸まで再建されれば多くの日本人(勿論、外国の方にも)
 大感動されるに違いありません。松の廊下で「殿中でござるぅ」などと
 叫ぶのが流行りになるのではないでしょうか。
http://blog.goo.ne.jp/nfw/e/9331476a180964d0b6cf23ba83fbbe90


○オレンジ色のミニクイ奴! Blog 「東京にゴジラビル?」2006/12/14
 ウチの会社のアメリカ人Jからいきなり「東京にゴジラを模した巨大ビルが
 建てられるらしいけど、お前ら知ってるか?」とメールが入った。
 ちゃんと写真もある、と添付してくれたのがこの2枚。
http://orange2cv.seesaa.net/article/29580527.html


○岡田帝国 「皇居に槌音高く――江戸城本丸再建」 2006/02/24
 もし本丸が再建されたなら人の流れは変わるだろう。パレスから散歩を
 楽しむことのできる距離。江戸時代の日本庭園が残る東御苑の中に
 60mの威容がそびえ立つ姿は新名所になること請合いだ。
http://punkhermit.jugem.cc/?eid=1182


○江戸城史跡めぐり
http://homepage3.nifty.com/oohasi/edo.html


○東京紅團 (東京紅団:とうきょう くれないだん)
 東京を歩いてみると、思い がけないところに歴史や文化の痕跡をみつける
 ことができます。目まぐるしくかわる東京を季節の風景も交えて紹介します。
http://www.tokyo-kurenaidan.com/index.htm


○東京ガイド-東京観光案内 またたび
http://www.tokyoguide.net/


○東京23区の坂道
http://www.tokyosaka.sakura.ne.jp/index.htm


○東京の安い宿
http://www.e-otomari.jp/pc.shtml                    

 


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