東部ドイツ都市改造プログラム─人口減少で縮小する地域の再生
- ドイツ在住ジャーナリスト
(記事要約)
日本と同じくドイツでも、高齢化や出生率の低下による人口減少が嘆かれている。特に旧東ドイツの州(新連邦州)の自治体では、ドイツ東西統一による社会格差、さらには労働市場の悪化から、高等教育を受けた若者たちが旧西ドイツ(旧連邦州)に流れていくため過疎化が進んでいる。
こうした人口統計学上の情勢変化から、増えた空家を減築するために、連邦・州は支援プログラムを2002年にスタートした。この「東部ドイツ都市改造プログラム」は、空家の減築だけではなく、町の価値向上のための資金を支援する。
つまり、解体後の空き地を緑化したり、建物を近代化したり、公園を作ることで、生活の向上を図るための目的にも利用される資金導入だ。当プログラムには、計352の自治体、旧東ドイツ252の自治体が、820以上の政策をもって参加しており、プログラム終了年である2009年までに約25億ユーロの資金が準備される。
その内3億8500ユーロが首都ベルリンの周りに位置する新連邦州のブランデンブルク州に支払われることになっているが、今年に入って、2009年以後も支援延長が必要であると当州住宅企業団体が訴えた。ドイツ連邦統計局によれば、2050年までにブランデンブルク州の住民は750,000人減少すると言われている。
『Maerkische Allgemeine』 (2008年3月5日付)
http://www.maerkischeallgemeine.de/cms/beitrag/11150517/485072/Brandenburgische_Unternehmen_fordern_dass_der_Stadtumbau_Ost_nach.html#
(解説)
過疎化への対策である「東部ドイツ都市改造プログラム」の延長が求められている理由は、2年後に新たな空家の波がやってくると予測されるからである。当州住宅企業団体メンバーの所有する住宅のうち、約38,000戸が昨年末までに解体されており、これによってブランデンブルク州の空家率は11%減少した。
都市改造が行われなければ、当団体代表者ブルカート氏の予測では、20%以上の空家率に達したと言われている。旧連邦州で過疎化が進んでいる市でも空家率は6─7%なのであるから、この数値はかなり大きいことがわかるだろう。
ブルカート氏は、プログラムを延長する場合、今までと同じ額の支援が必要であると話す。当団体の企業は、空き家解体のための支援を現在までに約1億ユーロ受けており、その約8倍のコストを、住宅の近代化に自ら投資したとしているが、空家問題は、これから約20年以上継続するであろうとされている。実際、現在ブランデンブルク州の住宅企業団体所有住宅のうち、41,000戸は借り手が見つからないままである。
まず、解体の対象となるのは、特に炭鉱近くの都市の場合、旧東ドイツ時代に流れてきた労働者のために立てられたプレハブ式集合住宅である。60─70年代では、こうした大型団地は、セントラルヒーターが完備されていたほか、近所に子供のための教育施設が充実し、近代的な住宅としてとても人気を呼んだ。
ところがドイツが東西統一したことで、社会的価値観が変化。さらにはエネルギー改革により、炭鉱が閉鎖され失業者が増加。その後、陽あたりが悪くなるほど密集している集合住宅は、空き家のまま放置される建物が増えていった。
これらの建物を減築、あるいは近代化させ、高齢者の住民にも住み心地が良いように改築する動きが見られるが、根本の問題である労働市場が改善されない限り、なかなか解決し難い問題である。
そのほか、観光地化することや、大学などの施設を備えることで、若者の人口流入をねらうなど、自治体も四苦八苦しているが、当プログラムの支援延長が行われるかどうかが、大きなポイントとなるだろう。
【編集部ピックアップ関連情報】
○持続可能な社会と金融CSR
「富める国ドイツ」の実態、国民の4分の1が貧困層 2008/03/14
http://csrfinance.cocolog-nifty.com/mirai/2008/03/41_af83.html
○目黒川の畔にて 「旧東ドイツ地域の人口減少社会への対応」 2007/11/18
縮小する都市(shrinking cities)に関する政策対応が日本でも
大きな関心を呼び始めていますが、人口が減り始めた日本も決して
他人事でいられません。限界集落問題などはその端的な発現形態ですが、
残念ながらわが国ではこの問題が政策当局により真正面から取り上げ
られることはこれまでありませんでした。
http://tokyo-nagano.txt-nifty.com/smutai/2007/11/post_0ca4.html
○エコビレッジへの旅 「逆都市化」 2007/02/13
日本に先駆けて、急激な人口減少を経験したのが旧・東ドイツである。
ベルリンの壁の崩壊によって、短期間の内に人口が西側へ流れ出した。
例えばドイツ中央部のライネフェルデ。人口1万6千人のうちの
約4千人がわずか1年のうちにいなくなったそうだ。当然のことながら
空間に対する需要も大きく減少し、大量の空き家も発生することに
なった。住宅を改修し、1戸当たりの居住面積を増やしても、また
余ってしまう。さて、どうしたか。
http://way-to-ecovillage.cocolog-nifty.com/aloha/2007/02/post_693c.html
○京増弘志のかわら版 「NO.1753 逆都市化時代」2007/07/17
ドイツでは、東側は人口が減少し、30才台の女性が西側に移っている
ため西側は増加傾向にある。ライプチヒでは、10%の建物を除去し、
公園などでグリーン化、東ドイツだからこそ、実現できたといえるが、
シュリンキングシティの発想で逆都市化している。
http://blog.livedoor.jp/kyomasu123/archives/51070194.html
○Blog-Session「地方を殺すな!」 2008/02/20
「地方を殺すな!─ファスト風土化から”まち”を守れ!」(洋泉社)
を紹介します。大西隆氏が「人口減少社会における地方再生の鍵は?」と
題して、藻谷浩介氏が「郊外開発に経済合理性はまだあるのか?」と
題して、郊外型のまちづくりが限界を迎えていること、人口減少社会に
おけるまちのあり方について主張しています。
http://blog.livedoor.jp/lrt_morioka/archives/1094924.html
○佐々木譲のプッシュピン 『まちづくりの新潮流』(松永安光)2006/03/27
世界的に見ても、従来の巨大開発型まちづくりは、すでに完全に破綻したと
認識されているのだとわかった。冒頭にじつに印象的なエピソードが
紹介されている。『コヤニスカッティ』という一種の環境映画の中に、
セントルイスの廃墟となったプルイットアイゴー団地が出てくるのだそうだ。
http://blogs.dion.ne.jp/sasakijo/archives/3113999.html
○テ・ト・ラ・ノ・オ・ト 日常洋画劇場53『コヤニスカッティ』 2008/02/24
構成作家 谷崎テトラ氏の日常生活のメモです。
http://blog.livedoor.jp/tetra_/archives/51923848.html
○イルコモンズのふた。 2005/10/02
「K O Y A A N I S Q A T S I(コヤニスカッティ)」
この映画はナレーションも字幕もストーリーも何もない、まったく無言の
ドキュメント映画ですが、それだけにこの作品は「アポカリプス(黙示録)」
的な「映像詩」として、ことばでは伝えることのできない何ごとかを物語っ
ています。
http://illcomm.exblog.jp/1907591/
○「恐るべしコヤニスカッティ(修正版)」
解説がないためすべて解釈は視聴者に託される、といったタイプの映画なのにも
関わらず、そこから誰もが、人間社会の風刺や、自然破壊への警告を感じとる
事ができるはずです。つまり前衛的手法を用いつつも、決して解りづらい表現は
しておらず、容易に映画の内容を解釈出来るのも特筆出来る点でしょう。無論、
人によってやはり感じる思いは様々でしょうが。
http://www2d.biglobe.ne.jp/~ks_wca/muda17.htm
○ファンタジィ特集 2008/02/29
『まちづくりの新潮流』はまちづくり以外でも参考にしたい
まちづくりに「デザインコード」を規定する例や、まだ事例はないが
新潮流として複雑系の概念を用いて、現実のまちの多様性や複雑性を
デザインしようとする試みは興味深かった。まちづくり以外でも設計に
関するいろんな分野で参考になるのではないかな。
http://ykasi.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_4e96.html
○山路を登りながら、こう考えた。2007/02/08
「まちづくりの新潮流―コンパクトシティ・ニューアーバニズム・アーバンビレッジ」
http://blog.livedoor.jp/simplegg/archives/52260673.html
○豊田の生活・アメニティ 「逆都市化時代」2006/01/29
大西隆「逆都市化時代─人口減少期のまちづくり」学芸出版社、2004年
都市は成長し、人口は増えなくてはならないという発想が従来はあります。
しかし、2007年より日本の人口は統計上減少します。
http://amenity33.exblog.jp/2610477/
○鷹番塾 「田園都市」 2006/06/30
最近、人口減少に伴う都市の縮小や、袋小路に入った観のある中心市街地の
活性化の議論を背景に、コンパクトシティの議論が盛んであるが、我が国の
人口の減少は、思わぬところから新たな都市空間を生み出すかもしれない。
例えば十軒に一軒の土地が余れば、それを共有地として緑の空間にすると
いった発想である。その共有地がそれぞれの地区の特徴を生み出していく
といったイメージがふと浮かぶ。それこそ、日本型のクラインガルテン、
小さな庭である。土地の価値が下がり、土地所有の考え方や国税のあり様が
変化することがそのための条件だろうが、単身の高齢者が多くなる時代、
後継ぎの無い土地をどうしていくかが、知恵の出し所になる可能性もある。
http://blog.livedoor.jp/haotakaban/archives/50530498.html
○版元ドットコム
「団地再生まちづくり 建て替えずによみがえる団地・マンション・コミュニティ」
古くなった団地は、建て替えるしかないのか?すでに人が住み、
出来上がっている環境を尊重しながら、居住者の意向・ニーズに
合わせた改善はできないのか?海外・国内の事例をもとに、
あたらしい団地の在り方を提案する。
http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-88065-174-3.html
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