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書籍大国ドイツの出版業界、その流通・経営・制度・人材育成の特徴

3月13日から16日まで開催されたライプチヒ書籍見本市は、昨年を上回る入場客(129,000人、2007年は127,000人)を迎え、今年もまた大成功を収め幕を閉じた。世界39カ国から集まった2,345のスタンドでは、連日イベントや作家を交えての朗読会が催され、見本市訪問客の90%が来年も参加したいという。

ドイツの書籍・出版業界にはどんな特徴や成功の秘訣があるのか。業界の現状、価格拘束の保障、返品率、流通の特徴などに焦点をあてて探ってみた。





出版業界の現状

インターネットやテレビの普及にもかかわらず、読書はドイツ人の生活に定着している。2007年は、書籍とオーディオブック総計で、総売上高が前年比3,9%の成長をみせた。2006年の総売上高は、93億ユーロ(1兆4415億円・1ユーロ=155円 )にまで成長した。

特に、インターネット通販分野の伸びは、前年比11%増加で7億300万ユーロ(およそ1090億円)の売上を計上した。これは、総売上高の7,6%を占め、各売上部門最大の伸び率となった。

ドイツでは、現在100万冊におよぶ本の供給が可能だ。また、年間の新刊書籍(初版と再版)は、約9万5000点に上る。昨今は、DBH(本社ミュンヘン・465店)やThalia(本社ハーゲン・202店)など大手書店の進出により個人経営や小規模の書店が吸収される傾向だが、全国には4,400以上の書店がある。

書籍全体の分野別売上比率は、大衆文学32%、実用・解説書18%、児童青少年13%、教科書や学習用9%、芸術や音楽専門書9%などが主な内訳である。海外では、ポーランドやチェコ連邦共和国へのドイツ語書籍輸出が目立つ。特に、児童・青少年文学(26,6%)や実用書(12,8%)、大衆文学(12,3%)の需要が大きい。

ドイツ出版業界の要は、フランクフルトに拠点を置くドイツ図書流通連盟(Bösenverein des Deutschen Buchhandels)である。

同連盟は、書籍の流通を促進するばかりでなく、製作部門(出版社)・書籍取次ぎ部門・流通販売部門(代理店や書店)を統合し、図書取引事業の利害を代表する団体である。この団体は、書籍見本市をはじめ書店員を育成する職業学校や専門学校の運営もしている。


価格拘束の保護

出版された書籍は、卸売りや出版社の配本に携わる会社を通して書店に販売される。ドイツ書籍の価格は、出版社が設定する。書籍価格拘束保護法(Gesetz zur Sicherung der nationalen Buchpreisbindung)により価格の全国統一が定められており、小規模書店の保護にも効果を上げている。

書籍価格拘束保護法で注目したいのは、18ヶ月以上前に発行された版の書籍の価格拘束を終了することが可能と制定されている事である。売れ行きが落ちた本や、出版から時間が経った本は、出版社の裁量で価格を下げ(楽譜・医学や法学などの専門書・翻訳書には適用されない)、廉価本としての販売が可能になる。

書店にとっては、買い取った書籍の売れ残りが減少する、顧客にとっては、高価だった新刊書や実用書などが安く手に入るという、両者にとって実に有益なシステムである。


返品と流通の特徴

書籍は、書店の買い取りが原則。そのため書籍返品は、運搬中におきた破損品のみが受け入れられている。また、出版社との契約により、限定された書籍だけが返品可能である。一方、顧客が「閲覧用」として注文した書籍は、客の要望に沿わない場合、購入義務はなく返品する事ができる。ちなみに、ドイツ図書流通連盟の統計調査によると、 返品率は、2005年6,8%、2006年7,2%と1割に満たない。

顧客の注文した書籍は、24時間以内に配送されるという流通の迅速さも背景にある。書店は、売れるかどうかわからない書籍を闇雲に買い取る必要がなく無駄もない。

書店の規模にもよるが、各書店在庫書籍は、総書籍数の3%が一般といわれている。書店に顧客の望む書籍がなくても、効率の良い流通システムと110万点の業界共有データーベースを利用する事で、顧客の望む書籍が迅速に入手できる。管理化された流通システムと業界統一データーベースの導入は、出版業界と書店そして顧客を結ぶ重要なパイプラインとして書籍の流れを持続的に増大させている。

例えば、国内の大手書籍取次ぎ業者・リブリ(拠点はベルリン、ハンブルク、マンハイム、ミュンヘン、流通センターはバード・ヘルスフェルド)では、全国の書店や通販会社から受ける注文書籍が1日に約45万点を超える。

注文書籍は、およそ50万点の在庫から需要に応じて24時間以内に顧客の手元に届くよう書店宛に夜間配送がされる。リブリは、国内通販大手のアマゾンamazon.com、ボル bol.de, タリア thalia.de,  ブッフbuch.deなどの注文も請け負っている。


書店員のあり方

書店員の育成は、ドイツ図書流通連盟の運営する職業学校と専門学校をはじめとして、各州至る所にある州立の学校が担当する。職業学校では、書店で実習生として仕事を学びながら3年間経営・文学・政治など広い分野の知識を習得する。終了後、商工会議所の試験に合格すると一人前の書店員として仕事に就くことができる。

物流は経済の潤滑油といわれるように、幅広い知識を持った書店員も顧客とのコミュニケーションをスムーズにする潤滑油の役目を果たしている。顧客は、的確な助言が得られること、書籍を実際に手にして試読ができることなど、通販では得られないサービスを求めて書店に足を運ぶのである。

 

<参考資料>

      www.boersenverein.de(ドイツ図書流通連盟)

      www.boersenblatt.net

      www.inovations-report.de
             Gesetz zur Sicherung der nationalen Buchpreisbindung
       (書籍価格拘束保護法・2006年改訂版)      

 


【編集部ピックアップ関連情報】

○GIGAZINE  2008-04-01
 「BOOKOFF、著作者団体に1億円の支払いを申し入れる」
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20080401_bookoff/


○smashmedia 「衰退する出版業界?」 2008-02-14
http://smashmedia.jp/blog/2008/02/000963.php


○Tech Mom from Silicon Valley 2008-02-14
 出版ロングテール続きと「子供の本離れは返本制度のせい」という話
http://d.hatena.ne.jp/michikaifu/20080214/1203020349


○つれづれ侘ぶるたび・出版編 2007/07/02
 「デジタル時代を迎えて 米・新聞雑誌媒体の挑戦」
 以前から感じていたこと、紙媒体vs.Web媒体という考え方をする必要はない、
 というのが明確になりました。つまり、紙媒体活性化のためには、双方向性
 のあるWeb媒体を使って読者を取り込み、購読者数を増やすことができる、
 ということです。
http://ukintern.exblog.jp/5793825/


○the SunshineBreakthrough Anotherpage
 小田光雄『出版業界の危機と社会構造』  2008/03/18
 活字離れを杞憂する有識者も多いでしょうが、でもね、ケータイ小説が
 あれだけ流行るということは、みんな読むことに対して飢えているんだと
 思いますよ。でも高いから本を買えない、ケータイの支払いで窮してます
 からね。だから無料のケータイ小説を貪るように読むのではないか、
 これが私の説です。
http://plaza.rakuten.co.jp/Anotherpage/diary/200803180000/


○ほんで…どないしたいん? ぱぐはぐ日記  2008/02/29
 『出版業界の危機と社会構造 』@社会 
 出版業界が危機的状況にあり、日本文化に多大な影響を及ぼすのは、
 再販制の存続と書店の大型化、複合化にある。というのが本著の
 主旨だろうか。
http://pughug69.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_78b3.html


○空犬通信 『希望の書店論』の話が続きます  2007/05/02
http://sorainutsushin.blog60.fc2.com/blog-entry-322.html

 

 


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