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イタリア焙煎業大手のイリーカフェが缶コーヒーで世界に挑む


<記事概要>

3月27日、アメリカ・アトランタで、イタリアのコーヒーロースター大手・イリーカフェとコカ・コーラの業務提携が発表された。ジョイント企業イルコ・インターナショナルを立ち上げ、缶コーヒーを生産、販売する。年内の欧州10カ国(イタリア含む)での販売を皮切りに、2009年には残りの欧州諸国、アジア、北米にまで販路を拡大する。

3月27日付 IL MESSAGGEROより。

(IL MESSAGGERO は中堅地方紙。本社所在地ローマ。主に中部地方で購読される。発行部数23万部。)
 

<解説>

スターバックスがないイタリアで、まさか缶コーヒーが売られる日が来ようとは。

イリーカフェは、本社をトリエステに置くコーヒーロースター(焙煎業者)大手。年間売上は246百万ユーロ(2006年)で、焙煎したコーヒー以外にもエスプレッソマシン、コーヒーカップなども販売している。ラヴァッツァと並び、クオリティの高さには定評がある。日本にも進出しているので「illy」のロゴを目にした人も多いだろう。

4年にわたる市場調査・検討の結果、売り出される商品のラインナップは3種類。ただしすべて「冷たい」缶コーヒーになる模様だ。

 ・カフェ(エスプレッソ。内容量150ミリリットル)
 ・ラッテ・マッキアート(少量のエスプレッソの混じったミルク。同200ミリリットル)
 ・カプチーノ(同200ミリリットル)

この3種で、年間160億ドルといわれる世界市場に乗り込む。イリーカフェの持つホンモノ感とコカ・コーラの販売力が、世界のコーヒー業界に新たな流れを呼ぶか。

ここでは、イリーカフェの地元イタリアで実績をあげられるのか、について少し考えてみたい。

1人当たり年間600杯を消費する、というコーヒー消費王国、イタリア。ただし10人中8人は家庭で飲む、という。マッキネッタという小さなポットを使い、直接火にかけてわかす方法もあるが、いまや多くの家庭にエスプレッソマシンが置いてある。それがあれば、バールに行かずとも本格的なコーヒーが楽しめるのだ。この人たちが、わざわざ缶コーヒーを買い、家で飲むだろうか。

バールでコーヒーを飲む、というのも、勤め人の休憩時間に多く見られる光景ではあるが、バールのコーヒーは物価の高い北部でも一杯80セント(約125円)ほどだ。80セントに対抗できる価格で、なおかつ販売網が多岐にわたっていないと販路の拡大は難しいだろう。

飲み物の自動販売機がない(設置場所はオフィスやショッピングセンターなど建物の中だけで、路上に置いてある、ということはまずない)ことと、コンビニのようなものがないことを考えると、購入できるのはスーパーか小売店だろうか。しかしそれらの店も、休日はもちろん平日の午後4時ぐらいまでには閉まっていることが多い。暑いときにサッと買い、サクッと飲むにしては不便なのが現状だ。

また、コーヒーのみならず食文化には保守的と言われるイタリア人の嗜好からいうと、冷たいコーヒーが受け入れられるとも思えない。

バールでアイスコーヒーを注文すれば、エスプレッソ、もしくは薄めのエスプレッソ(カフェ・ルンゴという)に氷が入ったものを出してはくれるが、やはりマイナー商品だ。根底には「温かくなければコーヒーのアロマは感じ取れない」という、出す側と消費者との間に共通する信念があるためかと思う。

イリーカフェとコカ・コーラの戦略は、ブランドの地元というよりやはり北米、アジアを含めた世界に向けられたものなのだろう。清涼飲料水メーカーが常に新商品を打ち出し、常に戦国時代の様相を呈している(かに見える)日本市場にとっては特に、イタリアブランド・イリーカフェは新風を巻き起こす元になるかもしれない。

販売動向によっては、ラインナップが減ったり、温かい缶コーヒーとなって新たに加えられることもありうるだろう。ともあれ、世界市場でイリーカフェが揉まれ、進化するのを待つこととしよう。市場で勝ち残ったイリーカフェがイタリアに凱旋するとき、保守的なコーヒー飲みたちの反応やいかに。今から楽しみである。


<参考>

Il Messaggero
http://www.ilmessaggero.it/articolo.php?id=21318&sez=HOME_ECONOMIA

illy 公式サイト(英語)
http://www.illy.com/wps/wcm/connect/it/illy

International Coffee Organization(英語)
http://www.ico.org/index.asp

イタリアにおけるコーヒーの市場規模(イタリア語)
http://www.massmarket.it/caffe.htm

コーヒーヴァリエーション(片岡物産公式サイト)
http://www.kataoka.com/library/coffee/02.html

コーヒーブランドメーカーで先駆切るイリー社(日経トレンディ)
http://trendy.nikkeibp.co.jp/lc/world/071010_milano/

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○menstrend.jp 2006/03/31
 田沼優子【金曜】illyのロゴはおいしいコーヒーの合図/第20週
 私はコーヒーより断然紅茶派なのですが、イリーのコーヒーは大好きです。
 苦味もすっきりしていて、のどに通るときに、どろっとしたコーヒーの
 感じがなくすごく飲みやすいコーヒーなんです。
 このイリーのコーヒーが一番楽しめるのは、イリーバールというカフェ。
http://www.menstrend.jp/metrosexual/2006/03/illy.html


○GIZMODO  2007/10/15
 「illyカフェがコンテナに入ってニューヨークに上陸」
 デザインコンセプトというより実用性を兼ね備えた芸術作品といっても
 いいかもしれません。デザインしたAdam Kalkinはデザイナー/建築家で、
 コンテナを生活空間に変える作品をたくさん発表しているそうです。
http://www.gizmodo.jp/2007/10/illy.html


○LE CAFE' -Venice Bar(YouTube映像 01:38)
http://jp.youtube.com/watch?v=Z0rbGd8CG_4&feature=related


○A day in the life of a barista(YouTube映像 02:10)
http://jp.youtube.com/watch?v=AOhY_dv_BnE&feature=related


○Amazing Latte Art(YouTube映像 01:49)
http://jp.youtube.com/watch?v=XKI7LLwtPcY&feature=related


○Latte Art(YouTube映像 03:06)
http://jp.youtube.com/watch?v=ZDZs__m5iAI&feature=related


○illy Coffee Commercial (M.C. Escher homage  YouTube映像 00:58)
http://jp.youtube.com/watch?v=wC9wd-q8x38&feature=related


○illy coffee spot (full version   YouTube映像 01:31)
http://jp.youtube.com/watch?v=3W9LqO5tl9E&feature=related

 

 


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