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急成長する高級品オンラインレンタルビジネス ブランドバッグは「所有する」より「経験する」方がお得?

  • 米国在住モチベーション・コンサルタント&コーチ 
  • 菊入 みゆき

「売り上げは、2004年のサイト創設以来、毎年倍増を続けています。今年も今のところ、前年比157%で推移しています。」

そう語るのは、ブランドバッグのオンラインレンタルサービスを手がけるFrom Bags to Richesの創立者の一人Mangiere氏だ。同社は今後3ヶ月で、カナダ、南アフリカ、イギリスにも進出するという。この不況時になかなか聞けない、羽振りのいいコメントである。

買えば何十万円、何百万円もするブランドのバッグや宝石類を、1週間、あるいは1月あたり、販売価格の10から20%程度でレンタルするビジネスが、このところアメリカで好調だ。

投資家もこの分野に熱い視線を送る。やはり2004年に参入し、急成長しているBag Borrow or Stealは昨年、総額2700万ドルの投資を受けた。この資金を元に、高級ジュエリーのレンタルにも手を広げる。50万人以上の会員を抱える同社は、5月に劇場公開される「セックス・アンド・ザ・シティ」(米人気テレビドラマシリーズの映画版)と提携し、映画の中に登場したり、YouTubeで「セックス・アンド・ザ・シティ」スタイルコンテストを実施するなど、話題にも事欠かない。

アメリカ経済が混迷を続ける中、高級品レンタルサイトは、今後も拡大を続けるのだろうか。


<解説>

「1000ドル出してバッグを買うより、(同じものを一定期間)100ドルで借りるほうが賢いでしょう」とは、先述のMangiere氏。確かに、同社のサイトの商品カタログには目をひきつけられる。買った場合の散財と比較し、「安い」と思ってしまうのだ。

最近の一番人気は、シャネルのパデッド(1ヵ月299ドル)、ルイビトンのキャリーオール(同135ドル)、グッチのイブニングバッグ(同85ドル)だそう。超高級品、エルメスのケリーバッグは、1週間500ドルから850ドルで貸し出される。

こうした人気商品を常に在庫し、顧客の注文にいつでも応じられるようにしておくことが、このビジネスの要だ。Bag Borrow or Stealも、3000種類以上のハンドバッグなど充実した品揃えが自慢だ。

実は、昨今の株価急落にもかかわらず、高級品市場全体が好調なのだ。アメリカの高級衣料、装飾品消費額は、今年1月で800億ドル、前年比108%を記録した。特にバッグ、アクセサリーなどは、消費者のセレブスタイルへの憧れに加え、体型を気にせず身につけられるワンサイズ性が消費を後押しする。

そんな活況を示す市場に、あらたなオプションとして登場したのが、高級品オンラインレンタルというわけだ。サイト上で注文をすれば数日で商品が届き、期限までに郵便や宅配で送り返せばいい。破損の際の保険もついているし、会員になれば、ディスカウント価格も適用される。

富裕層対象の調査会社ラグジュアリー・インスティチュートのPedraza氏は、「人々は、所有する代わりに、(それを身につけるという)経験を買えることに気づくでしょう」と言う。レンタルサービスは受け入れられる、と見ているのだ。

別の専門家によれば、高級品をレンタルする顧客は2タイプいるという。『買えるけれど、レンタルもする層』と、『買えないから、レンタルする層』だ。富裕層も、非富裕層も取り込めるというわけだ。

このビジネスの内情を見ると、案外、投資効率がいいことに気づく。ロレックスなどの高級腕時計や高級ジュエリーをレンタルするBling Yourselfの場合、販売価格の10から15%が1週間のレンタル価格だ。商品がレンタルに耐える寿命は2,3年。割のいい商売ではないか。

だが、これは消費者から見れば、割高ということだ。ロレックスの時計を月900ドルで5ヶ月借りたら、新品が買える。さらに、最初から買っていたら、購買価格の何割かで売ることもできる。レンタルで節約した、と喜んでいると、意外な落とし穴にはまりそうだ。

実際、借りているうちに手放せなくなり、結局買ってしまう顧客が相当数いる。その売り上げも、レンタルビジネスにとっては大きい。From Bags to Richesでは、レンタル後に購買というパターンでの収益が全体の15%を占める。消費者の心理をよく読んだビジネスなのだ。

確かに魅力的なサービスで、利用したくなる。しかし、ふと胸をよぎるのは、レンタル品を身につけたときのシミュレーションだ。「素敵なバッグ、買ったのね」と言われたら、どう答えようか。ためらいが、クリックボタンを押す手を止める。

私のような消費者はまだ多いと思う。こういう心理的な壁が、レンタルビジネスのひとつのハードルなのだろう。映画との提携などイメージ戦略が成功すれば、壁も崩れていくに違いない。「このバッグ、From Bags to Richesよ」という会話が明るく交わされる日は、近いのかもしれない。


<参考サイト>

AFP記事 2008/3/24 羨ましい?だったらレンタルしなさい
http://afp.google.com/article/ALeqM5h5XNI36r4xcx7BICkoTGYF7opPiw

CONDÉ NAST PORTFOLIO記事 2008/3/24 買えないならレンタルしなさい
http://www.portfolio.com/culture-lifestyle/goods/style/2008/03/24/Luxury-Rental-Business

FOEBES記事 2008/2/29 新たなイットバッグ
http://www.forbes.com/fdc/welcome_mjx.shtml

オンラインレンタルバッグサイト Bag Borrow or Steal
http://www.bagborroworsteal.com/ui/SexAndTheCity/home

オンラインレンタルバッグサイト From Bags to Riches
http://www.frombagstoriches.com/rentbag/pc/index.asp

オンラインジュエリーレンタルサイト Bling Yourself
http://blingyourself.com/

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2007/11/15
 ラグジュアリー・ブランドのドル箱マーケティング「旬のハンドバッグ=It Bag」
http://mediasabor.jp/2007/11/it_bag.html


○Seattle Business Bridge クォンタムフュージョン社ブログ
 「シアトルベンチャービジネス事情ーその1」 2007/06/22
 米国でも高級アクセサリーの市場は、活況を呈していて、
 昨年で$150Billion(15兆円)市場以上だったと言われています。
 しかし、ある意味では10万円から30万円もする高いハンドバックも
 すぐに流行遅れになるというおしゃれを追う女性の悩みは
 尽きないようです。
http://d.hatena.ne.jp/quantumfusion/20070622/1182467215


○INGBLOG 「高級ブランドバッグ借り放題サービス登場」 2007/09/12
 心配なのは、DVDですら「いつアクセスしてもレンタル中のオンパレード状態」
 が多いのに、果たしてブランドバッグでそれを回避できるのかという点。
 ある人気バッグ目当てで入会したのに、一度も借りられなかった、なんて
 ケースが発生しそうだが果たして・・・。
http://ingweb.seesaa.net/article/55022597.html


○NewsAsiaBiz 2008/01
 「ブランドバッグのオンラインスポットレンタル開始」
 世界文藝社(東京都千代田区、櫛田 英俊代表)は、運営する日本初の
 ブランドバッグのオンラインレンタルサービス「ORB(オーブ)」で、
 従来の1ヶ月間定額・交換自由というプランに加え、新たに1週間の
 スポットプランを始めた。
http://asiabiz.jp/newsasiabiz/2008/01/post_2762.html

 

 


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