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国、企業、市場、顧客がみな「原体験学習」に帰る時代

  • 株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長
  • 谷口 正和

「何が自らを存在たらしめた原体験か」

 今日、この「原体験」を忘れて、人間ばかりでなく、企業、商品、民族、国家が価値判断の軸を失い、自己のポジションを決定できないまま、さすらっている。
「原体験」とは、価値判断から美意識、自己存在確定のありようまでを決める体験であり、人間で言えば人格形成の元となる体験のことだ。

「戦後60年の間に我々が失った原体験とは何か」

 戦後60年、めざましい工業化は便利さを生み、電化製品、クルマ、家、グルメ、エンターテインメント、ブランド品、海外旅行、パソコン、ケータイによるデジタル文化などさまざまな「物的豊かさ」をもたらした。

 しかし同時に私たちが失ったものは、「自然との接点」「アナログ」「手作りの温もり」「農業」「生と死」「四季感覚」「自己治癒力」「食の原点」「古(いにしえ)の知恵」など決して少なくはない。地球もまた工業化による自然破壊により「原体験」を失いつつあり、国家もまた急激な情報化、都市化、高齢化など様々な要因から「原体験」の取り戻しが急務となっている。

 人間ばかりでなく、企業、商品、民族、国家でさえ、この「原体験」を失うと、未来を失っていく。今こそ立ち止まり、この「原体験学習」に戻るべき時代が来ている。何が私たちの存在を可能にしてくれた「原体験」なのか、と。

「まず食の原体験へ戻る」

 まず戻るべきは、私たちを育む「食への原点帰り」ではないだろうか。人間存在の「原点」は「生命」。どのように生命食としての「食の原点」を取り戻すかは、目の前に迫った問題だ。食育を超えて農育、農育を超えて生命育。オリジナル・エクスペリエンス、ファンダメンタル・ストーリーを取り戻す学習法だ。まず地産地消、ローカル資源、ローカル食材を食べることからはじめるのがいいだろう。

 原体験食ツーリズム、ファーマーズスクーリング、ダイバーシティ(多様性)フードレッスンなどを、都市生活者と交流しつつ、「食の原体験」を体験していくサービスが重要になってくる。ホームエリアエンジンのフル活用である。

 このことを踏まえた事例に、東京・東村山市立第八保育園の「食農保育」がある(うかたま 春号)。園庭に田んぼがあり、子ども達は1年間米づくりを体験する。田植え、収穫を体験するだけではなく、前年の米を種モミとして残し苗を育てる。約600平方メートルの園庭には12平方メートルの小さな田んぼや合わせて8平方メートルの2枚の畑があり、周囲には遊具を囲むように柿、キウイ、夏ミカン、いちじくなど15種類以上の果樹が植えられ、犬、チャボ、ミニ豚、うさぎも飼われている。また田んぼと池を結ぶ水路づくりが進行し「子どもが命を感じられる場」が着々とできあがっている。

 1年間かけて米づくりを体験することは、子ども達に「お米ができるまでの長い時間」を体験させることになり、自分達が食べているお米がどう作られ、何人の人の手を介して食卓に並ぶかを学習することができる。また果樹や家畜に囲まれて過ごすことは豊かな自然を体験することにつながるだろう。

 The Nikkei Magazine 3月号では「健康特集」で、食の原点「雑草料理レシピ」を紹介している。「タンポポサンド」「ハコベスープ」「ヨメナの生ハム包み」「ササ茶」など。また多摩川で出会った雑草「ヨモギ」「ノゲシ」「ハマダイコン」なども紹介する。栄養素を多く含む雑草は中国最古の薬草書「神農本草経」にも記されているように、昔から漢方薬として用いられてきた。アクが強いので軽く茹でて、繊維を細かくきざめば、大抵の料理に応用できる。

 このように、食の原点とも言える食材にも注目が集まっているが、「原体験学習」のソースとして注目されているのは「食」だけではない。「店」もまた「原体験学習」の対象である。

 渋谷109がもう一度「ギャルのメッカ」を目指し、10代ブランドの再構築を強化している(繊研新聞 3/19)。グラマラスカジュアルブームやOL客の増加で顧客の平均年齢が毎年0.5から0.8歳ずつ上昇し、春の改装からティーン向けブランドの取り込みを強化する。制服姿のまま学校帰りに立ち寄る女の子たちがあふれていたかつてのマルキューを取り戻す戦略だ。「ミエル=クリシュナ」、「ティティー&コー」、「リダーク」など新7ブランドを導入している。

 企業も個人も国も地球も「原体験学習」の時代。ここに工業化によって行き詰まってしまった袋小路の突破口があるだろう。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○波多野毅の「TAO徒然日記」♪ 「原生林体験」2008/03/23
 カナダ・バンクーバー島での「原生林」で静かに呼吸している時、
 自分の内と外の感覚がなくなっていく不思議な経験をしたことが自分の
 原体験となっているという興味深いエピソードを紹介してもらった。
 昨年私も屋久島に行き、屋久杉の原生林の中、自然との一体感を感じ、
 心癒されたが、またひとつ違う感覚がどうもそこに潜んでいるような
 気がした。
http://plaza.rakuten.co.jp/taopot/diary/200803230000/


○ブランドファッション通信  2008/04/03
 NHK「東京カワイイ★TV」始まる-渋谷109・裏原・デコる
 毎年109の半分が、店舗を入れ替えるという厳しい世界。まさに買い手市場
 である109は、どれだけ若い女の子のトレンドセッターとして、提案し続ける
 ことができるかが勝負のようです。
http://brandbanzai.seesaa.net/article/92111478.html

 

 


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