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iPhoneヒットによる携帯電話の地殻変動は次世代スマートフォン開発競争へ

2007年、鳴り物入りで参入したアップルのiPhone。スマートなデザインに大きな画面、そしてタッチパネル操作で、携帯市場に衝撃をもたらした。そして今、焦燥感に駆られているのは、既存の携帯電話販売業者達だ。それほど売れないだろうと踏んでいた業者も多かったが、蓋を開けてみれば、iPhoneのシェアは、2007年第4四半期で全体の28%となった(2008年2月市場分析会社アナリス調べ)。完全にヒットをぶち上げられた携帯業者は、新しい携帯電話の開発を急ピッチで進めている。


▼大手各社も、タッチスクリーンで勝負

大手の携帯会社はiPhone欲しさにAT&Tに顧客が流れてしまうのを恐れて、必死の形相を呈している。顧客を引き止めるため、特にiPhoneに太刀打ちできるスマートフォンの開発に力が入っている。ここでスマートフォンの動向を見てみよう。

大手キャリアであるスプリントネクステルは4月1日にサムスンと共同開発した「instinct(インスティンクト)」を発表。大きなタッチスクリーンに、GPS機能、インターネット、テレビ視聴機能も持ち合わせて、早くも「iPhoneキラー」と呼ばれ評判も上々だ。今年の末にも販売を開始する予定で、スプリントはインスティンクトに大きな期待をかけている。

LG Electronics(韓国)が2月11日に発表した、LG-KF700は、タッチスクリーンとキーボードを両方搭載。キーボードは、スクリーンの後ろに隠れており、使用する際にスライドして使う。Sony EricssonのXperia X1も同じく、スライド式のキーボードとタッチスクリーンの両方を搭載し、使用感にこだわった。

携帯メーカー世界最大手であるノキア(フィンランド)は、タッチスクリーンを搭載した機種を開発中で、6月以降に発売する予定であるとしているが、新機能については公表されていない。

ブラックベリーをヒットさせたカナダの携帯メーカーRIM(カナダ)も新機種を開発中だがその内容は極秘。こちらもタッチスクリーン搭載とみられている。


▼ソフトウエア会社も続々と新機能を用意

長い間デザインや機能の立ち遅れを指摘されていたアメリカの携帯電話だが、スマートフォン市場の活性化で、突破口が開かれた感がある。携帯という枠にとらわれず、ミニコンピューターのようなコンセプトに近づいているのも特徴だ。タッチスクリーンやGPS機能に引き続き、様々なアプリケーションも急ピッチで開発されている。ウォールストリートジャーナルが報じた、新規開発中の注目アプリケーションをいくつか紹介しよう。
 
まずは、ボイスコントロール機能。もちろん、パソコンでもすでに導入されているボイスコントロール機能だが、Nuance Communications Inc が開発中のボイスコントロール機能は声の認識感度をさらに高めて、声だけでウェブの閲覧をしたり、Eメールを打ったりまさに「ハンズフリー」で使えるような機能を目指している。
 
また、LiveCargo Incが開発しているのは、ビデオや写真や、書類をオンラインで保存し、それを携帯で閲覧するというシステム。仕事で使っている書類を携帯電話で編集したり、家族旅行の写真を出先で人に見せたり…と、大画面のタッチスクリーン携帯だからこそ使いたい機能だ。プラットフォームをすでに携帯会社に販売しているが、新たな機能を開発中だ。

そして、ゲームもますます複雑なものが楽しめるようになる。人気オンライン仮想シミュレーション「セカンドライフ」(仮想世界)も、Vollee Ltdによって携帯電話から利用できるようになる。 セカンドライフは、3Dでネット上に自分の分身(アバター)を作り、仮想世界で冒険したり、人と交流をしたりできるシミュレーションプラットフォームだが、携帯電話の画面でも見やすいように再フォーマットされ、どこでも使えるようになる。


▼iPhoneを打ち負かす勝算はあるのか?

大手企業が開発を急ぐ姿は十分に伝わってくるが、iPhoneで目の肥えてしまった消費者を取り込むことはできるのか?

絶賛されているiPhoneの、その欠点を突くのが勝負のポイントになるだろう。例えば、iPhoneのキャリアがAT&Tだけであることに不満がある人は多い。そして、ビジネスで使われるロータスやグループワイズなどのメールプログラムが使えない。

従業員に携帯電話を持たせている企業は、すでにブラックベリーなどスマートフォンに大きな投資をしている。こういった背景から、ビジネスで利用される機能を充実させることで、ビジネス目的でスマートフォンを利用する人たちに向けてアピールする余地はありそうだ。

iPhoneが起こした携帯電話の地殻変動がこれからどのような動きをもたらすのか。米国の携帯電話戦争は、これからますます面白くなりそうだ。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○404 Blog Not Found 2008/02/21
 「iPhoneで見えた世界のケータイ-書評-iPhoneが日本に上陸する日」
 本書「iPhoneが日本に上陸する日」の主人公は実はiPhoneではない。
 日本のケータイ業界なのである。香港在住の携帯電話研究家である
 著者山根康宏は、iPhoneを通していかに日本のケータイ業界が日本の常識、
 世界の非常識であるかを語ったのが本書なのである。
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51006005.html


○Tech Mom from Silicon Valley 「CTIA雑感」2008/04/07
 現在、「世界の携帯電話業界の潮流」は、ヨーロッパが中心で、展示会
 という意味でも、2月にバルセロナでやるMobile World Congress
 (MWC、旧3GSM)のほうが、断然注目されるし、だから新しいものも展示
 される。新興国市場の台頭で、GSM世界が急速に広がり、その頂点である
 MWCの重要度はますます高くなり、一方でGSM世界からはちょっと外れる
 アメリカの「田舎」感はますます増大している。
http://d.hatena.ne.jp/michikaifu/20080407/1207588067


○理系兼業主婦日記 「パラダイス鎖国」 2008/04/04
 おそらくはいくらかの日本人が気づきはじめ、眉間に皺を寄せた“識者”
 たちが悲痛な警鐘を鳴らしはじめた「パラダイス鎖国」ニッポンの現状
 を、海部さんは緻密に、冷静に分析する。われわれ普通の日本人ひとり
 ひとりが、どうやったら「ゆるやかな開国」「軽やかなグローバル化」
 にトライできるか、そして、その結果どんないいことがあるか、を明るく
 落ち着いた筆致で説いている。
http://d.hatena.ne.jp/pollyanna/20080404#p1


○CNET  2008/03/07
 「目指すはメディア企業、広告ベースMVNOのBlyk」
 TVやインターネットなどの無料メディアのように、携帯電話も広告により
 無料にしてしまおう--英国で昨年9月にBlykがローンチした。今年後半
 にはオランダにも進出する計画だ。広告は現在、モバイル業界の注目
 トピックスの1つ。今回は先駆者的存在のBlykについて紹介する。
http://japan.cnet.com/column/europe/story/0,3800077429,20367824,00.htm


○CNET  2008/04/03
 「約半数は20代、15%は学生」:調査結果が明かす「iPhone」のユーザー像
http://japan.cnet.com/mobile/story/0,3800078151,20370701,00.htm


○ITmedia News  2008/02/07
 「10─12月期の世界スマートフォン出荷、Appleがベンダー別3位に」
 スマートフォンおよびPDAの出荷台数ランキングで、AppleがMotorolaを
 抜き、Nokia、RIMに次ぐ3位にランクインした。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0802/07/news017.html


○WIRED VISION 「イー・モバイル旋風が業界を変えるか?」 2008/02/26
 日本のケータイ端末の企画・開発は通信事業者側に委ねられている。
 端末メーカーがどんなアイデアを出そうとも、通信事業者が「NO」と
 いえば商品化されることはない。端末メーカー側の担当者の本音を拾えば、
 「通信事業者側からこういうものを作れ、と言われるが、どう考えたって
 売れなさそうなアイデアを当然のように押し付けてくる」などという
 意見を何度も聞いた。
http://wiredvision.jp/blog/kogure/200802/200802261130.html


○ITpro  2008/01/31
 「KDDIのスマートフォンは08年度後半に登場? 白熱した法人向けモバイル討論会」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080131/292732/


○明日のマーケティング「注目のキーワード6(iPhoneと触覚)」2007/12/18
 ノキアの戦略的マーケティング担当上級副社長は、マッキンゼーの
 インタビューに答えて、「我々人類の祖先と他の霊長類とを区別させた
 のは、親指を動かし、ものをつかみ、道具を巧みに使うことができる
 ようになったことです。手を使うことを通して、人類は種として進化し、
 脳の大きさが発達したのです。 だから、IT機器をデザインするとき、
 手の中でのその機器がどう感じられ、指や手がその機器をどう操作する
 かが非常に重要になるのです。」
http://newmktg.typepad.jp/blog/2007/12/post_c471.html


○Sony Ericsson  Xperia X1(YouTube映像 01:04)
http://jp.youtube.com/watch?v=4c0R8mLL1Rk

○LG KF700 at Mobile World Congress 2008(YouTube映像 01:33)
http://jp.youtube.com/watch?v=AYo1TJ2JWV0

○Samsung Instinct Interface(YouTube映像 01:21)
http://jp.youtube.com/watch?v=RoJTDB9AmpE&feature=user

○Nokia Booth Tour at CTIA 2008 by Cellularconcepts.com(YouTube映像 02:29)
http://jp.youtube.com/watch?v=12QrFViR9Do

 


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