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ブラジルでバイオエタノール生産量がガソリン生産量を上回る。環境保護との矛盾も。

<記事要約>

ブラジル石油局(Agência Nacional do Petróleo略ANP)によれば、2008年2月のエタノール生産量がガソリン生産量を超えた。これは石油局がここ10年調査を始めてから、初めてのことである。ANPの供給部部長エドソン・シルバ氏によれば、この生産量逆転は予想よりも早いとのこと。「今年4月にはエタノール生産量がガソリン生産量を上回ると予想していました。現在は遅くとも今年度末までに、エタノールの消費量がガソリンを上回ると予想しています。」フレックス車の普及と、エタノールの安い価格が背景にあると石油局は強調する。

グローボ紙2008年4月9日(O  Globo ブラジルの日刊紙)

 

<解説>

ブラジルのバイオエタノール生産量はアメリカに次いで世界第2位、世界最大の輸出国だ。トウモロコシからエタノールを生産するアメリカと異なり、さとうきびを原料とするブラジルのエタノール生産方法、食料との競合問題に注目が集まっている。

エタノールは、再生可能なエネルギーであり、その燃焼過程から地球に優しい燃料として注目されてきた。しかしその生産過程での環境破壊が懸念されており、エコ燃料が地球を破壊するという矛盾に悩まされている。

原油価格の高騰などの理由から、需要が拡大しているエタノールを生産するため、トウモロコシの需要が急増したアメリカでは、2006年のトウモロコシ生産量の15%がエタノールの原料となっている。そのため、食用のとうもろこしをはじめとする穀物の価格が急騰しており、結果的に食料が燃料用途に奪われるという事態が発生しつつある。

サトウキビからのエタノール生産には広大な農地を必要とする。ブラジルには未利用地が多く、アマゾン地域はサトウキビ生産には不向きであることから、環境破壊の心配なしに生産増量が可能だというのがブラジル政府の見方である。

実際サトウキビ畑による森林破壊はまだ公式報告されていない。しかしサトウキビ価格の高騰により、農家の転作が多く発生しており、大豆などの食物栽培地から農家がサトウキビ農地に転換する傾向がある。そのため、新たな大豆生産や牧畜のための森林開拓が加速しており、結果としてアマゾン地域における大豆生産が拡大し、森林破壊の大きな要因となっている。もちろん大豆を原料とするバイオディーゼルの生産増も、大豆畑拡大を促している要因となっている。

また、長年問題とされてきたブラジルにおけるサトウキビ農園での労働者の奴隷的労働実態、収穫時の火入れの際の大気汚染は、政府の規制によって少しずつ改善されているが、まだまだ環境にやさしい燃料にふさわしい状況とは言い難い。

サトウキビ1トンあたり21000リットルの水分を必要とするといわれ、水源確保の問題も表面化している。現在ブラジルの多くの農園では、500から1000リットルに減らす工夫がされているといわれるが、今後サトウキビ畑が増加するに当たって、新たな研究と政府の基準づくりが急がれている。

ブラジル政府は、食料との競合問題について、需要を超えた食糧生産を行っているという。ブラジルにはサトウキビを生産できる土地が十分にあり、全体の生産の半分は砂糖生産にまわっているというのだ。昨年、砂糖の値段が2割ほど上昇したが、それは干ばつの影響だという。しかし、今後需要急増が予想されるエタノール生産に対応するため、また、自然災害や天候変化などの影響により、食料が燃料に回されることはないと断言できるのだろうか。

エコ燃料がエコ燃料であり続けるために、関係企業、政府は環境破壊、食料競合問題には敏感であってほしいと思う。今後の対応がブラジルの経済動向、世界におけるエタノール市場を大きく揺らすことは間違いない。

 


【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2008-04-10
 「糖質から直接ガソリンを作る。次世代のバイオガソリンをシェルが開発」
http://mediasabor.jp/2008/04/post_362.html


○MediaSabor  2007-07-19
 「世界初!植物からポリエチレン生産 
  ─今ブラジルのさとうきびが甘くて熱い!─」
http://mediasabor.jp/2007/07/post_160.html


○MediaSabor  2007-07-09
 「食糧自給率の低い日本に迫る危機─矛盾だらけのバイオエタノール」
http://mediasabor.jp/2007/07/post_154.html


○舩木俊介  革新時代の仕事脳「環境・人権・平和ファシズム」 2007/05/29
 環境という言葉に熱狂して短絡的な善悪に陥るのではなく、
 冷静な目でこの問題を解決していく必要があるのではないだろうか。
http://executive.cocolog-nifty.com/b9/2007/05/post_82fb.html


○開発と権利のための行動センター
 「バイオ燃料生産とジェンダー:FAO報告書」 2008/04/22
 発展途上国における大規模なバイオ燃料生産の拡大が農村部に
 おける女性の周縁化をさらに進めるものと警告している。
http://cade.cocolog-nifty.com/ao/2008/04/fao_2e33.html


○WIRED VISION  2008-01-22
 「トウモロコシは最悪」26種のバイオ燃料のエコ効果を分析
 今回の調査では、温室効果ガスの排出量と環境への影響に基づき、
 それぞれの農産物のメリットを算出した。最も優れたバイオ燃料は、
 リサイクルされた食用油と、草および木由来のエタノールだった。
 逆に、最悪のバイオ燃料は、ブラジルの大豆、マレーシアのヤシ油、
 米国のトウモロコシから作られるもので、これらはすべて、それぞれの
 国でバイオ燃料プログラムの中心となっている。
http://wiredvision.jp/news/200801/2008012223.html


○江戸っ子でぃ 『バイオ燃料神話』を考え直そう  2008/02/12
 温暖化防止のためのバイオ燃料を得るための森林の無秩序な開発が、
 実は人類にとっては、最悪の選択であると言う。本来ならば、
 『CO2を排出するものを使う事を抑える。』ことを追求するべきなのに、
 『使い続ける』ことを前提にすることを止めようとしない。
 どう考えても、おかしい。
http://blogs.yahoo.co.jp/jijinakazato/32665312.html


○Eco-Land  「サゴヤシからバイオ燃料」 2008/01/29
 しかし… このサゴヤシはマレーシア連邦のサラワク州(ボルネオ島)の
 メラナウ族、またパプアニューギニア、ブルネイ・ダルサラーム国はじめ、
 東南アジアでは主食にしている民族がいることと、ほかに澱粉質は実は
 日本でもアレルギー患者などの食用及びお菓子の原料になったり、
 皮膚アレルギーの子どもによっては、粘土の材料などにもなっています。
http://recyclingnetwork.blog102.fc2.com/blog-entry-161.html

 

 


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