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ドル安で活況のアメリカ輸出ビジネスだが、コンテナ不足で輸出できない事態も

  • 米国在住モチベーション・コンサルタント&コーチ 
  • 菊入 みゆき

このところのドル安で活況を呈しているのが、アメリカで輸出ビジネスを手がける企業だ。特に小回りのきく中小企業は、アジア、カナダ、ラテンアメリカ、ヨーロッパ、アフリカなどへの商品やサービスの輸出を、速いペースで拡大させている。米中小企業局によれば、従業員500人未満の企業の輸出高は年々増加の一途を辿っており、2007年は総額4,000億ドル(約40兆円)に達すると推計される。これは1992年の4倍の数字だ。今後もドル安が続けば、この数字はさらに大きくなるだろう。

「輸出は、多くの中小企業がいまだ気づいていないビジネス・チャンスなんですよ。彼らの製品には十分な海外競争力があります」と中小企業局の担当者は言う。

例えば、Beauty Encounterというオンライン化粧品販売会社の場合、立ち上げの1999年には15万ドル(約1,500万円)だった売り上げが、昨年は2,000万ドル(約20億円)にまで拡大。うち15%は英国、カナダ、ドイツ、ラテンアメリカ、日本への輸出だ。ドル安になってから海外での販売が好調なのだ。

ハーレーダヴィッドソンの特約販売店、Global Productsも、昨年度1,800万ドル(約18億円)の収入のうち10%は、カナダ、ヨーロッパ、日本、オーストラリア、韓国、ドバイなどへの海外販売によるものだ。CEOのHerwickさん(49歳)は、「今後はラテンアメリカなどの市場を開拓し、この数字を25%まで引き上げるつもり」と語る。

と、まあ、このように景気のいい話が引きも切らないのだが、ここにきて重大な問題が浮上している。出荷用の金属コンテナが足りないのだ。商品はある。注文も来た。しかし、出荷できないという歯がゆい状況が起きている。

バージニア州のベイブリッヂエンタープライズ社は昨年8月まで、月1,000コンテナのペースで、スクラップ金属をインド、バングラデシュ、パキスタンなどに輸出していた。同社の顧客はスクラップ金属を溶かし、新たな金属製品を製造している。しかし、今では300から400もコンテナが確保できればラッキーなほうだ。同社の社長は嘆く。「まったくイライラする。ほんとうなら、月に2,000コンテナだって出荷できるんだ。とにかくコンテナがないんだよ」

実はこの問題は、単なる箱不足で片付けられるものではない。アメリカの貿易、輸送システムが再考を迫られているのだ。これまでアメリカは、大量に輸入されるスニーカーやオーディオ機器といった消費財を、いかに効率的にさばくかに重点を置いて、貿易や輸送のシステムを構築してきた。港に着いた荷物は、ロスアンゼルス、ニューヨーク、シカゴなど小売企業や倉庫などがある大都市に運ばれる。この流れは整備済みだ。

しかし、輸出という逆の流れに関するロジスティクスは未整備だった。足りないのは、コンテナだけではないのだ。シャシーと呼ばれる、コンテナの台座部分も足りない。シャシーがなければ、コンテナを動かせない。さらにはアメリカから他国へ向う船便数自体も足りない。コンテナを確保した企業は、今度は船のスペースの奪い合いをしなければならない。

ウィスコンシン州の芝刈り機メーカー、Ariens Co.では、これまでジャストインタイムでの生産に力を入れ、在庫を著しく削減してきた。それが今回、裏目に出てしまった。春先は、ヨーロッパで芝刈り機の需要が急増するのにもかかわらず、コンテナを確保できないため、時期に間に合うように輸出できない。かといって、航空便はコストがかかりすぎる。輸送問題は、会社の事業内容や収益の構造にも大きな影響を与えてしまう。

興味深い話だと思う。好調なビジネス分野には、様々な資源が投入され、環境やシステムが整えられる。しかし実は、それこそが新しいビジネス発生の足かせになったりもする。中小企業がいち早く目をつけた輸出ビジネスも、この足かせが重いようだ。専門家は、「この問題は少なくとも来年末まで輸出企業を悩ませるだろう」と見ている。やはり、転換や変化というのは、そうそう簡単にはいかないものだ。

暗雲垂れ込める経済環境の中、せっかくの数少ない活況分野だ。斬新なアイデアで足かせを乗り越える企業が現れるのを期待したい。


<参考サイト>

USATODAY 記事 2008/4/7 米中小企業の大きなグローバルセールス 
http://www.usatoday.com/money/smallbusiness/2008-04-07-small-business-exports_N.htm?csp=34

WallStreetJournal 記事 2008/4/10 コンテナ不足が米輸出ビジネスの行く手をさえぎる 
http://online.wsj.com/article/SB120777787845302955.html?mod=googlenews_wsj

Business Week 記事2007/12/14 輸出―ドル安の利点― 
http://www.businessweek.com/magazine/content/07_72/s0712020761219.htm?chan=search

Beauty Encounter社のサイト
http://www.beautyencounter.com/

Global Products社のサイト
http://www.globalproductsinc.com/GP/welcome.asp

Ariens.Co.のサイト
http://www.ariens.com/

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○筆不精者の雑彙 2007/05/01
 M.レビンソン『コンテナ物語』感想 及び同書の感想に対する感想
 コンテナ導入に当たっては、海運業や荷役の当たる労働者の組合の
 抵抗(何せ輸送業の労組は強力なので)であるとか、規格を巡るゴタゴタ
 だとか、様々なすったもんだがありますが、コンテナはやがて否応なしに
 世界へ普及します。コンテナの導入によって輸送のコストは下がり、
 トラックはトラック、船は船と分かれていた物流が一体の(シームレス)
 ものとなって行きました。輸送コストの低減は製造業の立地を変え、
 新たな都市や国が台頭するきっかけとなります。一方でついて
 いけなかった港町は、その伝統に関らず没落していくことになります。
http://bokukoui.exblog.jp/5280077/


○404 Blog Not Found  「コンテナーという革命」2008/01/09
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50982449.html


○横浜市港湾局 貨物の流れ(コンテナの種類)
http://www.city.yokohama.jp/me/port/learn/container.html


○Shipping Container Homes by Container City(YouTube映像 05:06)
http://jp.youtube.com/watch?v=65C9OLvmjpI&feature=related

 

 


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