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CDが売れない時代に浮上するライヴ・ネイションというコンサート・プロモート会社

  • レコード・コレクターズ 編集部
  • 祢屋 康

 4月に入って、U2がアメリカの興行会社ライヴ・ネイションとコンサート・プロモーション契約を結んだという報道があった。昨年の10月に話題になったマドンナに続いて、またもや大物アーティストがライヴ・ネイションと契約ということで大きく報道されたのだが、マドンナとは違ってU2はレコーディングと音楽出版はこれまでと同じくユニヴァーサル・ミュージックとの契約を続けるとのことだった。

 ライヴ・ネイションという会社のことは僕自身もマドンナとの契約のときに初めて知ったのだが、メディアサボール編集部から教えてもらったニュース・サイト(http://www.notrax.jp/news/detail/0000004168.html)には、新たにアーティストマネージメント部門Artist Nationを設立し、責任者にはローリング・ストーンズのツアー・プロデューサーが就任しているとある。ほかにも、アーティスト・レコーディング・ディヴィジョンの責任者にはキッスやアリス・クーパーなどを手掛けたプロデューサーのボブ・エズリンがいるなど、長年、音楽業界で活躍してきた裏方がけっこう参加していそうなのも興味深い。

 マドンナの話が昨年大きな話題になったのは、いわゆるレコード会社ではなく、イベント興行会社とアルバム・リリース、ライヴ・ツアーのマネージメントやマーチャンダイズ(関連グッズなどの販売)などを含めた前例のない契約を結んだからだった。ライヴからの収益をアーティスト活動のメインに考え、CDこそがプロモーーションの手段、というこれまでとはまったく逆の考え方のもとでこの契約形態が結ばれたことは大きな衝撃を持って迎えられた。

 この話を聞いて思い出したのは、その少し前の昨年7月に、プリンスが自身のニュー・アルバム『プラネット・アース』をイギリスの新聞“Daily Mail”誌の日曜版“Mail On Sunday”の7月15日号に付録で付け、(新聞代のみで)無料配布したというニュースだった。これは日本ではマドンナほどは一般には報道されなかったような気がするが、マドンナの報道以上に驚いた記憶がある。

 そのおかげで、昨年8月と9月に行なわれたプリンスのO2アリーナでのイギリス公演は21回のうち15回が発売1時間以内にソールド・アウトしたということだ(21回の公演も満員だったらしい)。しかも、この時のチケット代の31ポンドにはそのニュー・アルバム『プラネット・アース』も含まれていた(コンサートに来た人にも無料配布)のだからすごい話だ。

 当然、イギリスのソニー/BMGや英国小売業者協会の会長は大反発し、「プリンスのキャリアをサポートしてきたすべてのレコードショップに対する侮辱である」とプリンスを非難している。これらのプリンスの活動に関してはジャーナリストの津田大介氏のブログ(http://xtc.bz/index.php?cID=8)に詳しい記事が載っているが、そこで津田氏が書かれているように、プリンスの狙いは「レコードで収入を上げるのではなく、ライブエンターテイメントの収益を最大化する」ということにあるようだ。

 とはいえ、ライヴでの収入がCD販売による収入を大幅に上回るプリンスやマドンナなんかのアーティストにとっては、これは実に合理的なあり方なのかもしれないが、ライヴでの観客動員数が見込めるアーティストでなければ成立しないことも事実だ。

 インディーズのレコード会社が増え、アーティストがユーザーに直接発信する状況もますます進むなかで、大物アーティストたちが大きなレコード会社を介さず、(プリンスの場合は新聞を通じて)ユーザーに直接アプローチする動きを見せるのは興味深いことだ。つまりは、自分たちの目に見える方法で(ライヴであれCDであれ)収益を分配する可能性を探るということなのだろう。

 レコード会社がアーティストのプロモーションと制作費をサポートする、というのがこれまで一般的なあり方だったが、プリンスが訴えてきたのは、簡単に言えばレコード会社という企業がアーティストを搾取する構造をなんとかしたい、ということで、それがこうした行動に出た要因なのは間違いない。

 CDが売れなくなったと言われ、ダウンロード販売は伸びているとはいえ、一部のアーティストの売り上げで、レコード会社の社員から売れないアーティストの面倒までをみるというレコード会社の経営体制が時代にそぐわないものとなりつつあるということだろう。大物アーティストの行動で音楽業界の構造自体が一夜にして変わることはあり得ないだろうが、レコード会社とアーティストのこれからのあり方、関係性を考える上でも、示唆的なニュースではある。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○【One Wild Night】Blog --RockNews-- 2008/05/02
 コールドプレイ、『美しき生命』スペシャル企画開始!
 ニュー・アルバム『美しき生命』を全世界に先立ち、6月11日に
 日本先行発売するコールドプレイ。その中から新曲「ヴァイオレット・ヒル」
 が日本時間4月29日PM8:15からオンエア開始、そしてオフィシャルサイトで
 無料ダウンロードが実施されている。
http://blog.livedoor.jp/rock_roll/archives/51113184.html


○CNET  2008/05/01
 「レディオヘッド、pay-what-you-wantプロモーションは続けず」
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20372519,00.htm


○ITmedia News  2008/04/02
 レディオヘッドがiTunesで「リミックス素材」を販売
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0804/02/news033.html


○GIGAZINE  2008/03/03
 「ナイン・インチ・ネイルズ公式サイトから一部アルバムの無料ダウンロードが可能に」
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20080203_nine_inch_nails/


○P2Pとかその辺のお話@はてな 2008/02/02
 「Jimmy Pageのお話と、バンドの再結成のお話」
 再結成したポリスがえらい稼いでるのね。
http://d.hatena.ne.jp/heatwave_p2p/20080202/1201889954


○POLAR BEAR BLOG 「プリンスに学ぶビジネスモデル」2007/07/23
 「マルチプラットフォーム戦略」により、プリンスはアルバムの売り上げに
 依存しなくてもよくなっているようだ、と New York Times は推察して
 います。確かに以前からレコード会社と対立し、彼らに行動を支配される
 ことを「奴隷制度」になぞらえていたプリンスですから、「アルバムを売る」
 というビジネスモデルからの脱却を常に模索していたのでしょう。
http://akihitok.typepad.jp/blog/2007/07/post_4d9c.html


○BARKS ニュース  2008/03/17 
 木村拓哉主演のドラマ「CHANGE」にマドンナ
http://www.barks.jp/news/?id=1000038623


○池田信夫blog 「マドンナはレコード業界を捨てるのか」 2007/10/12
 音楽業界は、全世界の市場の75%を5大レーベルが占める寡占市場だ。
 この談合構造が、オンライン配信の妨害やCDの価格カルテルの原因に
 なってきた。彼らに搾取されてきたミュージシャンがレーベルを
 「中抜き」し始めたことは、ウェブによる産業構造の変化の兆候
 として興味深い。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/215114029469143cc5201ed265c5ebef


○マドンナ特集【OnGen:国内最大級の音楽ダウンロードサイト】
http://www.ongen.net/international/artist/feature/madonna080430/index.php

 

 


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