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佐藤可士和の超“広告”術(後篇)─NO STYLE 広告論

前回に引きつづき、『佐藤可士和の超整理術』をガイドにアートディレクター・佐藤可士和さんの“広告術”について考えてみたいと思います。


Chapter3:ユニクロのブランディング


ユニクロのTシャツブランド「UT」の新キャンペーンが始まっている(http://www.uniqlo.com/utloop/)。

テレビCM(http://jp.youtube.com/watch?v=W-3OHrcqyFU)でオンエア(というか、デモンストレーション)されているUT LOOPを自分でも簡単に作成でき、これまた簡単に自分のブログにはっつけられるコンテンツが楽しい。テレビとウェブのクリエイティブをシームレスに連動させた、なかなか画期的なキャンペーンだ。(あえて難を言うとちょっと重い。あと、LOOPをうまく作るのが難しい。それはこちらの問題だが…)。

この仕組みやCM等の演出を手がけたのは、ウェブデザイナーの中村勇吾だが、佐藤は今回のキャンペーンのクリエイティブディレクションも含め、2006年のNYフラッグショップオープンより、ユニクロのグローバルキャンペーンのクリエイティブディレクションを担当。UTにはブランド立ち上げのコンセプトメイキングから関わっている。

『超整理術』を読むと、ここでもクライアントへの「問診」をへて、「整理」そして新しくポジティブな価値の創造(ブレイクスルー)へいたるプロセスが、明快に書かれている。

ユニクロの柳井正会長から「ユニクロのあるべき姿を、明確に見えるカタチにして、皆に見せてほしい」というオファーを受けた佐藤は、「ユニクロはいわゆる“ファッション・カンパニー”というより、どちらかと言えばネジや釘などを売っている東急ハンズのような“パーツ・カンパニー”という感覚なんです」という会長の言葉にインスパイアされ、「美意識のある超合理性」というコアを抽出。そして、そのコンセプトを元にロゴデザインを始め、ユニクロのNYフラッグショップのブランディング戦略を構築していった。

UTのケースでは、毎シーズン力を入れて500点ものアイテムを展開しながら、フリースほどには認知されていなかったユニクロのTシャツを強いブランドにするため、今度は「スウォッチみたいな店を作りたい」という会長のひと言をヒントに、UTのローンチに合わせて、「UT STORE HARAJUKU」というショップをプロデュース。“買い方そのものをデザインする”という着想から、ペットボトルのパッケージにTシャツを入れ、それを壁一面に並べて販売するという、これまでにないスタイルを考案している。

UT STORE HARAJUKUは、確かに商品が見やすく買いやすい。ふつうのお店だと、Tシャツ売り場は、Tシャツが何枚も重ねて置かれているため、手に取って見たあと、Tシャツをきれいに戻すのが難しい。その作業はTシャツを選ぶとき、意外とストレスになったりもする。が、UT STORE HARAJUKUはスペースの中央にハンガーにかけられてずらっと並んでいるサンプルを見て、気に入ったものがあれば、壁に並んでいるペットボトル(というか見た目はカプセル)から自分に合ったサイズの商品を選べばいいので、“服屋”のシステムとしてはかなり簡単だ。佐藤の言う「未来のTシャツのコンビニエンスストア」のイメージにピッタリだ。そして“服のパーツ・カンパニー”を自認するユニクロのイメージにも合う。

こうしてUTはヒットし、原宿のショップも連日賑わっている。去年、ユニクロのコミュニケーションとは別のテーマで、柳井会長にインタビューさせていただいた際、取材終了後、補足的にユニクロのキャンペーンの話を少しだけ聞いたのだが、会長も佐藤には多大の信頼を寄せていることが、その言葉の端々から感じられた。


Chapter4:クリエイター佐藤可士和を“超整理”する


主にキリン「極生」について触れた前回の原稿はこう結んだ。

エッセンスに到達してからの「潔さ」と「スピード」。これも佐藤氏の仕事を語る際には欠かせないキーワードだが、その資質が発泡酒という時代の商品のキャンペーンにおいて存分に生かされたと言えるだろう。潔さとスピードはデザインに“キレ”をもたらす。

ユニクロのプロジェクトについても同じことを感じる。「ユニクロはどちらかと言えば“パーツ・カンパニー”」「スウォッチみたいな店を作りたい」といった会長のひと言を的確に捉え、彼が“整理”と呼ぶデザインプロセスをへて、それがロゴであれ、ショップであれ、スピーディにシャープにアウトプットする。そして、プロデュースしたものに世の中の支持が集まる。

これは佐藤可士和の手がけるプロジェクト全般に概ね当てはまると言えそうだ。SMAPのアートワークといったいわゆるグラフィック的、広告的な仕事から、NTT DoCoMo「FOMA N703i」のプロダクトデザイン、ふじようちえんや明治学院大学ブランディングプロジェクトのような教育系のプロジェクト、国立新美術館のVIとサイン計画など、『超整理術』を読む限り、彼の仕事はいずれもそういったマインドから発想されていることがわかる。

今回のメディアサボールの原稿で紹介させてもらった、キリン「極生」、ユニクロ「UT」という2つのプロジェクトが「コンビニ」をイメージソースにしていることも見逃せない。極生もUTもコンビニ的な売られ方をしたときに、もっとも映えるように計算された上で“アイコン化”されている。

試みに、佐藤可士和のクリエイティブのキーワードになりそうな言葉を、『超整理術』の中からひろっていってみよう。(※クリエイションとは、散らかすことも含めて、ある種の“整理作業”によって本質に到達し、それを表現する行いだと思うので、「整理」という言葉そのものは省く)。

●スピード・シャープ(潔い or 無駄がなく効率がいい)
 クール(理にかなっている)・アイコン

ほかにもありそうだが、これくらいが主なところだろう。彼のクリエイションのイメージにピッタリきそうな言葉が並んだ。「速く、鋭く、わかりやすく」がイノチである。しかし、ちょっと考えてみるとわかるように、それは彼だけが指向するものではなく、デジタル社会に暮らすいまの生活者が求めているものでもある。佐藤可士和のクリエイションは、時代の気分や人びとのニーズをストレートに捉えている。

日本の広告クリエイターとしては、いち早く90年代始め頃にMacを使ってデザインをした佐藤可士和は、おそらく次の時代のウェーブを察知していたのだろう。そして、その予想は的中し、彼は2000年代をリードするクリエイターとなった。

もうひとつ、キーワードとして“Beyond”という言葉をよく使う佐藤だが、“ネクストステージ”をどのように考えているのだろう? 2008年の年明けの広告批評の取材で次のように話してくれたのが印象に残っている。

「デザイナーとしてどうというよりも“パーソナリティ”として今後何をしていくかに尽きると思います。デザインのフィールドの中だけで考えていると、すでに面白くないんですよね。クロスメディアな時代になってくると、その人のコアにどれだけのイメージの源泉というか、世の中に発信したいことの源泉があるかっていうことが問われるようになると思います」
(「広告批評」2008年2月号/特集「TOKYOアートディレクターズ」より)

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○Webディレクションやってます blog 2008/04/22
 NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で勇吾さんの作っていた
 ユニクロのサイトがオープンされてた。
 やっぱりユニクロは、佐藤可士和さんと中村勇吾さんの起用そのものが
 企業ブランディングになったのではないかな?と思います。
 ブランドを作ろうとしている人にブランド価値があるというのは、
 建築でいう安藤忠雄さんみたいな感じでしょうか?
http://web-directions.com/director/index.php?ID=407


○アートスライダーズ「NY・ソーホーのユニクロ/佐藤可士和」2007/10/17
 もともと佐藤可士和氏のデザイン感は
 付け加えるより削ぎ落としてモノの本質を研ぎすましていくところ。
http://www.artsliders.com/2007/10/ny.html


○オノケンノート
 TV『プロフェッショナル・仕事の流儀 「佐藤可士和・売れるデザインの秘密」』

 プロフェッショナルとは──
 「やっぱりハードルが高いことを超えられる人がプロじゃないですか。
 だから、普通の人が出来ないことをやるのが、プロだから、と
 思うんですけど。自分がいいと思うものが一番実は難しくて、
 すごいハードルが高いので、それをどうクリアしようかなと。」佐藤
http://onoken-web.com/note/?p=118


○タヌキにゅーす  『プロフェッショナル』の佐藤可士和を見て 2006/02/01 
 番組中,「(商品の)本質をつかむことが大切」という発言がありました.
 「商品」は「テーマ」と置き換えてよいと思いますが,デザインという
 仕事の核心を言い当てた言葉です.どんなに見た目オシャレにまとめ
 上げようとも,テーマの本質を的確に把握しない限り,テーマに
 ふさわしい表現の獲得にはつながりません.
http://ishikawakiyoharu.info/tnews4/2006/02/01/kashiwa.html


○ハウスキーパーズ!家事ブログ
 「収納や片付けのおともに佐藤可士和」  2007/11/15
 「アイデアは、無理やりひねり出すのではなく現状を整理する
 ところからはじまる」というような実にクリエイター的発想で分類し
 整理し、相手(掃除、洗濯、料理、収納、片付け)から見つけ出す
 アイデアと読めるからアラ?不思議。
http://housekeepers-kaji.seesaa.net/article/66652219.html


○新宿経済新聞 2007/10/30
 新宿に佐藤可士和さんプロデュースの「スーツセレクト」首都圏1号店
 首都圏1号店となる同店舗は、木目調を基調とした高級感のある
 内装で、中央にはスーツやネクタイ、小物を自由にコーディネート
 できるセンターテーブルを設置。商品レイアウトはホテルの
 ホスピタリティなどを参考に、快適で分かりやすいことを重視している」
 (同社広報担当者)という。
http://shinjuku.keizai.biz/headline/297/

 

 

 


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NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で勇吾さんの作っていたユニクロのサイトがオープンされてた。 2008年05月08日 11:52
先日のNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で中村勇吾さんが某アパレルメーカー(笑)とのプロモーシ...