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東京観光考――情報発信力アップで、世界中のマニアが注目するエンターテイメント都市に

 日本で最も多くの観光客が訪れる東京。統計数値でも圧倒的だ。

 国土交通省がまとめた2007年の宿泊旅行統計調査で、都道府県別の延べ宿泊者数をみると、東京都は3436万人泊で、2位の北海道の2496万人泊、3位の大阪の1561万人泊を大きく引き離してトップ。同調査の外国人延べ宿泊者数でも東京都が720万人泊と最も多く、2位の大阪府244万人泊、3位の北海道185万人を寄せつけない。

 修学旅行や外国人観光客、熟年旅行などでも、高い人気を誇る観光地の西の雄である京都府は、(意外にも?)順位を落とし、都道府県別ではようやく10位に顔を出す。外国人に限定しても、千葉県や愛知県の後塵を拝し、6位という結果である。

 圧倒的な人気を誇る東京の魅力とはなにか。それは東京という都市の持つ多面性だろう。ショッピング、文化体験、日本食、先端ファッション、刻々と生まれ出ずる美しい建築物のほか、アニメ、漫画、秋葉原のメイドカフェなどを含むエンターテイメント……数え上げると切りがないが、それぞれに世界中の専門的、マニアックな要求に応えられるエリアが存在することが大きい。オタク文化の求道者には秋葉原や中野、若者文化の渋谷、池袋、裏原宿、ショッピング好きなセレブには、銀座や表参道、ゲイには新宿二丁目など、日本中、世界中のマニアックなニーズを満たす魔力がある。

 高級料亭や芸者遊び、本場の寿司、歌舞伎、能、人形浄瑠璃、大相撲など「通」を唸らせる伝統文化も、近代化した東京で触れることができる。

 近年、訪日外国人観光客は、韓国人や中国人などの増加が著しい。一方、あまり知られていないが、フランス人観光客も昨年は2割近く増加しており、ヨーロッパからの観光客も順調に増えている。そして、その多くは成田空港からそのままエンターテイメント・シティ東京の魔力に吸い込まれていく。昨年末にミシュランガイド東京版が発行され、フランスをはじめとする欧米でも大きく報じられ、世界中のグルメたちも押しかけて来ており、“グルメシティ・東京”として有名になった。

 最近の外国人観光客の特徴は、体験ものを好む。海外旅行で有名な旅行会社HISも、訪日外国人客向けの体験プログラムをつくっている。「サムライ道場」「忍者入門」「へい、らっしゃい! これであなたも寿司職人」「相撲部屋 朝稽古見学と特性ちゃんこ」など、マニアックな外国人観光客が喜びそうな日本文化体験がてんこ盛りである。このような外国人観光客向けのプログラムは他の旅行会社などでも多く見られる。

 外国人旅行者がお土産に何を買って帰るのかも気になる。国際観光振興機構(JNTO)は、ツーリスト・インフォメーション・センター(TIC)を利用する外国人個人旅行者の旅行実態調査を昨年11月にまとめた。

 このなかで日本滞在中に購入したい品目のランキングをみると、1)洋服 2)ゆかた、着物 3)デジタルカメラ 4)日本茶 5)日本酒 6)日本の菓子(和菓子含む) 7)日本の室内装飾品(人形、刀など) 8)書籍 9)百円ショップの小物 10)陶磁器――の順となった。日本的なものを買う人が多い結果ではあるが、「百円ショップが人気」という面に注目したい。百円ショップでは、箸や傘、和紙のほか、マグネットなど日用品にも興味津々という。8位の書籍は欧米でも人気の「アニメ、漫画」が多数含まれる。秋葉原では、自動販売機で売っているおでんや焼き鳥の缶詰なども、お土産として人気がある。

 ホテルは、世界中の富裕層に対応できるリッツカールトンやペニンシュラ東京など高級外資系ホテルが相次いで開業。09年には丸の内にシャングリラホテル東京が開業する計画だが、一方で、バックパッカ―などには、宿のご主人の人柄に心酔し、リピーターが多く訪れる谷中の「澤の屋旅館」、日本情緒溢れる三ノ輪の「行燈旅館」、浅草の「助六の宿貞千代」などの小規模でありながら日本らしさを味わえる旅館が外国人の個人旅行者に人気だ。貞千代の宿では、「相撲朝けいこコース」「浅草芸者踊りコース」などのプランもあり、文化体験ができる。

 観光地としての東京の強みは、日本だけにとどまらず、世界への情報発信力の強さだろう。一昔前までは、本屋で埃をかぶったガイドブックでしか、日本を知る機会がなかった海外の多くの地域も、インターネットによって日本の細やかな情報が世界各地に行き渡るようになった。日本のアミューズメント施設やホテル、レストラン、劇場なども英語や中国語、韓国語などでの情報提供が増えてきており、情報発信の手段が格段に広がったことも大きいだろう。

 観光に「発信力の強み」がいかに影響するかは、東京におけるテレビ局周辺の観光地化現象にも見られる。TBSのある赤坂は、今年3月に「赤坂サカス」がオープンし、連日全国各地から訪れる観光客でにぎわっている。フジテレビジョンが移ったお台場、日本テレビの拠点・汐留、テレビ朝日の六本木ヒルズなど、いずれも東京の新たな観光名所として多くの人を引き寄せた。イベントやコンサート、レストラン情報などを積極的にテレビの電波で発信し、各エリア間で集客競争が激化している。これらも、東京をエンターテイメント・シティとして成長させている一因であろう。

 最近では回転寿司や、立ち食い蕎麦、ラーメン店など日本人の日常的な生活空間で、外国人旅行者を目にすることが増えた。観光客だけでなく、定住者や留学生などが増えている証拠でもある。大きな公園にもベビーカーを持つ外国人の姿を見かける。いわゆる「東京生活者である外国人」が増えているのだ。このため、今後注目されるのは、東京在住の外国人が楽しめる地方の温泉地や、新たな視点での企画ツアーなどだ。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○Japan is cool!日本ってカッコイイ! 2008/01/18
 「最近の外国人旅行者は庶民の味、B級グルメがお好き」
 日本を訪れる外国人旅行者は767万人(前年比の13.7%増)という。
 日本に関心があることは?
 1位 日本料理を食べること 71.2%
 2位 伝統建築を見る         49.2%
 3位 日本庭園を鑑賞        46.3%
 4位 温泉に入る              35.5%
 5位 旅館に滞在              28.7%
http://blog.goo.ne.jp/neo_japan21/e/b17bbfd1128406fe897695d900d097e7


○クールジャパン★cool japan─ポップカルチャーの視点から
 「マンガは世界にどう広がっているか04」 2008/04/25
 外国人がもっと驚くのは、山の手の人間が下町に、下町の人間が
 山の手に自由に往来できることだという。そんなことを指摘されると
 逆に日本人の私たちが驚いてしまう。日本以外の国々では、
 必ずしもそうではないらしい。
http://cooljp.jugem.jp/?eid=8


○KHAKI DAYS  「模倣される日本」 2005/04/13
 あの「マトリックス」だって、押井守のアニメ映画、
 「GHOST IN THE SHELL 甲殻機動隊」を見たウォシャウスキー兄弟が、
 「これを実写でやりたい!」と思ったのがはじまりだし、
 ジェームズ・キャメロンの「ターミネーター2」は、大友克洋のあの
 「AKIRA」のあからさまな影響が認められたし、当時キャメロンは
 日本のマンガ雑誌「アフタヌーン」掲載の、岩明均の「寄生獣」を
 購読していたと言われ、あの手が変化するアイデアには岩明の影が
 あらたなのである。
http://kakiwo.exblog.jp/1841844/


○白梅亭 浜野保樹著「模倣される日本」 2005/06/27
 特に古典文化や精神論だけでなく、現代の映画やアニメや料理は予想以上
 に海外に浸透している。本著では、対象とする海外を特定していないため、
 その分野は多彩だが、アジアやアメリカに比べ日本人居住者が少ないここ
 ヨーロッパでも、日常生活の中に「日本」を時々見つけ、はっとする
 ことがある。
http://umezawa.cocolog-nifty.com/blog/2005/06/post_1086.html


○義勇:日々多読  「模倣される日本」2007/07/11
 インターネットで、世界の情報が飛び交うようになった場合、自国の
 オリジナリティーを出すのは難しい時代になったのかもしれません。
 日本ではやったものが時をおかずして違う国ではやるというような
 ばあい、初めにはやったところの優越性が少なそうだな。市場規模が
 大きくなったといえばいい儲けにはなるでしょう。
http://giyuu.seesaa.net/article/47509971.html


○読書と夕食 『クール・ジャパン 世界が買いたがる日本』2007/09/17
 アニメ・ゲームなどの日本のポップ・カルチャーが「クール・ジャパン」
 として世界市場で売れている。日本政府も乗り出して「知的財産戦略本部」
 をつくり、日本の「ソフト・パワー」として、軍事力ではなく、
 エレクトロニクスや自動車につぐ「コンテンツ産業」育成への期待も
 こめて、重い神輿をようやく上げたところではある。
http://blog.goo.ne.jp/sig_s/e/4994c87af24483560bbde312e04af8f8


○戸崎将宏の行政経営百夜百冊
 「日本のポップパワー―世界を変えるコンテンツの実像」2006/11/29
 本書は、「産業が文化を形成し、文化が産業を築くメカニズム」である
 「産業文化力」に光を当て、「産業文化力が新時代を拓く」を基本テーマに、
 ポップカルチャーを論じているものです。世界のテレビアニメの6割は
 日本製であり、「ポケットモンスター」は世界67カ国と2地域、
 「クレヨンしんちゃん」は世界46カ国で放映され、日本のゲームソフトの
 約半分は海外に出荷されているという状況は、「日本はスーパーパワーを
 再生している。政治経済の逆境というよく知られた状況に反し、日本の
 国際的な文化影響力は静かに成長してきている」と評されていることが
 紹介されています。
http://www.pm-forum.org/100satsu/archives/2006/11/post_592.html


○トクダス  2008/02/27
 「外国人が喜ぶ日本のおみやげは? 
 2008年度食品部門の金賞は、岩手の…。アート消しゴムも入賞」
 国土交通省が、「魅力ある日本のおみやげコンテスト2008」の結果を
 発表しました。 
http://nikitoki.blog.so-net.ne.jp/2008-02-27-4


○象から見た日本 2008/04/09
 「世界に良い影響を与えている国」 BBCの世論調査でドイツと並び日本がトップ
 日本に対する各国の評価で、「良い影響」の評価が最も高かったのは
 ケニアの78%です。次いで高かったのはイスラエルの75%で、それに
 インドネシアの74%が続きます。その後が面白い事に、米国、英国、
 フィリピン、オーストラリアの4ヶ国が同率の70%で並んでいます。
 捕鯨問題で日本と争っている英国とオーストラリアの意外な高評価
 に注目です。
http://zounihon.blog4.fc2.com/blog-entry-85.html


○アキハバラ経済新聞 2008/04/21
 「英語で秋葉原を紹介する本」発売―What does “moe”mean?
 同書は「自分の好きな何かを英語で伝えたい」をコンセプトに、
 アメリカからやって来たちょっとオタクな親子を連れて日本の普通の
 親子が秋葉原を観光案内するという設定で、その際の会話を和英対訳
 で紹介しているのが特徴。
http://akiba.keizai.biz/headline/929/


○日刊移動体通信ニュースM  2007/03/27
 携帯専用多言語ナビシステム「Monavi」 テレコムスクエア 
http://d.hatena.ne.jp/webpress/20070327/1174989667


○空腹時に見てはいけないブログ  2007/12/20
 【忍者屋敷レストラン】NINJA AKASAKA@赤坂見附
 飲食店というよりアミューズメントパーク!
 店に入ると忍者が現れ、どんでん返しのトビラを通り、床の抜けた
 川に秘密の橋が架かり、迷路のような忍者屋敷を通過して店内へと
 案内されます。外国人に大ウケで、企業の外国人客接待によく使われます。
http://blogs.yahoo.co.jp/arapro7/39393960.html


○関心空間 「H.I.S. エクスペリエンス ジャパン」2008/01/15 
 旅行会社のH.I.S. が作った、訪日外国人のための会社。
http://www.kanshin.com/keyword/1325248


○旅の動画投稿サイト「旅ドガ」:体験プログラム「忍者入門」(音が出るので注意)
http://movie.his-j.com/viewvideo.jspx?Movie=48135868/48135868peevee144564.flv

 

 

 


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ブログへのトラックバック 2008年05月07日 07:38
昨日、この「読書と夕食」の記事にトラックバックをいただいたようで、ちょっとコメント。おなじサイトから...