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北京五輪の採火式典を妨害した「国境なき記者団」の偽善性を考察する

 チベットでの暴動鎮圧に対する抗議を受けて、北京五輪の聖火リレーが世界各地で妨害されている。なかでも、国際NGO「国境なき記者団」はギリシャでの採火式典で抗議活動を行って話題になった。しかし常識的に考えて、ジャーナリスト集団である以上、本来はメディアを通じて活動をすべきである。この団体はなぜ実力行使に出たのか。資金援助をしている支持団体を調べてみると、国際情勢を巡る政治的な思惑が見え隠れする。


▼建前上はジャーナリストの保護だが

 国境なき記者団は1985年にパリで、フランスの元ラジオ局記者ロベール・メナールによって設立された国際NGO(非政府組織)である。フランス語ではRapporteurs Sans Frontières(RSF)、英語ではReporters Without Borders(RWB)と呼ばれる。

 この団体は世界各地で迫害されているジャーナリストの救出、各国のメディア規制に対する監視や警告などが主な活動内容だ。また2002年以降に毎年、報道自由度の世界ランキングを発表している。これらの活動は評価すべき点も多い反面、政治的にかなり偏っているのも事実である。

 例えば、救出や保護をするのは親欧米的ジャーナリストが大半である点、非難する対象国が反米や嫌米の国が多いという点である。2007年の世界報道自由ランキング順位を見ると、上位10位はすべて欧州諸国。一方で反欧米的な国々は下位に集中している。この順位は全130のジャーナリストや人権活動家などが、50の質問に回答して指標を出しているが、欧米的な基準で順位付けしている疑念も抱かれる。

 さらに問題視されるのは、この組織が特定の政治団体から寄付金を受けていることである。フランス政府、ユネスコのほか、台湾民主基金会(台湾の人権擁護団体)、全米民主主義基金(他国の民主化支援を名目とし、実質的にはCIAの外郭団体)、ジョージ・ソロス(アジア金融危機を引き起こした黒幕的株式投資家で、旧ソ連や東欧諸国の反体制運動を操る)の財団などから援助されている。また中米ニカラグア革命政権に対する破壊工作を指揮してイラン・コントラ事件に関与した、オットー・ライヒの事務所とも契約を交わしている。

 こうした状況を見ると、国境なき記者団は人権団体というより、カネで動く政治団体といった要素が浮き彫りにされる。


▼亡命キューバ人団体から資金援助

 カリブ海の社会主義国キューバは世界報道自由度ランキングで、毎年下から10番目以内に位置している。2003年の発表では北朝鮮に次ぐワースト2位になった。

 キューバでは反革命的な行為は、治安当局に取り締まられる。2003年3月には反体制活動家や独立系のジャーナリストなど、計75人が政治犯として逮捕された。これに対して、国境なき記者団はキューバを激しく非難する。逮捕された反体制派記者の1人で、詩人でもあるラウル・リベーロに、国境なき記者団はフランス財団賞を授与。一方キューバの裁判所は、同組織代表のロベール・メナールを米国諜報機関との共謀罪で訴えている。

 なぜ国境なき記者団は、キューバを執拗に非難するのか。考えられる理由として、この組織が在米の「自由キューバセンター」から資金援助を受けている点だ。このセンターは、キューバを民主化することを目的に設立された在米亡命キューバ人団体の一つ。彼らは米国政府の援助を受けて、キューバ政権の転覆を目論んで反体制活動をしている団体である。前述のオットー・ライヒは、自由キューバセンターの理事も務めている。

 余談であるが、私はこれまでキューバに計7回行き、著書『キューバ音楽紀行』(東京書籍)をはじめ多くの記事を執筆している。計半年以上かけてキューバ全土を回り、全20数都市を訪れて街を歩き、楽団や舞踊団などを取材した。私の経験としては、街中では自由に写真撮影できて、取材拒否されたことはほとんどない。反革命的とみなされる行為をしなければ、キューバにおける取材の自由度はかなり高いと感じられる。


▼反中国キャンペーンの数々

 さて、北京五輪聖火リレーへの妨害行動について考察してみよう。チベットでの暴動鎮圧を発端に始まったこの妨害行動は、ずばり中国に対する嫌がらせである。チベット独立、あるいはチベット民族の人権を守れと言っている運動は、単なる政治的な道具に過ぎない。中国が急激な経済的成長を遂げ、国際的に覇権を広げていることに対して、快く思わない欧米の勢力が牽制をしているというわけだ。

 今年3月24日にギリシャで行われた採火式典で、五輪反対の黒い旗を持って式典に乱入した3人が逮捕された。しかし彼らはチベット関係者ではなく、国境なき記者団の活動家で、そのうち1人は代表のロベール・メナールだった。その後も各国で「チベットに自由を」と叫ぶ抗議者によって聖火リレーが妨害され、中国に対するイメージが悪化していく。

 国境なき記者団は以前に、台湾側からの資金援助もあって、数々の反中国キャンペーンを行ってきた。1989年に起きた天安門事件の後、中国の民主化のため海上ラジオ局を設置する計画を進める。天安門事件の指導者たちを船に乗せ、中国沿岸の沖合から海賊ラジオ放送を流す計画であった。しかし中国側の妨害とその後の台湾政局の変化により、この試みは失敗に終わっている。

 中国は世界報道自由度ランキングで、毎年下から10位以内にランクされている。2007年の発表では下から7番目の163位。国境なき記者団が今後、中国に対してどのような行動を展開するのか注視していきたい。

 

【関連情報】

○MediaSabor  2008/04/28
 「チベット騒乱であぶり出された米独連携の対中戦略、ドイツの台頭に留意を」
http://mediasabor.jp/2008/04/post_375.html


○国境なき記者団 公式サイト(フランス語、英語など)
http://www.rsf.org


○ニュースダイジェスト
 「言論と報道の自由を守るために」
 国境なき記者団代表ロベール・メナールへのインタビュー記事。
http://www.newsdigest.fr/newsfr/content/view/1308/67


○薔薇、または陽だまりの猫
 「反中国オリンピック・キャンペーンを操るもの」 2008/03/29
 Workers World関連記事の和訳。国境なき記者団と採火妨害行為、ソロス財団や
 自由キューバセンターとの関係やその暗躍を解説している。
http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/135abef63e4bada1481e9fe13df3b038


○エンジニアの憂鬱
 「国境なき記者団の裏がわ」 2008/04/15
http://blogs.yahoo.co.jp/mos_ic_make/32180819.html

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○マスコミに載らない海外記事  「国境なき記者団」のまやかし  2008/04/26
 突如として有名になった?「国境なき記者団」、イラク侵略や、
 パレスチナ問題に対して、積極的に活動しているという報道を
 見た記憶が全くない。
http://eigokiji.justblog.jp/blog/2008/04/post-3f2b.html


○ITmedia News  2008/03/13
 「国境なき記者団、サイバー検閲抗議サイトを開設」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0803/13/news016.html

 

 

 

 


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