一人になれない常時接続社会の憂鬱
- 米国在住ジャーナリスト
日本でも少しずつ知名度を上げてきたTwitter。一昨年のスタート以来、学生を中心に順調に利用者数を増やしてきたソーシャルネットワーキングサイトである。Twitterの意味は“さえずり”。親しい友人たちと、Eメールを送るほどでもないちょっとしたおしゃべりをするためのサイトである。
その仕組みは他愛ないほど簡単で、現在自分が何をしているのかを文章にして打ち込み、仲間たちと現状の情報交換をするというものだ。画面には自分や友人たちのアイコンが現れ、「今読書中」「コーヒー飲んでる」「誰かBerger Master行かないか?」等のメッセージの断片が飛び交う。仲間同士のコミュニティーの、いつでも閲覧可能な掲示板と言えば分かりやすいだろう。SNSでもあり、インスタントメッセージでもあるところがTwitterのミソである。
初めてTwitterを知ったとき、果たしてこれが米国に定着するものか疑問を持った。他愛のないおしゃべりを相互に交換するなんて、これはまるで日本的な発想ではないか。さらに言えば、個人主義のアメリカ人がもっとも理解しにくい、いつでも仲間とつるんでいたい女子高生的感覚に近い。-こんなものが受けるわけがない─ しかし、僕の予想は一年後見事に裏切られた。日本が誇る女子高生文化はあっという間に全米に広まり、今ではもっともホットなSNSサイトのひとつになっている。高校生から大学生、そして結構いい大人まで、加入者は増えるばかりだ。常に仲間とつながっていたいというコミュニティー感覚は、女子高生の専売特許ではなかったのだ。
それにしても、インディペンデントなアメリカ人にとってTwitterがこれほど普及するとは思わなかった。日本でいうところの「ゆるい」コミュニケーションは国を問わず求められるものらしい。Twitterはさらに、一部のビジネスマンにまで使用が広がっているという。企業内で従業員の仕事の進捗を把握する、仕事の情報交換をする等、確かに用途は広そうだ。
こうした中でTwitterの効果を知らしめる事件が起こった。先月、エジプトで反政府運動について取材していた米国人学生が、現地の警察に拘引された。学生は連行される直前、携帯電話からTwitterに一言メッセージを送った「逮捕された」。メッセージは学生のTwitter仲間に瞬時に伝えられ、米国の学生たちが支援に乗り出した。彼らは直ちにエジプトの関係者に連絡、不当逮捕として抗議を行った結果学生は釈放された。この事件はCNNによって報道され、Twitterの名前はさらに広がった。Twitterによる“ゆるい”コミュニティーはますます拡がっていく。
ニューテクノロジーにより、他者とのコミュニケーションは頻繁になり、我々の生活はますますコミュニティー化する。今のところ、すばらしい事ばかりのようだが、ひねくれもの筆者は一抹の不安を感じてしまう。iPhoneやブラックベリーによるネットへのモバイル接続、そしてTwitterのようなSNSは、そのままコミュニティーへの常時接続を実現している。─ コミュニティーへの常時接続 ─ こう聞いて、拒否反応を示してしまうのは筆者だけだろうか。
考えてみると、モバイルやネットの普及はそのまま我々のプライベートへの侵食だった。携帯やEメールが一般化した今、連絡がつかない、という言い訳はもはや成り立たない。そうした環境をさらに加速するのがTwitterをはじめとする常時接続コミュニティーだ。オフィス、自宅は言うに及ばず、散歩にでても、所属するコミュニティーのメッセージは追ってくる。仕事の指示はリアルタイムで飛んでくる。恋人との距離ますます密接になる。コミュニケーションを遮断して一人きりになれる場所はトイレの中にしかない。不倫の最中、ブラックベリーでTwitterしないと奥さんに怪しまれるという状況は、もはや現実だろう。
ジョージ・オーウェルの代表作「1984」は、当局=ビッグブラザーが人間を監視する超管理社会を描いた傑作SFだ。現実の世界にビッグブラザーが現れる事はなかったが、常時接続コミュニティーは、ある意味ビッグブラザーの一種といえなくもない。Twitterをはじめとする“ゆるコミ(ゆるいコミュニティー)”は、“一人になる時間”を確実に侵食していく。
【編集部ピックアップ関連情報】
○MediaSabor
「逮捕の窮地を救ったミニブログ(Twitter)の力」 2008/05/05
http://mediasabor.jp/2008/05/twitter.html
○DESIGN IT! w/LOVE 「情報社会は監視社会である」 2006/08/20
監視という言葉も上から下に(例えば、国や企業から個人に)一方通行で
行われるものではなく、双方向的な監視になってきているのだと思います。
コーポレート・レピュテーションやCSR(企業の社会的責任)などという
言葉が示すように企業が自社の評判を気にするようになったのも、企業も
また一般の市民から監視される対象になったことを示しているのでは
ないでしょうか?
http://gitanez.seesaa.net/article/22565554.html
○ZDNet Japan 2007/10/26
セキュリティ専門家が語る「インターネットの統制状況」
同氏の講演は、ジョージ・オーウェルの有名な小説『1984』を土台に、
そこで描写された高度に抑圧的な管理体制が決して絵空事ではなく、
実際にインターネットに対して政治権力が遮断や検閲・監視を強化
する動きが存在するという実情を紹介するものだった。
http://japan.zdnet.com/security/story/0,3800079245,20359670,00.htm
○海難記 監視社会における「正常」とは 2007/05/01
http://d.hatena.ne.jp/solar/20070501#p1
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