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ボーカロイドに音楽業界の夢を託してみた

ボクは、ボーカロイドという新たな楽器?コミュニケーションツール?がもしかすると、音楽業界の新たなビジネスモデルを構築するのではないか?と考えている。

ボーカル&アンドロイドの造語、ボーカロイド(VOCALOID)をヤマハがDTMソフトとして開発したのが今から5年前の2003年のことだ。ヤマハは、独自に開発した歌声の合成方法「周波数ドメイン歌唱アーティキュレーション接続法(Frequency-domain Singing Articulation Splicing and Shaping)」を採用した。
http://www.vocaloid.com/jp/features.html

いくつかヤマハからライセンス契約を締結した製品が、市場に投入されていたが、大ヒットとまでは至らなかった。しかし、クリプトン・フューチャー・メディアが、ヤマハから新バージョンのVOCALOID2のライセンスを受け、キャラクター・ボーカル・シリーズとして、「ときめきメモリアル」などで知られる藤田咲(ふじた・さき)の声を「歌声ライブラリ」にサンプリングした「初音ミク」を2007年8月31日発売した時からボーカロイドの新たな局面が見えてきた(第二弾の「鏡音リン・レン」は2007年12月27日発売)。

その起爆剤となったのが、ニコニコ動画だ。
http://www.nicovideo.jp/

ニコニコ動画は、ユーザーによる動画投稿、さらに視聴ユーザーまでも、コメントを動画上に動く字幕として投稿参加でき、それらを含めて鑑賞するというマッシュアップ型の動画コンテンツサービスである。

2007年9月頃より、萌え声の初音ミクによるユーザー楽曲が公開されるやいなや、ソフトウェアと共に「初音ミク」そのものが話題となる。

ニコニコ動画は同年07月12日より、「ニコニコ市場」などのECチャネルを作ったり、著作権侵害映像の削除などにより、ネットビジネス的にも社会的にも、注目を集めている時に、「初音ミク」という強力なユーザー・ジェネレーテッド・コンテンツ(UGC)の発表の場となり、動画共有の中でも、さらに独自の特徴をうちだすことに成功している。

2008年04月01日、ニコニコ動画を運営するニワンゴは、ニコニコ動画の収入の1.875%を日本音楽著作権協会(JASRAC)に支払うという契約を締結したことにより、JASRACの管理する楽曲をニコニコ動画のユーザーは、合法的に歌唱したり、演奏することが可能となった。

このことにより、日本の楽曲の90%以上が、ニコニコ動画で、ユーザーがリスペクトする曲を演奏し、アーティストに著作権料を還流することができるという新たなビジネスモデルが構築されることとなった。同様にYouTubeは、ミスターチルドレンやL'Arc-en-Cielなどの楽曲を管理するJRCと包括契約を2008年3月27日に締結しており(JASRACとは現在も協議中)、「動画共有サービス」というプラットフォームでは、ユーザーがアーティストの楽曲を二次創作したコンテンツが合法的に認められるという土壌が整いつつある。

しかし、古くから日本人の演奏力は世界からも高く評価されるが、ことボーカルとなると、天性のものという側面があり、なかなか人様に聞かせられる、いや作品として昇華させるには高い障壁があった。

それを解決するひとつの手段が、初音ミクだったわけだ。…とはいっても、DTMソフトで音符などの打ち込みを要求されるので、誰もが作れるという代物ではない。しかし、それを乗り越えることができたユーザーは、ニコニコ動画という発表の場で、金銭に変えがたい何万アクセスという不特定多数に、自分の作品を見てもらえるというカタルシスを得ることができた。このカタルシスは、たとえ匿名であったとしても、非常に大きなモチベーションとなるだろう。

そして、さらにその状況に、本物のアーティストが音源のボーカロイドにチャレンジしたという。2008年06月に発売を予定されているのが、日本クラウン株式会社の契約アーティストであるGackt(ガクト)が歌声ライブラリに登録した「がくっぽいど/GACKPOID」だ。発売は株式会社インターネット。
http://www.ssw.co.jp/press/gackpoid.html

サンプル音を聴いてみると機械っぽくはあるが、アーティストのGackt氏の声質は受け継がれている。この「がくっぽいど/GACKPOID」が発売された後に予測される2つのことがある。


1.他の楽曲をGACKPOIDに歌わせる。

 これは、ソフトを購入するユーザーならば、好きなアーティストに、
 この曲を歌わせてみたいというユーザーの思いを実現できる。また、
 どれだけ本人に似せることができるかという向上心もあり、ニコニコ動画
 でのソーシャル・レピュテーション(評価)も期待できる。

2.Gacktの楽曲をGACKPOIDに歌わせる。

 これが、Gacktサイドが考える今回の本当の狙いではないだろうか?
 まず、演奏と歌唱を含めてユーザーは、ソフトをプログラムするために
 オリジナルの楽曲を聴きこむ必要性がある。そして、公開されたものを
 聴くユーザーも、オリジナルとの差を楽しみたいと思い、ニコニコ市場で
 楽曲を購入するという構図が登場する。

 さらに、オリジナル楽曲をダウンロードで販売する。ニコニコ動画用などの
 動画共有に使えるカラオケ、新譜のアルバムに、GacktとGACKPOIDの
 共演バージョンを初版限定にするなどのプレミア版を作ることができる。

 この2つは予想できることであるが、本当は3つ目の予想しえない何かが
 起きることにボクは一番期待している。1と2の楽曲が増えてくることに
 よって第3の思わぬ影響力が登場するのがネット上での世界の常だからだ。

 今から3年前、どこの誰が、このような動画共有サイトで、アーティストの
 演奏を勝手に公開し、もしかするとアフィリエイトでユーザーが儲かったり、
 アーティストにも著作権料が還流される仕組みの音楽市場を予想できた
 だろうか? 誰にも予測できなかったことが今ここに実現している。

 さらに、もっと想像力を膨らませてみよう。

3.他のアーティストも歌声ライブラリに自分の声を登録するようになる。

 GACKPOIDのバージョンが登場したならば、人気のある歌手、かつての歌手、
 いろんな人たちが、歌声ライブラリに登録することによって、ユーザーが
 自由に描く、この歌手にこの歌をという思いが自然に発生してくるのである。

 まるで18世紀の貴族のように、有名オペラ歌手を呼びつけ、好きな楽曲を
 歌ってほしいとリクエストをするようなことができてしまうのである。

さらに、かつて蓄音器が発明された時に、レコードという蝋盤が発売され、著作権料がアーティストに支払われる時には、一度唄っただけなのに、金をもらいつづけるのはおかしいという議論がなされたという。当時、歌手はライブでしか歌う方法がなかったのである。

ボーカロイドは21世紀のレコードビジネスモデルであり、歌声ライブラリを利用されればされるほど、利用料がアーティストに配分されるべきなのである。

そうなると、いろんな権利関係を今の間にクリアにしておく必要性がある。
現在は単純な包括契約であるが、歌声ライブラリにも著作権の還流システム、プログラムをおこなったユーザーにも著作隣接権が発生するなどの新たな項目が必要になるであろう。

動画投稿を一曲ごとに申請することなどを、やっておかなければいつまでたっても健全な著作権料の代理徴収などできっこないというのがボクの持論である。今のままの包括契約だと音楽産業全体のモチベーションは決してあがらない。

そればかりではない、御大となったアーティストはいつまでも生きていない。
ポール・マッカートニーや、ミック・ジャガー、ポール・ロジャース、ロッド・スチュワート、ロバート・プラントなどの歌声ライブラリは、なんとか今の間にサンプリングしておかなければ、二度とサンプリングできなくなってしまうだろう。

歌声も文化として永久保存でき、亡くなった後も歌声の文化資産を社会で共有できるというのはすばらしいのではないだろうか?

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○Gackt Official Website-Gackt.com: http://gackt.com/japanese/


○ITmedia News  2008/04/15
 「コピーされ、2次創作されてこそ売れる時代」
  ――伊藤穣一氏に聞く著作権のこれから
 アーティストから言えば、マーケットがグローバル化、ニッチ化し、
 マスコミの力がだんだん落ちている中で、どうやって自分のサイトに
 トラフィックを持ってくるかとか、どうやってコラボレーションパートナー
 を探すか――つまりどうやってインターネットに参加するかが一番難しい。
 どうやって売るか、運ぶかは、問題ではなくなっている。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0804/15/news092.html


○ITmedia News  2008/03/18
 初音ミク作品の“出口”は 「表現」と「ビジネス」の狭間で
 初音ミクという「声の楽器」が創作を刺激し、作品が次々に
 生まれている。自己表現のための創作が著作権制度と衝突すること
 もあれば、経済価値を持つことも。作者もコンテンツ企業も、
 みんなが幸せになれる仕組みはあるだろうか。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0803/18/news074.html


○P2Pとかその辺のお話@はてな 2008/05/18
 「企業として二次創作を認めてよとか、認めたらマズいだろとか」 
http://d.hatena.ne.jp/heatwave_p2p/20080518/1211045069


○【レビュー】YAMAHA KX25/KX49/KX61 Vol.1-1(YouTube映像 02:07)
http://jp.youtube.com/watch?v=4ahqOD4tcJM&feature=related


○WIRED VISION  2008/05/15
 無料音楽スタジオ『AudioTool』:ブラウザー上で電子楽器やエフェクターを操作
http://wiredvision.jp/news/200805/2008051519.html


○初音ミクに挑戦してみる。2008/05/01
 ぼかりす=音楽著作権システムの「終わりの始まり」?
 これらの情報を総合すると、産総研の後藤真孝氏はヤマハとの共同研究で、
 いかのような技術を開発・実用化しつつあるということが想像できる。
 VocalFinder:普通の音楽CDなどの楽曲から、ボーカル成分を抽出する技術。
 VocaListener:楽曲のボーカル成分から、VOCALOIDの歌唱情報
 (VSQファイル)を自動生成する技術。
http://miku-challenge.seesaa.net/article/95323285.html


○初音ミクみく  2008/04/30
 出た!科学の限界を超えた新技術「VocaListener」による神調教ミク!
 「たまげて声も出ません…」というため息調教の初音ミク歌唱動画が
 公開され話題になっているようだ。聴いてみると、確かにこれまでとは
 一線を画する、革命ともいえそうな調教ぶり。何がどうと一言では
 言えないが「初音ミクでここまでいけるの」と目からウロコもの。
 ともかく歌いかたが自然すぎ。
http://vocaloid.blog120.fc2.com/blog-entry-1089.html


○sta la sta  2008/04/05
 『音楽会議3 sponsored by YAMAHA』へ参加してきました
  (オンライン版初音ミクのデモ等々)
http://sta-la-sta.com/2008/04/05/344/


○アンカテ(Uncategorizable Blog)
 「初音ミク界隈に見る既視感のある光景」 2007/10/21
 本質が無くなることはない。でも、エコシステムは根本から変わって
 しまう。たぶん、「初音ミク」が「音楽」業界に与える影響も、
 同じようなことになると思う。ネットが可能にした素人集団の暴走は、
 他にもたくさんの職業に対して、その職業の本質を洗い出す働きをするだろう。
http://d.hatena.ne.jp/essa/20071021/p1

 

 


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