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中国にとって「資源の宝庫死守」は至上命令 チベット問題を経済的視点で見る

 チベットに豊富な鉱物資源が埋蔵していることは周知の事実だった。中国政府は2007年に初歩的統計として、鉄、鉛、亜鉛、金、銅など大小の130余りの鉱床が存在し、その潜在価値が約1300億ドルに達することを公表した。

 前年の06年には平均標高4000メートルを超える高地に全長1142キロメートル(青海省ゴルムド━チベット自治区ラサ間)の青蔵鉄道が開通して、チベット自治区の都ラサと首都北京とが鉄道で結ばれている。急速な経済発展に資源供給が追いつかず、アフリカや中南米にまで資源外交を展開してきた中国当局にとって念願の鉄道開通によって待望のチベット本格開発の時が到来した。純粋な経済的観点からもチベット権益は手放すわけにいかないのである。


▼資源開発と鉄道敷設

 米国の西部開拓と大陸横断鉄道、あるいは日本の満州開拓と南満州鉄道しかり、領地の実効支配・資源開発と鉄道敷設とは一体の関係にある。1949年の中華人民共和国の成立と51年のチベット併合以来、中国政府はチベットの資源を中国北東部の中心地へと結ぶことを夢見てきた。工期5年で完工した青蔵鉄道は2006年7月1日の中国共産党創立85周年記念日を選んで、チベット自治区の都ラサと北京との間で第1号旅客列車を運行させた。貨物列車はこれに先んじて運行していた。

 発見された鉱物資源は100種を超え、埋蔵の確認は36種あり、埋蔵量は銅が2000万トン以上、鉛・亜鉛は1000万トン以上と推定されている。銅、鉛、亜鉛に関しては中国当局が戦略的に必要と見込んでいた埋蔵量を十分に満たしているとされる。石油・天然ガスの埋蔵量の推定データは未公表のようだが、1990年代前半に石油輸入国に転じた中国にとってはその本格採掘と輸送を急ぎたいのは言うまでもない。中国鉄道省は青蔵鉄道の貨物輸送費を1キロ=米通貨1セント程度と極めて低い水準に設定しているという。


▼鉄道伸張と外資排除

 米欧メディアによると、中国政府は07年にはラサから第2の都市シガズェまで253キロの鉄道伸張工事に着手した。鉄路はネパール、インドとの国境域に沿ってさらに西へと伸張するのは必至で、中国産品の南アジア市場進出への「突破口」となることが期待されているようだ。鉄路西進はチベットや新疆ウイグルの石油資源とも結びついている。チベット西部キャンツェには大規模な油田・ガス田、オイルシェール鉱床も発見されたと伝えられ、ウイグルの西域タリム盆地には大規模油田の埋蔵が確認されているからだ。

 いずれにせよ石油資源を含めて両自治区に眠る膨大な地下資源は99%が手付かずのままとされており、ここを米欧外資の本格進出前に中国資本でできるだけ多く開発したいのが中国当局の本音である。外資の投資ラッシュは時間の問題とみられていたが、地元民に神聖な山が破壊されるとの危機感を煽ったとの情報もあり、オーストラリア企業が03年にチベットでの採鉱権を放棄した。また、環境破壊の非難の矢面に立たされているカナダ企業の銅や金の開発事業は停滞しているという。


▼南方政策と大経済圏構想

 青蔵鉄道の西進と連動するかのように、アラビア海に面し、ペルシャ湾の入り口に位置するパキスタンの要衝グダワルには中国の援助で港湾が整備中である。ここからチベット北隣の新疆ウイグル自治区に向けて石油・天然ガスパイプラインや輸送路の建設が計画されているという。チベット、ウイグルを中核とする中国の西部大開発には成長著しい南方のインド経済圏と中華経済圏を結びつける壮大な構想があるようだ。

 さらに、パキスタン・グダワルでの事業と並行して、中国はインド洋・ベンガル湾に面するミャンマー北部シェトウェから中国内陸部へつながる輸送路、石油パイプラインを建設中である。これらの事業はいわゆる「真珠数珠繋ぎ」戦略の一環であり、西太平洋(東シナ海)、南シナ海とともにインド洋が中国の海洋戦略にとっていかに重要であるかを示している。チベット・ウイグル、そしてミャンマーに対する中国政府の政策が米欧による政治的な批判にさらされ続けているが、これら地域は中国にとって将来を見据えた死守すべき経済権益となってしまっている。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2008/04/28
 「チベット騒乱であぶり出された米独連携の対中戦略、ドイツの台頭に留意を」
http://mediasabor.jp/2008/04/post_375.html


○「勇気」との散歩道で 出会い 「チベットと青蔵鉄道」2008/05/12
 チベットには、中国本土でも見られない手つかずの、銅と亜鉛そして
 鉄鉱石の鉱床があります。また、高地にある塩湖では、希少金属の
 リチウムの埋蔵が確認されています。
http://alteri.exblog.jp/8837147/


○イザ! 大島信三のひとことメモ「中国がチベットを重視する理由」2008/05/01
 平松氏によれば、中国がチベットに多大の資金と資源と労働力を投入して
 チベットを開発するのは、チベットがインドを中心とする南アジアへの
 影響力を拡大する場合に重要な位置にあるからであり、さらにパキスタンから
 アフガニスタン、イランへの西アジアに影響力を及ぼすうえで、チベットの
 果たす役割が重要だからだという。
http://oshimas.iza.ne.jp/blog/entry/558712/

 

 


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