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台湾で起きていることは日本を変える事なのかも? Computex 2008 台北リポート


台湾で開催されたCOMPUTEX TAIPEI 2008(6/3─7)で発表され、同時発売されたばかりの、インテルAtom搭載のASUS社製「EeePC901」を台湾で入手してきた。

ASUS社は、昨年の10月より「EeePC(イーピーシー)」の販売をはじめ、世界ですでに150万台も出荷されている。EeePCは、ミニノートPCやUMPC(ウルトラモバイルPC)とよばれるジャンルに分類されるPCだ。

今回の「EeePC901」のスペックは、1024×600ドット(WSVGA)表示対応の8.9インチワイド液晶ディスプレイ、基本OSはWindows XP、12GバイトのSSD。さらに、Bluetooth、無線LANが11n、130万画素のウェブカメラが搭載される。バッテリーの駆動時間は、約4.2から7.8時間と言われるが、メーカー発表の話は半分として(笑)、2時間程度持つ物と考えるべきだろう。

実のところ、スペックなんて、どうでもよかった。価格が大事なんだ。

ニュー台湾ドルで1万7000元、日本円にして約63,000円という価格帯だ。この価格は、日本の携帯電話より安いのかもしれない。日本のメーカーのノートPCといえば、15万円から30万円クラスであるが、そこから比較すると約半値である。

低価格コンピュータと位置づけられてはいるが、メールとブラウズの使用であれば、このマシンでも十分なのである。ハードディスク替わりに4GBの miniSDも使える。ネット上のGoogleDocsに保存するのも、万一の時にはハードディスクに保存するよりも安全だ。ハードディスクは、いつかは壊れる実は消耗品である。

ビデオ編集などはデスクトップのマシンでかまわない。それでも一週間にどれだけビデオを編集するのか考えたほうがよい。 また、Windows Vistaを搭載することによって、不具合が起きたり、Vistaを動かすためにハイスペックなハードウェアの仕様を要求されるのもバカらしい話だ。購入して意外な点に気づいたのが、「温度」だ。なによりも、ノートPCの底面のあの灼熱の熱さから開放されただけでも、Atomの低消費電力のCPUに感謝する。もう、あの熱い熱いノートPCには二度と戻りたくなくなった。
Atomは、涼しいCPUとして売るべきだろう。

この6月末にはEeePC901が、日本でも発売されるという噂なので、期待できると思える。7/11のiPhoneも気になるのだが…。


しかし、ボクの人生の中で、台湾製品で、これほどまでにワクワクすることは、かつて一度もなかった。しかも、当然、中国語のキーボードであるにも関わらずだ。中国語キーボードがオリジナルなのだからなおさらいい。

約10年前に訪れたCOMPUTEXでは、廉価なボードを販売している単なるパーツ屋の巨大展示会にすぎなかった。しかし、今の台湾メーカーは、日本の巨大なブランドをも駆逐する勢いを持ち始めていたことを皆さんと共有したい。


現在の台湾メーカーの製品は、PCや通信業界ではOEM(Original Equipment Manufacturer)として提供していたポジションから、ODM(Original Design Manufacturer)のポジションへシフトしてきている。OEMは、製造する製品の仕様や設計を相手先が決定するが、ODMでは相手先のマーケットに会わせて、企画立案から、設計・製品開発まで行うので大きな違いがある。

ODM化によって、日本のメーカーと呼ばれる企業は、本当は、メーカーではなく、ODMで供給を受けている単なるマーケティング販売ブランドでしかなくなっているのが正しい現状だ。

かつて日本では、企画・開発し、物作りはしない「ファブレス」な企業が、もっともクールでスマートな企業と思われていたが、現在は、企画設計まで、まる投げしてしまっている本当のファブレスな空洞化を意味する言葉へと変化してきている。

シャープ製のウィルコム新製品「D4」(販売は延期されている)が展示されていたのは、なんと台湾のQuanta社である。なぜ、このブースに「シャープ製D4」があるのかと聞くと、Quanta社の説明員は「ODM」だからという。耳を疑い、OEM? と問い直すと、「企画・開発しているODM」と説明員はプライドを持って言い張った。

シャープのサイトでは開発・販売と明記されているが…どちらが本当なんだ?
http://www.sharp.co.jp/corporate/news/080414-a.html

シャープとQuanta社には資本関係があるので、細かい事にこだわる必要はないのだが、ODMであるならば、ウィルコムがQuanta社と一緒に作ればいいだけの話なのである。「シャープ製」というのはマーケティング的な要素なのかもしれない。


しかし、本当の大問題は、台湾メーカーが、さらに「台湾型のファブレス化」に進化していることのように感じたことだ。

台湾から委託製造を受けているのが中国の「大陸部」なのだ。いや、正しくは、台湾人の管理下による、管理製造と言ったほうがよい。

日本にいると、台湾も香港も中国もひとつの国という認識であるが、特に台湾は大陸部からの独立心がかなり旺盛な国である。その彼らが、中国でマネージメントをしながら、製造しはじめている。

かつて1980年代頃、日本人が中国に進出し、製造工場の拠点を数多く作っていった。担当者の日本人が数人で、現地採用で中国人のたくさんのマネージメントチームを作り、教育し、自らが生産できる力を与えた。その結果、日本の技術はすべて現地の中国にすんなりと受け継がれ、日本の製造力のノウハウは中国企業に流出し続けている。

2000年代、台湾はその現地マネージメントシステムの問題点を研究し、人件費の安い中国大陸で、マネージメントチームは、台湾から大量に出稼ぎ型で入り、現地で採用するのは、工場の単なるラインの人員だけという徹底ぶりを通した。そのおかげで中国大陸部にはノウハウが流れず、台湾の小島から巨大な大陸部の工場をマネージメントすることができるシステムを現在では構築している。

同じように、中国大陸部で製造していても、日本での技術は模倣され、台湾の技術は強固に守られているという現状が見え隠れする。また、おそらくこのミニノートPCが売れ始めると、日本のメーカーも台湾からODMで受け入れざるを得なくなることであろう。この夏から秋にかけて日本メーカーも大量にODMによる低価格戦争に巻き込まれることになるだろう。高級ノートパソコンの市場はあっという間に崩壊するとボクは見ている。

むしろ、このミニノートPC市場に、安易に参入することにより、モノを作っていない日本のメーカーが露見し、メーカーの価値が認められにくくなり、メーカーというマーケティング的なブランド力が崩壊した時に、日本のメーカーは一体何をメイクすればいいのだろうか?

2010年、携帯先進国である日本が一足早く4Gの世界へ突入する。MVNO( Mobile Virtual Network Operator)という定額通信料金による収益逓減を、免許制度の回線を設備とともに、OEMによる又貸しで補おうとキャリアは考えるだろう。それによって、多くの通信免許をもたない、ユーザーを多数抱える事業者およびメーカーが、進化する通信事業に参入する。しかし、今から2年後、その頃のデバイスやサービスは、携帯でも、PCでも、PDAでもなく、もしかすると通信デジカメや通信テレビ、通信自動車、いや通信冷蔵庫や通信トイレなのかもしれない。

その頃の日本のメーカーに今ほどの体力があればいいが、元気な、台湾、韓国、中国がこぞって参入し、携帯通信市場において国内市場が崩壊するシナリオも考えられる。2011年アナログ放送停波の前に日本のメーカーが停止という恐ろしい状況を脳裏にイメージしてもいいだろう。

日本の食料自給率39%が話題になるが、メーカーの自家製率も、ブランド力として話題にできるメーカーに登場していただきたいものだ。

 


【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2008/01/28
 「日本家電メーカーの国際競争力はだいじょうぶか。
  グローバル戦略を推進する韓国勢との違い。」
http://mediasabor.jp/2008/01/post_313.html


○東京ITニュース Computex 2008 台北リポート(YouTube映像 05:17)
http://jp.youtube.com/watch?v=I7HHwVV1TH0


○Asus Eee PC 901 Preview(YouTube映像 02:36)
http://jp.youtube.com/watch?v=ts5Sxj-bPUc&feature=related


○【COMPUTEX TAIPEI 2008】SHOW GIRL(AMD):YouTube映像 01:33
http://jp.youtube.com/watch?v=igAhHEQ_kQc


○GIGAZINE  2008/05/21
 「EeePCよりも高性能で低価格なミニノートパソコンがついに日本上陸」
 低価格なミニノートパソコン「EeePC」が空前の売れ行きを見せていますが、
 日本経済新聞社の報道によると、アメリカのHP(ヒューレット・パッカード)
 社がEeePCに対抗して同価格帯のミニノートパソコンを日本で発売する
 そうです。なんと価格がほぼ同じにもかかわらず、液晶の解像度や記録媒体
 の容量など、あらゆる面でEeePCよりも高性能になっているとのこと。
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20080521_hp_minipc/


○Gizmodo Japan  2008/06/02
 小さくてすごい激安ミニノート「HP2133」とその仲間たち
http://www.gizmodo.jp/2008/06/hp2133.html


○CNET  2008/06/07
 「COMPUTEX TAIPEI 2008の感想(Atom搭載Netbook編)」
http://japan.cnet.com/blog/kichi/2008/06/07/entry_27002223/


○ZDNet Japan  「Computex Taipei 2008に参加して」 2008/06/11
 ここに来た私の目的は、「シンクライアント」の進化を探ることと
 「モバイル機器」のトレンドを探ることだ。
http://blog.japan.zdnet.com/wakai/a/2008/06/computex_taipei.html

 

 


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