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編集長が語る「広告批評」の休刊宣言【NO STYLE広告論 番外篇】


広告批評6・7月合併号 特集「中国のクリエイティブ」
(6月23日発売予定)より。

 

「広告批評」の休刊宣言がちょっと波紋を呼んでいるようです。関係各位をお騒がせし、申し訳ないと思っていますが、そのことについて書かれたブログを読んだり、広告業界の方のお話(問い合わせ)をうかがったりしていると、ちょっと誤解されている向きもあるようです。そこで、当事者の一人として、そしてあと一年、できるだけいいものを出そうと思って今日も夜を徹して作業をしている現場監督として、今回の出来事をメディア批評的に読み解いておこうと思いました──


4月6日。この日発売された4月号の編集後記を読み、来年4月に「広告批評」が休刊することを知ったある新聞社の記者が、編集部に連絡を入れてきたのは、夕方の4から5時頃であっただろうか。その人は、この日、編集長となった私に、事実確認をしたり休刊の事情をたずねたりしたあと、社主である天野祐吉に電話取材を申し込んだ。ネット上のニュースサイトに記事が出たのが、その約1時間後か2時間後。すると、おそらくそのニュースを見たのであろう、ほかの新聞社の記者たちが、続々と確認の電話を入れてきた。


その約5時間後。午後9時頃にはちょっとすごいことになっていた。Yahoo!やexciteといった主要ポータルサイトのトップに、そのことを告げる記事がランクインし、自分のブログで記事について言及したり、そのままコピペする人が続々と現れはじめたのである。ニュースがネット上に波のように広がっていくのが見えるようだった。いや、印象としては、「火がついたように」というほうが近いかもしれない。「このスピードと広がり方はまるで“広告”だ」と、私は興味深く事態の成り行きを見ていた。


次の日。朝日、読売、毎日、日経、産経、一部スポーツ紙など、小さい扱いではあったが主要紙すべてに記事がのる。しかし、私の周りでは、そこでニュースを知った人は意外に少なかったようだ。聞いてみたところ多かったのがYahoo!ニュース。それも朝、ケータイで見たという。


その後、数々のメディアがこのニュースを取り上げることとなった。いま雑誌の休刊は多い。部数3万の雑誌としては異例の扱い方だ。どうしてだろう? 「広告批評」が創刊30周年を迎えようとしている、いまどき珍しいインディペンデントのクリエイティブ批評誌だからか?  社主の天野祐吉が、新聞にCMに関する連載を持つコラムニストであり、様々な社会問題に対してテレビ等でも発言しているコメンテーターだからか? それはもちろんそうなのだが、一番の理由は、この出来事にマスコミやメディア関係者が、いまゼッタイ無視できないテーマが潜んでいるからである。


キーワードは「マス広告万能時代の終焉?」、もしくは「ネットとの連携時代に突入?」である。マス広告は“マスメディア”と言い換えてもいいかもしれない。つまり、この50年、社会に甚大な影響力を及ぼして来た(仕切って来た)、テレビ、新聞、雑誌、ラジオの4媒体が、インターネットという急成長を続ける新興メディアに押され、世の中に対して、以前のような力を発揮できなくなっている。そんな折、唐突に誌面で告知された、雑誌「広告批評」の休刊宣言に、従来のマスメディア側のジャーナリズムが敏感に反応したということなのであろう。


この動きそのものは、いまに始まったことでもなく、21世紀に入ってからは特に、みんなが薄々感じていたことなのだが、「メディア環境が激変しているので雑誌やめます!」なんて爆弾発言を実際にやっちゃう人が現れたことで、同じジャーナリズムの仲間でもある、からだの大きなお兄さんたちはビックリしちゃったのかも。まだ見てみぬふりしてる人も多いのだが、「広告批評」を旧メディア側のシンボルとして、このタイミングに論じておこう(ちょっと拝んでおこう)と思った人もいるということだろう。いずれにせよ、このニュースに“ひとつの時代の終わり”を感じた人が多かったようである。


そんな中、5月20日付けの朝日新聞朝刊に掲載された記事は、なかなか読み応えのあるものだった。バックグラウンドが丁寧に解説してあり、天野さんを始め、糸井重里氏やアートディレクターの佐藤可士和氏、クリエーティブ・ディレクターの佐藤尚之氏がコメントしている。私もひと言、話させてもらった。少し長くなるが引用させていただこう。


■「創刊時はテレビCMの全盛期。業界誌としてではなく、『大衆の視点』で広告を
 追い続け、時代の雰囲気を切り取ってきた。休刊の背景には、インターネット上の
 広告の増加に伴う、テレビCMの相対的なシェアの低下といった構造的な変化がある」(リード)

■「マス広告は20世紀の産物で、特にテレビは向こうから押しかけてくる一種の
 暴力性があった。だからお目付役として我々が批評的な役割を担った」(天野)

■「マス広告への『殉死』だと思った。10年後、20年後に振り返ると『マス広告』
 の終わりの象徴になるだろう。休刊そのものが時代の批評になった」(佐藤尚之氏)

■「終わりのピリオドではなく、新しいものが生まれる広告業界のターニングポイント
 だととらえたい」(佐藤可士和氏)

■「80年代は専門職として磨かれたコピーライターが発信していたが、今は経営も
 広告も全体的に把握する『棟梁』が(作り手)に求められている」(糸井重里氏)

■「新しい広告の可能性を探るイベントを秋に開催する予定。啓蒙でも素人の日記
 でもない、皆が参加できる『ウェブの批評芸』のスタイルを考えていきたい」(河尻)


自分だけ、現場的なイベントの話をしたりしてやや浮いてる気もするが、ほかの方は広告への深い理解に基づいてそれぞれの立場から発言しており、なるほどと思わせるものだった。当事者の一人からすれば、さすがに「殉死」はちょっと恥ずかしいが(何かに殉じたりするのは、個人的には御免こうむりたい!)、休刊が時代の批評になったという部分は、確かにそういう見方もあるかもしれないなと思う。あとで述べるが、ややそういう意志もないわけではない。そうでなければ、一年前に誌面で休刊告知なんてことはしないのでは?


それにしても「棟梁」というネーミングは一体どこから……。あ、そうか! 「コピーライター=専門職(職人)」に対してそうおっしゃっているのか。なかなか職人ふうでオサレな言い回しだ。いま求められているのは「棟梁=プロデューサー的感覚を持ってトータルにキャンペーンを仕切れるクリエイター。つまり、進化したクリエイティブディレクター」ということなのかもしれない。スタンスと切り口は違えど、いま広告が、そして時代が変わろうとする大きな曲がり角にあるという認識は、ここでもやはり一致しているようだ。


リードでは「インターネット上の広告の増加に伴う、テレビCMの相対的なシェアの低下」が休刊の背景として挙げられており、記事の中では「広告批評が創刊された79年に広告費全体の77%を占めていたテレビ、新聞、雑誌、ラジオのマス四媒体の広告費が、07年には51%に低下した」という根拠も提示されている。


これも「休刊宣言」を裏付けるもの。数字を出されるとなるほどと思ってしまう。しかし、現場の立場、つまり毎月異様とも言えるほどの数の広告に何年も接している者から言うと、ちょっと実感とずれる。むしろ自分が感じているのは、シェアというよりも、CMのクオリティの低下、いやCMに対する社会の期待度の低下かもしれない。私は2000年に「広告批評」に参加(不思議にもあまり入社とは思っていない)したのだが、毎月誌面で紹介するCMのラインナップを選ぶのは、この8年でも正直年々キビしくなっていった。


そうだ。ここで書いておこう。広告業界の方から、「広告批評はCMがわかっていない」というお叱りを受けることがたまにある。はっきりそう言う人は少なくても、そう思っておられる方はけっこうおられるハズだ。しかし、それは私たちにしてみれば半ば確信犯で、「広告批評」ではCMをあえて専門家の目では見ていない(プロだけが面白がれるCMの存在意義って何なんだ?)。スタッフは、ふつうにお茶の間の感じで見て面白がったり、つまらながったりしている。これは広告批評流“目利き”のポイント。さすがに長くやっていると、知識も増えてしまうし、そういうプロっぽい見方もまったくできないわけではないのだが、そんな目で見た名CMは、お茶の間(ふつうの人)に届く「声」ではないかもしれない。一方で、あざとくウケることだけを狙ったCM、ブランドのボイスを誠実に届けようとしていないCMは、CM好感度調査で人気が高くとも“広告批評のお茶の間”ではしらける。


だから、毎月誌面でご紹介しているものは、選りすぐったCMであり、優れた批評性を持つ広告で、それが時代に対してどのような意味を持つかを読み解こうと何とか頑張っているのであるが、いまテレビCMの世界でそういうものを形にできるクリエイター(ブランド)は、もしかするとけっこう限定されてしまうかもしれない。それは必ずしも広告制作者の責任ではなく、やはり構造的なものが大きいと思う。面白い(interestingという意味での)CMを作れる環境がどんどんなくなってきているのだ。企業もCMにはそういうことを前ほど期待しなくなってきている。逆に言うと、そんな状況の中で、いいものを生み出しているクリエイターは、そうとうすごい人たちということにもなるのだが……。


しかし、ここでひとつ強調しておきたいのは、広告がつまらなくなっているわけでは全然ないのである。逆にこの8年で、どんどん面白くなってきていると私なんかは感じている。それはCMではなく、メディアとインタラクティブだ。そんなことを言うと、「これからの広告はインターネットだ!」と早とちりされた新聞や雑誌の方から、「面白いネット広告を教えてください」なんていう問い合わせが来たりするのだが、それもちょっとだけ違う。


広告業界的には「クロスメディア」(あまり正確な呼び方でもないと思うがとりあえず)と呼んでいる“あれ”。カンヌ広告祭でのチタニウム・インテグレーティッド部門的な“あれ”。あるいはgoogle的な“あれ”。さらにはSNS的なYouTube的な、そしてブログ的な“あれ”。そしてロゴから紙袋からショップ、さらには商品までトータルでディレクションしてしまえるデザイン的な“あれ”。どこに商品のPR的な要素が入っているのかなかなかわからないコンテンツ的な“あれ”。“あれら”が広告のしばらくこれからを主導していきそうな気がしている。それを「広告」と呼んでいいのかどうか私はわからないが、必ずしもインターネット広告の時代になるかと言えばそうでもない気がする。もちろん、CMだってまだまだ面白いものがたくさん生まれるだろうし。


で、「広告が面白いならなんでやめるの?」というご意見もあったりするわけだが、さっきからどう呼んだらいいかがわからなくて、やむをえず“あれ”なんて言い方をしている新しい広告たちは、なかなかいまの雑誌というスタイルでは批評しづらいのである。違和感があるのだ。多くの人が言うように、いきなりネットと言うのもちょっと違って、新しい「広告批評」のスタイルは、やっぱり「クロス」な“あれ”に求めるべきだろう。


いまの広告批評のアド・トレンドも、広告をひとつのクリエイティブを批評するのではなく、並べ方で一種の文脈を発生させた上で、つまりそれぞれの関係性においてクロスオーバーに読み解く実験をしている(そんなややこしげなことを、デザインでうまくカバーしてくれている、森本千絵さんに感謝)。だから、50個並べているあれは、ランキングではなくナンバリングなのです。ちょっと中身を読んでくれれば、すぐわかると思うのだが……(みんな順位付けが好きだなあ)。


そんなわけで、難しいとは承知の上で、その“あれ”を一年かけて模索してみたい。「休刊宣言」をすることで、少し世間の注目を「広告」と「広告批評」に集めることもできたのではないだろうか。だから、自分にとってこの一年は「休刊キャンペーン」であり、さっきの新聞記事で言うと、佐藤可士和さんのコメントが一番自分の気持ちに近い。広告批評の休刊は「ひとつの時代の終わり」ではなく、「ひとつの時代の始まり」なんだ。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○IT-PLUS  2008/05/19
 「マスメディア広告万能の時代は終わった」・休刊する「広告批評」の天野祐吉氏
 「今は物を買い揃えることが豊かな時代じゃなくて、物を買わないこと
 が豊かさへの道だという逆説が出てくるような時代ですからね。
 広告批評は20世紀という時代に対する批評行為をしていたメディア。
 21世紀になってちょうど変わり目を迎えたという感じがあります」
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMITzx000016052008


○広告会議 「広告批評」天野祐吉氏に聞いた。 2008/05/23
 ちなみに気になった言葉は、
 「従来の常識からは何の意味があるのかと言われるものが、これからの
  広告になるのかもしれないですね」です。
http://blog.kokokukaigi.com/archives/2008/05/post_501.html


○mediologic.com 「広告批評」天野祐吉氏、語る。 2008/05/19
 一昔前のウェブ広告はクリエイティビティでの勝負が確かにあった。
 しかし残念ながら、最近はウェブ広告の価値を単にROI価値の高いメディア、
 として見られる傾向が多い。実際にはウェブは人との距離が近いからこそ、
 できる表現、できる態度変容があるのだが。
http://www.mediologic.com/weblog/archives/001575.html


○CNET  2007/07/23
 「インターネットの存在がクリエイティブの重要性を加速化」
 インターネットやネット検索は、「いつでも簡単に調べられるので、人が
 記憶しようとする思いを忘れさせる」ツールなのかもしれないということ
 です。記憶に残そうとしないエンドユーザーは、広告を見て覚えておこう
 ともしませんし、そもそもUCC(ユーザークリエイティブコンテンツ)が
 流行る時代には、魅力ある広告でなければ無視するかもしれないのです。
http://japan.cnet.com/column/netad/story/0,3800075540,20353217,00.htm

 

 


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