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広告料収入依存ビジネスモデルの浸透と「物々交換」経済の復権

最近のインターネットサービスには、広告料収入に依存して利用者にサービスを無料で提供するビジネスモデルが多くみられる。Googleしかり、モバゲータウンしかり。一部を有料にするものも含めれば、mixiもニコニコ動画も入るが、要するに収益のうち一定の部分を広告料に依存するものだ。ブログを書く人が、記事にアフィリエイトのリンクを貼って、そこから得られる収入でものを買ったりするのも、同じ類とみることができるのではないかと思う。これまで有料で顧客に売っていたものとほとんどちがわないものが無料で提供されるとなれば、関連業界に大きなインパクトがあるのは当然といえる。

もちろん、これらのサービスを提供するのにコストがかかっていないわけではない。そのコストは利用者からみれば「第三者」である広告主が負担している。したがって利用者からみれば費用を払わずに利用できるという意味で、見かけ上「無償」になっているわけだ。

しかし、本当に利用者は何も「支払って」いないのだろうかというと、決してそんなことはない。たとえばグーグルの検索連動広告を考えてみると、利用者は、グーグルの高性能な検索サービスを利用できる代わりに、広告主企業にとって潜在顧客である自分の関心事項に関するデータを提供している。これは利用者本人にとってほとんど価値のない情報だが、グーグルのエンジンによって適切な広告とマッチングされることにより、広告主にとって貴重なマーケティング情報となる。つまり情報の交換という取引が行われているわけだ。

同様のことは、広告モデルを採用しているネットサービスの多くにあてはまるように思われる。オールドメディアにおける広告がどちらかといえば一方向への情報の流れであるのとちがって、ネットサービスで用いられる広告の多くは、このような双方向の情報の流れを伴っているからだ。このような情報のやりとりは、もはや「取引」と呼んでもいいのではないかと思う。

こうした動きをみていると、なんというか、ある種の「先祖がえり」のような感覚を持つことがある。いってみればこれは、一種の「物々交換経済」ではないか。貨幣による対価を伴わないこのような財・サービスの流通が増加しているとすると、これは物々交換経済が復権している、ということになるのではないか、と。

歴史的に実際どうだったのかは別として、私たちの経済は、物々交換経済から発展して貨幣経済が生まれたということになっている。必要なときに必要なもの同士を交換することによって成り立つ物々交換経済が持つさまざまな不便さを解消するために、貨幣が発達したと。おおざっぱにいえば、貨幣の機能は、交換の媒体、価値の尺度、価値保存の手段の3つ。当初は貴重品の類が使われたが、やがて物理的な価値から離れ、情報だけがやりとりされるようになって今に至るわけだ。

もちろん物々交換的な経済活動が消えてしまったわけではない。私たちは日常生活の中でごく自然に物々交換を行っているし(たとえば居酒屋のテーブルで料理を交換したりもするのもそうだ)、企業も、取引先との間でさまざまなバーター取引を行っている。しかしそれが中心的な経済活動になることは考えにくい。私たちは基本的に、貨幣経済にどっぷり浸かって生きている。それはもちろん、そのほうが便利だからだ。

貨幣の重要な特徴に、「匿名性」と「転々流通性」がある。貨幣は誰が持っていても価値が変わらない。また貨幣は誰が持っているかのデータを記録せず、人から人へどんどん渡していける。考えてみれば当然の話で、もらった貨幣がそのまま他の目的に使えなければとても不便だし、支払う相手によって貨幣の価値がちがっていたのではかなわない。貨幣がその機能を充分に果たすためには、こうした特徴が必要なのだ。

しかし、広告ベースのネットサービスが広まったことで、匿名性や転々流通性をもたない物々交換が再び表舞台に出てきているように思われる。検索の際に提供される個人の興味に関するデータは、その個人と結びついて初めて価値を持つものだし、その価値もさまざまだろう。もちろん、どの企業が使うかによっても異なるはずだ。また、人から人へとどんどん渡していっていいというものでもない。つまり、「誰から誰に」が交換される価値に重要な影響を与えるわけだ。

この次に何が来るだろう? と思うのが人情だが、もちろん予測は難しい。ただ、かつて私たちの経済が物々交換経済から貨幣経済に進んだのが利便性を求めた結果だったとすれば、同じようなことがもう一度起きてもおかしくないのではないか、という気がする。ネットサービスにおいて上記のような「物々交換」が復活した理由の1つは、技術が発達し、物々交換にまつわるコストが大幅に低下したことだろう。コンピュータを使えば、物々交換を行ううえで最も難しかった情報の検索やマッチングを高速、低コストで行うことができる。これによって、それまで取引の対象とされなかったものを「取引」することができるようになったということがあるのではないか。

しかし、こうした動きが進めば、より便利なものを望むのは自然だ。となると、こうした現代の物々交換経済が、再び貨幣経済に向かう流れが出てくるかもしれない。貨幣には、交換の媒体以外に、価値の基準としての機能もある。物々交換を行う際に、交換されるものの価値をよりよく反映させようとするのは当然だ。ネット上で行われる「情報」という財の交換に際しても同様に、交換される情報の価値をより精緻に測定し、比較可能なものとし、交換をよりうまく行おうとするようになるはずだ。

こうした動きの一部は、ネットサービスで数多く導入されているポイントプログラムの中にすでに現れている。「企業通貨」とも呼ばれるこれらの利用範囲や普及度が、今後さらに広がり、進んでいくことになるのではないか。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2007/12/17
 「オンラインメディア、ニュースサイトの有料・無料化議論の行く末は」
http://mediasabor.jp/2007/12/post_288.html


○MediaSabor  2007/10/22
 「電話通話料も無料に─広告収入による無料ビジネスモデルの広がり」
http://mediasabor.jp/2007/10/post_241.html


○Yoshio's blog 2008/04/11
 「フリペーパーR25の媒体、広告価値が下がっている事実!」
 WEB、モバイルに紙と同じ情報があるという安堵感から以前よりも
 必死さにかける。じゃあ家に帰ってまでわざわざR25.jpを見たいか
 というとそうでもない。もちろん、紙、WEB、モバイルと広げた
 ことで地方の人が読めるメリットもあるがそもそも彼らはR25の
 バリューをしらない。
http://no-road-no-rules.365ballet.com/?eid=763658


○広告β:「人気が出るほど価格が上がるビジネスモデル」 2007/02/01
 通常の商品は、売れれば売れるほど、減価償却や規模の経済が働いて、
 価格が下がっていくということになっている。それで、もっと売れていく。
 これは、ある意味生産現場から見た考え方であって、必ずしも永遠不変の
 原則ではないらしい。DRM(デジタル著作権管理)がない(フリーな)
 楽曲を配信するサービス、「Amie street」というものがアメリカに
 あるようなのだが、これは逆転の発想をした。
http://kokokubeta.livedoor.biz/archives/50920713.html


○ITmedia News  2008/02/27
 「広告早送り禁止」機能つき無料VOD、ABCが展開
 運用実験では、93%のユーザーから「無料で番組を視聴できるのであれば
 広告が早送りできなくてもよい」との評価を得た。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0802/27/news028.html


○CNET  2007/12/19
 「バナー広告に頼らないサービス設計--モバゲータウン成功の裏側に迫る」
 モバゲータウンは当初からサービスを行っている無料ゲームとSNSに加えて、
 Eコマースやケータイ小説、ニュースなど、コンテンツを拡充している。
 「モバイルで何かしたければ、まずモバゲーにアクセスすればいい」という
 ように、モバイルポータル第1位の座を目指していく。
http://japan.cnet.com/mobile/story/0,3800078151,20363645,00.htm

 

 

 


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