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ニッポンの食卓にじわじわと浸透する遺伝子組み換え作物

<記事要約>

オーストラリアの法律は、大部分の遺伝子組み換え作物(GM作物)を禁止しており、現在のところ遺伝子組み換えの野菜や果物、穀物は市場に出回っていない。ただし、遺伝子組み換え綿花の栽培は許可されており、今年からはニュー・サウス・ウェールズ州とヴィクトリア州で遺伝子組み換えカノーラ(ナタネ)が合法になる。

オーストラリアがGM作物の使用に関して遅れているのは、安全性に対する不安に煽られてのこと。反対派は、健康面や環境面の危険性をもたらす可能性が懸念される最中に、不必要なリスクを負わなくても食糧は充分にあると論じ、推進派は、増加する世界人口への食糧供給を支援するために適切な解決法だと確信している。

オーストラリア農業資源経済局(ABARE)は、2つのシナリオを使って、その潜在的な経済効果を推定した。報告書によると、GM作物はオーストラリア経済全体に81億豪ドル(約8,100億円)相当の利益をもたらし、導入の遅れは著しい利益の損失になるとしている。

「Economic impacts of GM crops in Australia(オーストラリアにおけるGM作物の経済的影響)」と題した報告書は、同局のウェブサイト(http://www.abareconomics.com)で公開されている。

2008/5/12 Australian Food Newsより
http://www.ausfoodnews.com.au/2008/05/12/gm-crops-could-provide-8-billion.html


<解説>

「81億豪ドル相当の利益」というのは、2018年までの10年間に見込まれる利益の総額で、2つの州でモラトリアムが解除された遺伝子組み換えカノーラと共に、遺伝子組み換えの小麦、とうもろこし、大豆、米の導入を仮定したシナリオに基づいたもの。

これに対し、グリーン党の上院議員は、「ABAREは最初からGM支持派。数字に信頼性がない」と一蹴し、反対派の消費者団体などからも反発の声が上がっている。交雑による遺伝子汚染の危険性を憂える生産者も少なくなく、安全でクリーンな豪州産食品のイメージに傷が付くことを恐れる農畜産業関係者の声も聞こえてくる。

世界市場において、「非GM作物供給国」であることをウリにする立場を取ってきたオーストラリアが揺れ動いているのは、他国のGM作物生産量が増加し、輸出量が拡大するのを目の当たりにしているからだ。

世界的に見ると、GM作物生産量のトップはアメリカ(50%)で、アルゼンチン(17%)、ブラジル(17%)、カナダ(6%)、インド(5%)と続く。

ABAREは以前にも、日本や中国などの輸出先市場において、遺伝子組み換えカノーラは従来と同様に受容されていて、GM作物推進国が市場をほぼ独占している、と指摘したことがあり、国際競争力の低下に危機感を強めている。

科学的な安全性が確立されていないという理由で、GM作物に慎重な姿勢を示している国内やヨーロッパ市場は別にして、ほとんどの食料輸入国の消費者は大して気にしていないじゃないか、というワケだ。

貿易相手国市場での浸透が、その根拠になっている。たとえば、日本の大豆自給率はわずか5%ほどで、主要な輸入先国であるアメリカで生産される大豆は大半が遺伝子組み換えと言われている。主に食用油として消費されるカノーラも、その約80%が世界最大の遺伝子組み換えカノーラ生産国であるカナダ産のもの。市民団体や農林水産省の実態調査によって、輸入港周辺で輸送中にこぼれ落ちた遺伝子組み換えカノーラの種子から国内で自生が広がっていることが明らかにされてからも、市場性に大きな変化は見られない。

それでも、オーストラリアで遺伝子組み換えカノーラ生産が解禁される前には、日本の消費者団体などが反対キャンペーンを繰り広げた。GM作物輸入に対するネガティブな反応や、豪州産の非GM作物への需要増がもっと早くに示されていれば、もしくは、もっと大きな動きに発展していれば、オーストラリアは非GM作物供給国であり続けることの優位性を見い出せたのかもしれない。

国内市場に目を向けると、GM作物・食品に対し、オーストラリアは日本よりはるかに厳しい表示義務を課している。たとえば、遺伝子組換え原材料の混入許容値は全重量の1%未満。5%未満の「意図せざる」混入が認められ、表示対象が原材料の上位3品目に限られている日本とは大きな隔たりがある。

日本では上位4位以下の重量にすれば表示義務がなく、混入が5%未満なら任意で「不使用」と表記することもできるのだ。「遺伝子組み換えではありません」と日本市場で流通しているものには、海を越えると、遺伝子組み換え食品として表示しなくてはならないものがたくさんある。その逆もまた然りだ。「ありません」と言うからには、「まったく使っていない」と考えるのがフツウの感覚で、ちょびっとだから「不使用」と表示してもOKだなんて、まったく曖昧なルールだと思う。

オーストラリアの表示義務にも抜け穴はあるけれど、規制のゆるい日本にGM作物が流れやすい可能性を否定することは難しい。

折しも、2007年度版農業白書では、「日本は非組み換え作物の安定的な確保が困難になる可能性がある」と指摘された。

GM作物は、ニッポンの食卓にじわじわと浸透しつつある。選択の自由を失わないために、消費者が今できることは何なのだろうか? とりかえしのつかないことになる前に。


○遺伝子組み換え食品に見る表示と消費者心理のギャップ(PDFファイル)
http://c-news.jp/c-web/pdf/pressrelease/press050728.pdf

○『トゥルーフード・ガイド』キャンペーン
https://www.greenpeace.or.jp/gm/truefoodguide/promomgm.html

 


【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2008/02/02
 「新遺伝子組み換え法にドイツ農産・食品経済界から批判の声」
http://mediasabor.jp/2008/02/post_315.html


○MediaSabor  2007/10/16
 「すでに三大作物の大半が遺伝子組み換え作物(GMO)
  ---消費者意識とは裏腹に市場浸透が拡大する理由」
http://mediasabor.jp/2007/10/gmo.html


○バイオマス備忘録 2008/05/13
 「遺伝子組み換え作物を全面的に支持、85億ドルの増収見込める
  …豪農業資源経済局」
http://biomass.blog93.fc2.com/blog-entry-315.html

 

 


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