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規制緩和で小が大に飲み込まれる薬局の危機---ドイツ薬事戦争パート2

オランダに本拠を置くヨーロッパ最大医薬品ネット通販会社、ドック・モリスがドイツ国内で薬局フランチャイズチェーン店営業認可を得たのは2006年6月の事だった。それからおよそ2年が過ぎ、個人経営の薬局では、安価で在庫薬品も多種にわたるドック・モリス薬局に対抗できず、チェーン店加盟を選択する薬局が増加している。

07年4月にドック・モリス社90%の買収をした、ヨーロッパ最大医薬品卸売業者セレシオが発表した07年度販売統計調査報告によると、同年4月ドイツ国内で20店あったドック・モリス薬局は、今年4月に100店に達し、国内16州にチェーン店網の拡大を成し遂げた。

ドック・モリスが先駆けとなり薬局市場が自由化されたことで、一般薬局のショックが収まらない中、今年3月、ドラッグストアでの薬品販売が合法と見なされる判決が下され、更なる重大事態が起きた。連邦行政裁判所(Bundesverwaltungsgericht・BVG)は、ドラッグストアチェーンdm drogerie marktがオランダ・フェンロー市に本社があるヨーロッパ薬局(Europa Apotheek Venlo=EAV・オンライン通販会社)と提携して行っている、「処方箋薬を含めた薬の注文と受け渡し販売サービス」の認可を確定した。

dm drogerie marktでは、04年6月よりデュッセルドルフ周辺で試験的にこのサービスを開始した。06年12月にはノルトライン・ヴェストファーレン州にある86店舗でファーマポイント(Pharma Punkt)と呼ばれる注文スタンドの設置をした。客は、ここで注文用紙に必要事項を記入する。処方箋がある場合は、注文用紙と共に備え付けの封筒に入れ申し込みをする。

注文スタンドにはPCが設置されており、客は、薬品の検索もできる。dm drogerie marktはEAV(ヨーロッパ薬局・オンライン通販会社)に注文用紙を配送し、申し込んだ薬が72時間以内にdm店舗に届く。手数料や送料は不要。客は、銀行振り込みで済ませた支払い用紙、身分証明書、注文用紙の半券を呈示して、店頭で薬を受け取る。注文薬品は、EAV(ヨーロッパ薬局・オンライン通販会社)から客の指定する住所や自宅への直送も可能である。

単に薬を買うのなら薬局に行けばよい。しかし、ドラッグストアを利用する長所は、第一に処方箋不要の一般医薬品の価格が安価なことである。一般医薬品は、自由価格であるが、薬局では定価で販売しているのが普通である。これが、EAV(ヨーロッパ薬局)では、最高40%までの割り引き価格で購入できる。さらに、一品につき価格の10%がボーナスとして客に還元される。(一品につき最高15ユーロまで)

第二に、処方箋医療品は、書籍の価格と同様に、価格拘束の保護により法定価格が定められており、薬局で医薬品を受け取る際に自己負担分(一品につき最低5ユーロから最高10ユーロ)を支払う。これに対して客は、dmで処方箋薬の注文をすると、支払った自己負担額と医薬品の価格によって、一品につき薬価格の3%にあたる2,5ユーロから最高15ユーロがボーナスとして払い戻しされる。

dmは、バーデン・ヴュルテムベルク州カールスルーヱに本社を置く、国内2位のドラッグストア。国内に約900、国外に約900の店舗を持つ。また、国内1位のシュレッカー(Schlecker・10,800店舗を持つ日用品小売り業者)も薬品販売参入を審議中である。これらドラッグストアでは、国内に販売網を確立している優位な立場を利用して、売上を伸ばしていこうという計画だ。

アレンスバッハ世論調査研究所が国民のサービス満足度を調査した結果、薬局が一番顧客に受けがよいと言う結果が出た(87%)。しかし、顧客は、サービスもさることながら価格に満足できる売り手を求めている。一般薬局は、政府が進める医療改革、ドラッグストア規制緩和(処方箋薬を含めた薬の注文と受け渡し販売サービス認可)、さらにはドック・モリスチェーン店からの攻撃(薬局フランチャイズチェーン店の展開)で店舗存続の情勢が益々厳しくなっている。


<参考情報>

http://www.celesio.com/ag/?ni=q108-0&lg=de 

https://www.europa-apotheek.com/index.php 

 


【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2007/11/06
 「ヨーロッパ最大医薬品ネット通販会社ドック・モリスが
  引き起こしたドイツ国内薬事戦争」
http://mediasabor.jp/2007/11/post_254.html

 


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