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米国旅行市場で強まるサプライヤー直販化。日本市場に新勢力「トラベルズー」参入

 インターネットの出現によって、旅行市場は大きく変わった。航空券や、ビジネス出張先のホテルなどは、サプライヤー直販サイトや旅行サイトなどで予約する流れが一般的となった。このため、全国各地に、繁華街の一等地に店舗を構える大手旅行会社にとって、店舗の存在意義が問われることになってきた。コンサルティング力を売りにしたり、大型店舗のカウンターを方面別や趣味別にブースのように設えたり、内装をカフェのようにしたり、クルーズなど高額旅行商品専門店として、サロンのような高級感を漂わせる店舗も出現し、店舗の専門特化型が進んだ。この流れも、インターネットの進展と、無関係ではなかった。

 日本の旅行市場を眺めると、国内最大のインターネット旅行サイト「楽天トラベル」やレジャー・観光に強い「じゃらんnet」、高級ホテル・旅館に特化した「一休.com」などインターネット旅行予約サイトが、依然大きな伸びが続いている。旅行会社のように店舗を持たず、人件費コストも小さな旅行サイトは、収益率も高い。

 旅行サイトの強みは、ポイント還元による顧客抱え込みだ。ある旅館では「自館のホームページでも宿泊予約を受け付けているが、値段は同じなのに、お客はポイントが付与される「楽天トラベル」や「じゃらんnet」を通して我が宿に予約してくる。自分のお客じゃないみたいだ」と途方に暮れる……。

 米国ではどうだろうか。米国は、2000年ごろに本格的にオンライン旅行ビジネスがスタートし、急激に発展してきたが、「最近になって若干市場が飽和してきている」と、フォーカスライトJapan日本代表の牛場春夫氏は、米国のオンライン旅行市場の最新事情を分析する。

 米国の旅行市場は約45%がレジャー市場、約40%がBTM(法人市場)、残り15%が中小企業のお客などが占める。レジャー市場をみると、オンライン旅行社最大手のエクスペディアが172億ドル、2位のトラベロシティ101億ドル、3位のオービッツ101億ドル、プライスラインの33億ドルと続く。

 全米旅行社のトップ10の中にエクスペディアが3位に入っているほか、前出のオンライン旅行社4社がランクインしており、やはり米国でもオンライン旅行社が旅行市場を席捲している状況だ。

 一方、法人市場では 1)アメックスが242億ドル、2)CWT(カールソンワゴンリートラベルが221億ドルと続く。世界経済のグローバリゼーション化により、M&Aや事業提携などで、オンライン旅行社や、法人旅行部門は世界的なネットワークを強めている。欧州のオンライン旅行市場の45%を、米国のオンライン旅行社が占めているという。また、数多くの旅行サイトを横断的に価格比較する「メタサーチ」が台頭している。これらサイトをヤフーやグーグルなどが買収する動きもあるという。レジャー市場におけるオンライン旅行社のシェアは55%。法人旅行市場でのオンライン旅行社シェアは43%と、法人旅行市場の方がレジャー市場よりもオンライン化が遅れているようだ。
 
 一つの大きな傾向として、オンライン旅行社のエア販売シェアが減少している。これは、ボーナスマイレージなどをつける航空会社の直販化が進んでいるためだ。 
  
 牛場氏によると、「オンライン旅行市場を100とした場合の、2006年はオンライン旅行社が41%、サプライヤーの直販が59%だった。これが09年はオンライン旅行社が35%、サプライヤー直販が65%と、さらにサプライヤーの直販化が進む」という。サプライヤーの直販サイトの拡大によって、市場を席捲したオンライン旅行社の成長力が減退しはじめているのだ。しかし、サブプライムローン問題で不景気になれば、ホテルの客室在庫の増加が見込まれ、「エクスペディアなどオンライン旅行社が再び浮上する見方も強い」(牛場氏)という。
 
 旅行市場がグローバル化する流れのなか、米国の旅行市場の動向が、日本市場にも少なからず影響を与えるはずだ。

 日本の旅行市場にも新たな勢力が、参入している。世界最大のオンライン旅行情報メディア「トラベルズー」だ。同社の専門スタッフが毎週900社を超える旅行関連企業の旅行情報をあまねく調査し、そのなかから厳選した“トップ20”のツアーをメールマガジンで購読者に届けている。同社は米国が本拠地。現在世界12カ国20拠点を持ち、07年11月には日本法人が設立された。

 数ある旅行系サイトとの違いはなにか。「通常の旅行サイトには何十件と似たような旅行情報が並んで掲載されており、それを消費者が一つひとつ検討しなければならない。トラベルズーはこの手間を代行して、信頼ある厳選した旅行情報のみを提供している」(武藤社長)。そこには「¥49,800 グアム4日間海辺の5ツ星ホテルで贅沢な休日を(アールアンドシーツアーズ)」「¥28,000 日本三景・松島を望む露天風呂の宿 新幹線付2日間(JR東日本)」など厳選した20ツアーが方面も価格もバラバラに並ぶ(いずれも08年6月4日発行)。

 インターネットによって、無限の旅行情報が手軽に得られるようになったがゆえに、その無限の情報から確かな旅行商品を選ぶという、新たな不便が生じているのだ。現在、トラベルズーのメルマガ購読者は全世界で1200万人が登録している。このうち、米国が1000万人、英国が90万人強、カナダ、フランスなどが続く。日本は昨年12月の中旬からユーザー獲得を始めたが、6月末現在、約30万人までスピーディーに伸びてきている。

 「情報がたくさん得られるがゆえに、ユーザーが感じていた不便を払拭するサービスは市場を問わず、万国共通に受け入れられる」(武藤社長)と、日本の旅行市場の特殊性にも自信を持つ。数々の米国オンライン旅行社が苦戦した日本の旅行市場で新たな勢力になれるか、期待したい。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○広告ウーマン★ 広告が分かれば、オンナが分かる。
 「クチコミランキングの弊害」 2008/03/15
 最近、「楽天トラベル」や「じゃらん」のクチコミに踊らされて
 しまっているホテルや旅館が多いのだそう。例えばある旅館では、
 楽天で予約した人に対しては、よいクチコミを書いてもらおうと、
 お土産をあげたりして、いたせりつくせりでお客様をもてなす。
 一方で一般客に対しては、サービスの至らぬ点があったとしても、
 特に何もやろうとしないのだとか。(話を聞いていて思わず寒気がしました。)
http://ad.onnagokoro.net/?eid=776732


○旅行ジャーナリスト村田和子のブログ
 「ネット上での予約システムの功罪--論文その3」2007/07/29
 インターネット上での宿泊の販売は、慎重にそして戦略的に行う必要があり、
 また宿のサービスや運営も、あわせて見直しを行うことが重要になる。
 しかし、企業経営の大規模な宿はともかく、家族経営に限りなく近い宿では
 難しく、安易にインターネットでの販売に参入し、逆にマイナス面だけを
 背負い込み撤退する宿もある。加えて、ITの知識や技術を持ち合わせて
 いない宿は、取り残され、業界の貧富の差は広がりつつあるといっても
 いいだろう。
http://kazukomurata.seesaa.net/article/49619379.html


○Priceline Falcon TV Spot(YouTube映像 00:31)
 Pricelineは、スタートレックでカーク船長を演じたWilliam Shatner氏を
 「Priceline Negotiator」というPRキャラクターとして起用しました。
http://jp.youtube.com/watch?v=nSxZ3gn-dI4&feature=related

 

 


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