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洋楽の紙ジャケ再発もいよいよ80年代に突入!

 1年ほど前に、この場で「リイシュー・シーンにもそのときどきの流行みたいなものがある」と書きましたが、今年もそういった傾向はハッキリとあります。今年の主流は「80年代の洋楽もの紙ジャケCD」。ここ最近リリースされているタイトル数は凄いです。

 まずは、80年代に録音されたアルバムが、ここ数カ月の間に紙ジャケで複数タイトルまとめてリリースされているアーティストをまとめてみましょう。

4月:
デフ・レパード(Def Leppard)、ホワイトスネイク(Whitesnake)、
ヴァン・ヘイレン(Van Halen)、デイヴ・エドモンズ(Dave Edmunds)


デフ・レパード『ヒステリア』
アメリカではシングル7枚を本作からカット。全米1位を記録した87年作

5月:
デュラン・デュラン(Duran Duran)、ザ・キュアー(The Cure)、
アレサ・フランクリン(Aretha Franklin)、ダイアモンド・ヘッド(Diamond Head)


ザ・キュアー『ザ・ヘッド・オン・ザ・ドアー』
90年代に全米で大ブレイクする下地を作った85年リリースの傑作

6月:
カルチャー・クラブ(Culture Club)、シンディ・ローパー(Cyndi Lauper)


カルチャー・クラブ『カラー・バイ・ナンバーズ』
10曲すべてがシングル・カットできそうな83年の最高傑作。全米・全英で1位を記録



シンディ・ローパー『シーズ・ソー・アンユージュアル』
MTVを味方に大ヒットした80年代を象徴するアルバム。「タイム・アフター・
タイム」は後にマイルズ・デイヴィスもカヴァーした

7月:
ジャパン(Japan)、デヴィッド・シルヴィアン(David Sylvian)、ザ・ジャム(The Jam)、
ジーザス&メリー・チェイン(The Jesus And Mary Chain)


 これだけ「80年代もの洋楽」が集中してリリースされることは、さすがに今までなかった現象で、紙ジャケ・シーンもいよいよ本格的に80年代に突入、といった感じですね。8月には、ヘアカット100(Haircut One Hundred)、ニック・ヘイワード(Nick Heyward)、ブロウ・モンキーズ(The Blow Monkeys)といったところも発売が予定されています。

 「80年代ならジャムよりスタイル・カウンシルだろ?」という声も当然あるかと思いますが、スタイル・カウンシル(The Style Council)も8月上旬に紙ジャケの発売が予定されていますし、ジャムとスタイル・カウンシルを率いたポール・ウェラー(Paul Weller)のソロ・アルバムも、すべて90年代以降の作品になりますが、7月にまとめて紙ジャケでリリースされています。

 もちろん、これまでにも80年代ものの紙ジャケCDは発売されてきたわけですが、ザ・スミス(The Smiths)やレッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)といったビッグ・ネームを除けば――ルイ・フィリップ(Louis Philippe)という例外もあるにせよ――80年代から活動を始めたアーティストでリリースがあった例はほとんどなく、デイヴィッド・ボウイ(David Bowie)やルー・リード(Lou Reed)のように、70年代から活動していたアーティストのカタログを紙ジャケ再発するにあたって80年代の作品も一緒に発売される、というケースがほとんどでした。

 今から1年ほど前にあたる昨年夏から、昨年いっぱいまでの間に紙ジャケCDで80年代の作品が複数リリースされたアーティストの名前をチェックしてみましょうか。

6月:
マガジン(Magazine)、オジー・オズボーン(Ozzy Osbourne)、バンコ(Banco)

7月:
イギー・ポップ(Iggy Pop)、イアン・デューリー(Ian Dury)、ジェネシス(Genesis)、
モーターヘッド(Motorhead)

8月:
ギラン(Gillan)

9月:
ラモーンズ(Ramones)、フォガット(Foghat)、ロキシー・ミュージック(Roxy Music)、
ブライアン・フェリー(Bryan Ferry)

10月:
マイク・オールドフィールド(Mike Oldfield)、
リック・スプリングフィールド(Rick Springfield)、
イングヴェイ・マルムスティーン(Yngwie J. Malmsteen)

11月:
マイク・オールドフィールド(Mike Oldfield)、ピーター・ガブリエル(Peter Gabriel)

12月:
ジェネシス(Genesis)、ヴァン・ダイク・パークス(Van Dyke Parks)、
ピーター・ハミル(Peter Hammill)、アレサ・フランクリン(Aretha Franklin)、
タイガーズ・オブ・パンタン(Tygers Of Pan Tang)、ディオ(Dio)


 こうやって並べてみると、リック・スプリングフィールドなど一部の例外はあるものの、見事に70年代に活動の基盤を固めたアーティストばかりですね。なかでも、ピーター・ハミルは発売された4タイトルすべてが80年代の作品なのに、内容的にはここ数カ月の間にリリースされている作品とは色合いがかなり異なることは注目すべきポイントです。

 その色合いの違いとは、「MTV色」が濃いか薄いか、ということです。今年の4月に発売されたホワイトスネイクやヴァン・ヘイレンといったところも70年代からの活動組に当たりますが、昨年までのアーティスト・ラインナップと比較して見えてくるのは、最近発売されているアーティストは70年代からの活動組だとしてもMTV色が強いということです(ホワイトスネイクで4月に発売されたのは、MTVと連動して全米で大ブレイクした時期に当たる80年代の3作品)。言葉を変えるなら、小林克也がVJを務め、近年また復活したTV番組「ベストヒットUSA」を毎週楽しみにしていた世代にアピールする作品群とも言えましょうか。

 どうしてこのような現象が起きているのでしょう? よく言われるのが、子供のころに当時を体験していた世代が会社のなかでもポジションが上がってきて、自分の意見を主張できる立場になったから…というものです。たしかにそれも一因かもしれませんが、CMやTVドラマなどのタイアップ曲をまとめたコンピレーション・アルバムならばともかく、それだけでここまでオリジナル・アルバムでのまとまった再発を促す動きになるとは思えません。

 それよりも、答えとしてはシンプルで面白みがないかもしれませんが、今も現役でがんばっている、という点が重要なのだと思います。今から25年前にMTVで人気のあったアーティストが「今も現役でがんばっている」。このことは、実は「盲点」だったのです。というのも、80年代にMTVを味方に世に出てきた人たちというのは、概ね一過性のものであるという見方が当時はされていたんです。

 実際に、ここ最近、紙ジャケがリリースされているアーティストの多くは、少し前までは厳しい言い方をすれば「過去の人」に成り下がっていました。ですので、より正確には「今も現役でがんばっている」というより、「今、再び現役でがんばっている」という方が正しい表現かもしれませんね。

 また、今年4月以降に発売されたアーティストを眺めてみると、来日を控えている(もしくは今年になって来日した)アーティストが多いことにも気がつきます。デフ・レパードとホワイトスネイクは10月に日本武道館で共演しますし、シンディ・ローパーも9月に武道館公演を行ないます。僕は5年前にホワイトスネイクをZEPP東京で、4年前にはシンディ・ローパーを渋谷公会堂(現C.C.Lemonホール)で観ています。驚くことに、今のほうが会場が大きくなっています。シンディ・ローパーは昨年、サマーソニックでも来日していますが、その翌年に武道館で単独公演を行なうということは、4年前に比べて状況が確実に良くなっていることの証でしょう。

 ダイアモンド・ヘッドは、一般的な知名度はそれほどないでしょうが、なんと初来日公演が今年の2月に実現しました。80年代当時ですら実現しなかった来日公演が今になって起きているわけですから、注目に値する現象です。

 デュラン・デュランも今年の4月に来日公演を行ないました。東京で一夜限りではありましたが、昨年暮に出した新作は豪華な制作陣を迎え、充実した内容だったことは記憶に新しいところです。

 僕が「80年代もの洋楽」にここまで愛着を感じているのは、「刷り込み」によるものが大きいのかもしれません。それでも、これは反対意見があることを承知のうえで書きますが、80年代にMTVをバックにヒットしたアーティストの音楽性というのは、実は世間が考えていたほど脆弱なものではなかった、と本気で思っています。実際、ここ数カ月の間に紙ジャケで再発されている作品群を聴き直してみると、よくできていることに驚きます。コアな音楽リスナーの方には笑われてしまうかもしれませんが、その完成度に素直に感動してしまうことが多いんですよね。

 この「80年代もの洋楽」熱が冷めてしまう前に、僕が紙ジャケ化の実現を個人的に熱望している上位10アーティストを、最後に挙げさせてください。

1. プリファブ・スプラウト(Prefab Sprout)
2. ドリーム・アカデミー(The Dream Academy)
3. ティル・チューズデイ('Til Tuesday)
4. カースティ・マッコール(Kirsty MacColl)
5. カーズ(The Cars)
6. ローン・ジャスティス(Lone Justice)
7. ドッケン(Dokken)
8. オレンジ・ジュース(Orange Juice)
9. メガデス(Megadeth)
10. カジャグーグー(Kajagoogoo)


 カジャグーグーはリマール(Limahl)脱退後のアルバムも含めて。カースティ・マッコールはスティッフ時代の編集盤が紙ジャケ化されていますが、僕が望んでいるのはポリドールとヴァージンからリリースされた80年代作品の紙ジャケ。実現すればすべて初の紙ジャケ化となるはずです。メーカー各社のみなさん、もしこの記事が目に留まりましたら、ご検討よろしくお願いします!

 

 


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