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iPhoneが起こした4つの革命

KNN 神田です。

2008年07月11日(金)17:30  17時間かけてiPhone 3G 8GBを原宿のソフトバンクショップで入手した。前日の12:00から並びはじめ(途中で脱落したものの、知人の替わりで列に復帰)、買えたのは陽も落ちはじめた17:30。 購入するまでに17時間もかかったことになる。音楽のライブチケットではなく、物品を購入するのに、こんな大変なことは人生においてはじめてだ。

パッケージを購入するだけでなく、電話の契約が、いかに前時代的なものかを痛感した。 しかし、iPhoneを触ってみたことによって見えてきたことがいくつかあるので、今回はそれを皆さんと共有してみたい。それは、「今すぐ、みんなでiPhoneを買おう!」と言うつもりではない。 それは、「スマートフォン型の社会」が到来するという明るいメッセージである。

待てば待つほど、いい機種が登場し、いつが買い時かがわからないという現象へとかわりつつある。そうパソコンがスマートフォンへと姿を変えるのである。 iPhone 3Gは、Macintosh128K(1984年)の同年に登場したMacintosh512Kと同じ存在なのかもしれない。iPhone 3Gは、初代iPhoneの3G版と比較するとスピード、回線品質が良くなっただけである。

しかし、我が国、日本では状況が世界と大きく異なる。2009年にWi-FiがWiMAXに、そして、2010年には日本は4Gの世界へと突入する。あとたったの1から2年後の世界である。今から2年契約のSoftbankの縛りが終わった頃には、WiMAXの4Gの国家が誕生していることとなる。

当然、iPhone 4Gや Google Andoroid OS Phone 、Microsoft Phone そして日本の通信キャリア系、もしかすると、予想もしない参入者によって市場は形成されていることだろう。それが、「携帯ガラパゴス」と呼ばれた日本において、ダーウィンの進化論のごとく、スマートフォン市場が恐るべき勢いで、変化しようとしていることを今回はお伝えしてみたい。

それを読み解く前に、iPhoneが起こした4つの革命を紹介しよう。


【iPhoneが起こした4つの革命】

1. PCユーザーのための携帯デバイス

まず、第一にiPhoneに反応する人、反応しない人で大きく分かれている点が下記の理由だ。  
 1. 絵文字が使えない。  
2. お財布ケータイでない。  
3. ワンセグがない。  
4. テンキーがソフトキーボード。  
5. ケータイメールの送受信が有料。  
6. ソフトバンクであってソフトバンクでない。

10から20代の携帯ネイティブな世代(学生時代から携帯電話を愛用)にとっては、PCよりも携帯電話の方が、知人たちとのリアルタイムなコミュニケーションができるデバイスとしての地位を確立している。iPhoneのようにPCの世界観を持ち込む必要性はどこにも感じていない。携帯メールでのリッチテキストを楽しみたい彼らにとってはiPhoneって、「携帯電話つきiPod」としか映らないのである。

反対に、PCがネイティブで携帯が苦手な30代以上のPCユーザーにとっては、「狭い画面、遅いスピード、テンキーボードからの解放」をすべてiPhoneに託していると言えよう。ケータイメールの有料化など見えなかった部分も多いが、今までの携帯電話からの継続や、他キャリアからのMNPではなく、新規買い増しというユーザーが多い点にも注目すべきだ。実は携帯端末としては、あまり信頼されてないという事実だ。

すなわち、彼らは(ボクも含めて)携帯電話としてのiPhoneではなく、デスクトップ、ノートブック、スマートフォンとしての機能を買い足したと判断すべきだと思う。2年間で基本料金だけでも20万円以上かかるのだから、個人としては新品のコンピュータを分割で購入するという値ごろ感に近いだろう。なおかつ、欲しかったのが携帯電話の付加機能ではなく、携帯電話の常備性を保ちながらのPCライクな日常機能なのである。


2. 「App Store」という、ノンパッケージソフト流通機能と完全カスタマイズ化

iPhoneのデフォルト機能の多くは、インタフェースこそ違えど、多数の携帯電話での付加機能で実装されているものだ。また、iPod Touchでも、すでに実装されていたものが多い。しかし、iTunesと連携されたオンラインソフトショップ「App Store」が登場したことによって、この携帯電話は、他者と同じ携帯電話は一台もないこととなった。

そう、誰もが無料便利ソフトを次々とインストールして、自分にとっての便利なiPhoneにカスタマイズ化するからである。さらに有料ソフトも、iTunesのパスワードとデポジット先があれば、クレジットカードナンバーを入力することなく、好みのソフトを拾ったり、購入することができる。この便利さは、一度体感すると、財布の存在、いやクレジットカードの存在さえ忘れさせてしまうことになりそうだ。

App Storeの活用次第によって、ある人にとっては、ゲームマシン、またある人にとっては辞書マシン、さらにある人にとっては、カーナビとなるのである。 App Storeは、iPhoneをニンテンドーDSやPSP、電子辞書、カーナビのライバルにまで仕立てあげてしまったのだ。この電子専用機器を統合したり融合していく可能性をこのiPhoneは大きく秘めているのだ。銀行系の無料アプリが登場するだけで、お財布ケータイとしての機能は確実にキャッチアップできることだろう。


3. いつでもどこでも、つながる、さわれる、ウェブ・エクスペリエンス

3G先進国のこの日本。あと700日もすれば、4G先進国となる日本においてのiPhone市場の可能性は非常に大きい。現在のスピードがさらに上がり、Wi-Fiが、WiMAXとなり、100GBが、デスクトップならぬパームトップで展開されると何が起きるのだろうか・・・。

これはボク自身の体験だが・・・。 iPhoneで夢中になっていたボクは見事に電車の駅を乗り過ごし、終電も間に合わず、タクシーもつかまらず、大船駅から鵠沼海岸まで、歩くことになってしまった。

まずは、標準の「Map」でトレースすると、GPSはボクの歩くスピードをゆっくりとGoogle Mapに映し出していた。自分の歩いている速度で、空の衛星とコミュニケーションしながら、やや遅れながらではあるが、ボクの歩く軌跡を表示しはじめている。はじめて歩く道でも、次の通りには、ソニーの工場、となりには、イケガミの工場、そしてコンビニが出現することを表示してくれる。この機能がWi-Fiさえ拾えれば、世界のどこでも体験できるのだ。

手持ちの音楽に飽きてきたので、App Storeで「music  radio」で検索し、「VisualRadio」というインターネットラジオソフトを購入した。ラジオチャンネルの中から「Classik Rock」を選択すると、The Beatlesの「Lovely Rita」がかかっていた。ちょうどパーキングメーターの前で変なシンクロ感を味わった。

さらに、iPhoneはWi-Fiがあれば、SoftBank3G回線を切り替えるかを確認しながら、回線状況の向上に努めてくれる。その間に、気になった写真を撮影し、iPhone用のTypePadの無料ソフトウェアを使ってブロギングしながら、3時間の散歩の後、夜明けを迎えた。小旅行となった初めての道をiPhoneは、しっかりとサポートしてくれた。

通常の携帯やノートPCを合わせれば、出来ることだが、歩きながら思いついて、すぐその場でいろんなことが指先だけでできることに、一番の感銘を受けた。

いままで、ウェブのブラウズは机の前、通勤電車でのモバイルノート環境でも、最低限、座席を確保できなければ何もできなかったが、iPhoneによって携帯サイトではなく、フルのウェブサイトを指で拡大しながら、見ることができるようにもなった。テレビを見ながら、食事をしながら、右手に箸、左手にiPhoneという行儀の悪いクセもつくようになってしまった。トイレにさえも持ち込み、防水仕様がでたら、お風呂でも使いたいと思う。

ノートブックを開く間、スリープからの立ち上がりのほんの数秒のビジネスタイムも無駄にすることがない。しかもGmailなどが指先ではじきながら、読み進めていくことができ、返事は「iPhoneからの返事です」と署名と簡単な返事で処理していける。オフィスに戻ってメールを見てからというビジネス習慣は、もう過去の遺物となりつつあるのかもしれない。

また、予定もiCalをシンクロさせることによって、PCとも共有できる。目下の課題は、Google Calendarとのシンクロだ。その方法もWebで探すとたくさんでてきた。これは週末の宿題としよう・・・。残念なのは、みるみるうちに減少していくバッテリーのグラフである。電池さえ持続できれば、どこでもウェブの最高のエクスペリエンスが継続できるのに・・・。それと、電話としては、長電話になると、熱くなって耳のあたりがいつも汗ばんでしまう。 Coolで防水仕様のiPhone登場が望まれる。


4. ユビキタスな汎用マシン

---GPS×加速度センサー×カメラ×iTunes×マルチタッチ×ケータイ×アイデアの汎用マシン---

iPhoneはアップルにとって、21世紀のMacintoshとなったのかもしれない。 iPodというハードウェアサイズの中に、MacintoshのDNAが、クラウドコンピューティング時代に宿ったといえるのではないだろうか?

アップル社創業当初のコンセプト「The Computer for the Rest of us」「コンピュータを私たち(専門家)以外の人に」は、携帯電話に完全にとって変わられてしまったが、そのコンセプトは、2008年新たなメッセージとして、聞こえてきそうだ。そう、iPhoneは、アップルがRest of usを本当にかなえられるかどうかを担っているからだ。

現在のiPhoneは徹夜で行列してまで、しかも電話としてではなく、端末を新規契約で購入するというギークに売れているデバイスである。

このデバイスは、コンピュータ同様、アプリケーションでどのようにも変わり、インプリメントされたGPSなどの機能によって、さまざまな経験をボクたちに提供してくれることだろう。 この「iPodサイズの汎用コンピュータ」は、CPUとOSの上に、すでに認証されたアプリケーション群がすでに500種類以上存在する。

投資銀行のアナリストは、iPhoneアプリケーションの市場を、2009年までに10億ドル(100億円)と予測している(アプリの平均価格は2.29ドル、アプリの71%が無料)。登場するアプリの内訳は、GPS対応15%、エンターテインメント10%、ビデオゲーム10%、エンタープライズ15%と推測している。

かつてのMacintoshエヴァンジェリストたちは、Lotus1-2-3の座を、Excellで引きずり落とし、DTPの世界をAldusPageMakerとポストスクリプトで席巻してきた。FileMakerというデータベースは、会社名となり、PhotoshopやIllustratorはデザイナーの必携のツールであり、MicroSoftの全売上げの32%はOffice関連事業であり、その中のWindows以外ではOfficeMacがOSのシェアより高いシェアで占められている。

この輝かしい約30年前からのパッケージソフトビジネスが、GPSやモバイル、ゲーム、そして、クラウドコンピューティング、ウェブ2.0、SNSと共に、変わろうとしている。そこにマイクロソフトが現れないわけがない。これから、ユビキタスな汎用マシンにおけるウィンドウズの参入、ブラックベリー、そして、日本の携帯電話機器メーカーが命をかけて参入してくることだろう。

Rest of USな携帯ネイティブな人たちも、好むと好まざるにかかわらず、1億人がスマートフォンをあと数年で持っている時代がやってくるのである。

この「iPhoneが起こした4つの革命」は、まだ始まったばかり。ビル・ゲイツがビジネスよりも、高尚な慈善活動家への道を歩みだした年に、ジョブズは新たなビジネスチャンスを社会に顕在させてしまった。2008年、今まさにパソコン黎明期と同じく、3G環境下においてスマートフォン型社会の黎明期が日本で産声をあげた年となった。

パソコン市場と同じで、スマートフォン型社会は、ほんの数年で、ギークだけのものでなくなることは明確だ。


<参考URL>

▼エキサイトウェブアドタイムス 2008/06/12 「iPhoneアプリの7割は無料か,15%がGPS対応で10%がゲーム」

▼メディア・パブ 2008/06/12「App Storeでのアプリ売上が2009年末までに10億ドルを上回るか


【編集部ピックアップ関連情報】

○WIRED VISION 2008/07/10  『iPhone 3G』実機レビュー:米国3大紙のレビューを総括 
今回の真の主役はやはり、現在のiPhone所有者全員がアクセスできるようになる App Storeだと、3人の大物記者は口を揃える。App Storeはおそらく、 iPhoneによる世界征服を可能にする秘密のソースなのだろう。これによって iPhoneは、Apple社の最高経営責任者(CEO)、Steve Jobs氏が世界開発者会議 (WWDC)の基調演説で述べたように、単なる携帯電話から、メジャーな コンピューティング・プラットフォームへと生まれ変わるのだ。

○CNET 2008/06/18  「iPhoneの登場で、ケータイサイトは不要になる!?」 
この“黒船来襲”は、1から2年後の日本のモバイルインターネットの世界に、 以下の3つの未来予想図を示したと思います。 
1. そもそも日本では普及しない  
2. PCヘビーユーザーを獲得し、PCサイトビューアー利用が促進される  
3. 大きなシェアを取り、日本のモバイルインターネットに根本的な変革を起こす  
数々のブログでも論じられているように、1であれば大きな変化は訪れないと 思いますが、2あるいは3の場合、ケータイビジネスは変革を迫られます。

○Tech Mom from Silicon Valley  「日本でのiPhone」に私が期待するもの2008/06/04  
日本もアメリカも、携帯電話は今、高原状態にさしかかっていて、次の ブレークスルーを探している状態。アメリカよりも、より強固に 「携帯産業」と「携帯文化」が確立した日本で、この「ちょっとだけずれた」 「通信はオマケ」という世界は異質。


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