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米国で始まったネット利用の上限制、トラフィック課金。P2Pソフトなどによる一部のヘビーユーザーが悪影響

  • 米国在住ジャーナリスト

米国の大手インターネットプロバイダーの間で、利用者がネットを利用する際のトラフィックに上限を設ける動きが出始めている。一部のヘビーユーザーによる大量利用がネットワークの帯域幅を圧迫しかねないからだ。こうした制限措置に対して、インターネットの利用を冷めさせるだけだとする声もでている。

サンフランシスコ・クロニカル紙が報じたところによると、帯域上限のテストに乗り出したのはタイムワーナーケーブルとコムキャスト。どちらも、ケーブルテレビやケーブルインターネットの大手プロバイダーだ。同じ大手事業者のAT&Tはテストの実施を見送ったものの、「(大量に帯域幅を使う)極端なユーザーに対する措置として、上限措置は避けられない」とするなど、今後の導入を含ませるコメントを残している。

タイムワーナーケーブルはテキサス州のボーモントをテスト地域に選び、新規顧客を対象にトラフィックの利用量に応じたインターネット利用料を適用する。毎月のデータ転送量が5ギガバイト以下のライトアカウントでは月額20ドル、20ギガまでのミドルアカウントは月額55ドル、40ギガバイトまでのヘビーアカウントは月額65ドルとなる。各アカウントの制限量を超えた場合には従量課金となり、1ギガバイトあたり1ドルの超過料金を取られる。

コムキャストはペンシルバニアとバージニアの2州でトラフィック管理を導入したテストを実施。トラフィックが過度に多いヘビーユーザーだと判断されると、その後利用できる帯域幅が制限され、ネットの接続速度が遅くなる。また、一カ月間に250ギガバイトを超えるようなトラフィックを使う利用者に対しては、追加料金を請求することも検討中。ちなみに、対象となる利用者の割合は全体の1%以下だという。


▽5%のヘビーユーザーがネットワークの過半数を占有

こうしたトラフィック管理に乗り出すのは、一部のヘビーユーザーによる大量の帯域利用によって、ネットワーク全体の速度低下が懸念されているためだ。コムキャストでは、上位5%の利用者によってネットワークの半分以上の帯域幅が占有されている。同じくAT&Tでも、上位5%のヘビーユーザーによって全体の46%の帯域幅が使われている。

大量に帯域幅を使う原因の大半は、ピアツーピアのファイルシェアリングシステムの利用。タイムワーナーケーブルの広報担当者は、「全体に影響が及ぶような大量のトラフィック利用をしているのはほんの一部の人たち」と説明するが、このまま放置しておくと、インターネット上の動画サイトの成長にも危機が及ぶことを心配している。

ウェブサイトを作る際に利用するホスティングサービスでは、レンタルサーバへのデータ転送量に対して制限をかけるケースがほとんど。しかし、一般のネット利用者に対して上限を設けるのは異例だ。

筆者は一度だけ経験がある。米国のホテルでネットを使用中に突然、接続不能になった。カスタマーサービスに電話をすると、ファイルシェアリングソフトウエアを使っているから切断したといわれた。ソフトウエアが自動起動していたのだが、それを感知したらしい。聞くと、接続を始める際の契約書の中に、大量にトラフィックのあるソフトウエアの使用を禁止する条項が書かれているという。宿泊施設などに一括してネットワーク接続を提供する業者だったから、やはり帯域幅の過剰利用には神経質になっていたようだ。


▽明確なルール作りが必要

こうしたトラフィック管理に対しては批判的な声もある。トラフィックの不足というインフラの未整備から発生する問題を利用者にツケ回ししているだけだとの主張だ。上限を設けることでネット利用が停滞し、インターネット経済の冷え込みにつながる可能性もある。現在はヘビーユーザーだけが対象でも、プロバイダーが将来的に細かくトラフィック管理を適用してくるかもしれない。

特にインターネット企業にとっては切実な問題。もし、ネット利用がダイヤルアップ時代のような従量課金制に後戻りしてしまったら、Eコマースを始めとするネットビジネス全てに大きな影響を与えることになる。

例えばインターネット電話のスカイプでは、比較的利用帯域幅の大きいビデオ電話の利用者が全世界で8千万人以上いる。プロバイダーによるトラフィック管理がこの先進むようだと、何らかの打撃を受けるだろう。

常時接続を可能にしたブロードバンド化で進化したテクノロジーも多いだけに、インターネットの技術革新に水を差さないかが心配なところ。スカイプでは「明確なルール作りが必要」と話している。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○ITmedia News  2008/06/25
 「OCNで通信制限 送信1日30Gバイト以上で利用停止」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0806/25/news110.html


○P2Pとかその辺のお話 2007/11/11
 「P2Pにまつわる世界のISP帯域制御戦争」
 日本ではP2Pファイル共有利用者といえば、その大半がWinnyやShare、
 WinMXを利用しているのだろうけれども、世界的に見れば、ファイル共有
 ユーザの大半はBitTorrentを利用しているといっても過言ではないだろう。
 今回は、カナダ、アメリカ、イギリスにおいて、どのような帯域制御が
 行われているかという概要を紹介するよというお話。
http://peer2peer.blog79.fc2.com/blog-entry-844.html

 

 


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