海外で日本が報道されるとき。その隙間に見えるもの
- イタリア在住ジャーナリスト
数週間まえ、昼食どきのテレビのニュースで、マグロの値段の高騰がとりあげられていた。原油価格も上がってるしなあ、とぼんやり考えをめぐらせながら聞いていると、イタリア近海で獲れるものをふくめ、高級マグロはほとんど日本に買われていること、日本の市場はそれらをどんなに高額でも買うこと、結果としてそれが高騰の原因になっていること、こういう説明だった。
そして最後に、アナウンサーがこう言った。「日本では高級マグロを寿司や刺身で食べていますが、イタリアで流通するマグロは、(日本人が見向きもしないような)三級品マグロです」。イタリアでだってマグロのおいしいのが食べたいのに、日本人のせいで食べられない、と言っているように聞こえた。
申し訳ないような、肩身の狭いような、そんな思いに一瞬とらわれた。一方で、ニュースを読み上げるアナウンスの行間にそこはかとない悪意を感じたので、メディアのいうことを100%信じてはいけない、と自分に言い聞かせ、調べてみた。
WWF(世界自然保護基金)の以下のページによると、
http://www.wwf.or.jp/activity/marine/sus-use/tuna/consumption/index.htm
日本は、世界でとれるマグロの3分の1を消費している(2004年調べ)。
さらに、ニュースで話題になった高級種のクロマグロについていえば、その8割が日本で消費されている。
確かに日本にはマグロが世界中から集まってくるらしい、というのはわかった。
しかし、そのことと高値の原因は簡単に結びつけられるものなのか。
悶々としているところへマグロ漁に関するニュースが飛び込んできた。
欧州委員会において、クロマグロ漁船に対する年末までの漁の停止命令が発表され、それに反対する南イタリアの漁師たちがデモを行ったという。停止命令は、生息数が激減したといわれるクロマグロを守るために出されたものだ。
世界中に日本食レストランがあふれ、ほんの数年前まで野蛮とされていた魚の生食がもはやトレンドになっている、というのもクロマグロを獲りすぎた理由のひとつだと思うのだが、マグロは日本人が好んで食べるもの、というイメージが簡単に変わることはないだろう。だとすると、枯渇しつつあるマグロ資源をイタリアメディアが掘り下げることがあれば、マグロが減ったのは日本のせい、ということになるだろう。実際、もっと獲らせろと言っている南イタリアの漁師たちに対する批判があってもよさそうなのに、それを聞くことはない。
アナウンサーがニュースを読み上げる際に漂う悪意、と述べたが、それは、何も今にはじまったことではない。
地震や大雪などで新幹線が止まろうものなら、「日本人が誇る新幹線も災害には勝てませんでした」とやる。文字にするとなんということはないのだが、リアルタイムでニュースを見ていると、アナウンサーの屈折したような感情が伝わってくる。だいたい日本人が、新幹線に限らずなにかを誇らしげになど語るものか。新幹線の、速さや清潔さや正確さ、あれは日本人にとってはあたりまえのもの(あたりまえにしてしまった鉄道関係者の方の苦労は察してあまりあるが)。新幹線を見て「アンビリーバボー」と感嘆しているのは外国人だけだ。
ホンダのロボット・アシモくんが、デモンストレーション中に公衆やテレビカメラの面前で転んだことがあったが、そのニュースを見聞きしたときも、全体に漂う「ザマミロ」感がどうしても見えてしまう。見る者、つまりわたしの、心根が歪んでいるせいだろうか。むしろそうであってほしいものだ。
<参考>
世界のマグロ消費量と日本の刺身マグロ市場
http://www.oprt.or.jp/f_c5.html
にっぽんマグロ白書
http://www.maguro-jp.com/
マグロ危機の深層(東洋経済)
http://www.toyokeizai.net/business/industrial_info/detail/AC/1c0454d7ec0ff9606a7f7b152fcce8e2/page/1/
燃料高で世界的にマグロが休漁に追い込まれているという
アシモが転んだときの大手紙ラ・レプッブリカ紙の記事
「スーパーロボット・アシモ、転んで大恥をかく」
http://www.repubblica.it/2006/11/motori/dicembre-2006/asimo-incidente/asimo-incidente.html
最後の一文に、「踊り、サッカーもできる完璧なロボット、アシモ。誰でもいいから彼に階段の降り方を教えてやってくれないか」とある。
【編集部ピックアップ関連情報】
○Business Media 誠 2008/06/04
「食卓からマグロが消える? 原因は漁船の燃料費」
日本人の大好物のマグロが再び危機にさらされている。2年前の危機は、
資源保護のための漁獲制限が原因だったが、今回は原油価格の急騰に
よるものだ。漁船の燃料費が跳ね上がり、国内のはえ縄漁船や日本の
輸入量の3分の1を占める台湾漁船の一部が数カ月間の休漁を余儀なく
されている。供給不足や値上がりで、今度こそ、家庭の食卓や
回転すし店からマグロが消える懸念もぬぐえない。
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0806/04/news035.html
○山と土と樹を好きな漁師 2008/06/02
「原油高でマグロ初の休漁 小売価格上昇は必至」
中国・台湾、韓国など世界的に休漁の流れ
「漁業者側では魚の値段を自ら決められないのが現状で、現在は、量販店
の価格形成力が強すぎます。量販店からすれば『値上げ凍結宣言!』といった
キャッチフレーズでの売り方はあり得るのでしょうが、『採算割れでも
価格を下げろ』というのでは、もう漁業者は生活できません」
http://blogs.yahoo.co.jp/sasaootako/53515571.html
○風の行方 「負のスパイラル」 2008/06/19
あなたはどう思うだろう。今の世の中は生きにくくなった。そう感じる。
恐らく”負のスパイラル”に全てが飲み込まれかけているからだろう。
いたるところで発生している”負のスパイラル”から気になった4つの
事柄を記してみた。
http://side-car.at.webry.info/200806/article_8.html
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