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ラグジュアリーブランドの行方

  • 株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長 
  • 谷口 正和

 ある意味、バブルの再来と言えたここ数年、消費はますますハイエンド型になり、セレブをシンボルにいただきながら、いくつものラグジュアリーブランドを形成してきた。luxuryとは豪華、贅沢という意味であり、ラグジュアリーブランドは、リッチのさらに上を行く最上級ブランドとして市場に登場してきた。単なるお金持ちブランドではなく、そこにはそのブランドの持つ美意識、哲学、伝統、歴史などが問われている。この意味において、ラグジュアリーブランドは、経済視点だけではない文化視点を内包しているといえるだろう。

 昨年辺りから、市場の風が変わり始めている。ヒルズ族に代表されるような金融崇拝、利潤追求主義が下火になり、その代わりに精神性とか感性といった、心理的満足のほうに市場がシフトし始めた。ハイプライスからハイサティスファクションへ、マインドサティスファクションへといってもいい。

 そこで登場したキーワードが「上質」である。「上質」というキーワードにはライフスタイル感がある。上質のライフスタイルにふさわしい商品やサービスに対する選択眼を感じさせるのだ。

 その上質志向に対応するキーワードが「プレミアム」である。単なる流行、トレンドに左右されない上質感、それを選ぶセンスとライフスタイルを持っている市場に対する形容詞だ。

 要は本質的な価値観が市場を支配し始めたのだ。表層消費から本質消費への変化である。物の満足から、心の満足へ、トレンド消費からライフスタイル消費への変化である。

 まさにクオリティ・オブ・ライフ、生活の質とは何か、より深く言えば、生きるとは何かへの問いかけが人々の消費に対する根源的な欲求になったといってもいい。ただお金に余裕があるからどんどん消費しようといった若々しい消費性向、見方を変えれば幼い消費性向がトーンダウンしつつあるのだ。市場は量的拡大から質的深耕へのパラダイムシフトを進行させている。

 買う前に、行動する前に、「ちょっと考えよう」「それは本当に私の暮らしに必要なのか」といった自己質問が、「なぜ」を3回問いかけるWHY3、「何」を3回問いかけるWHAT3のような思考法になって現れている。慎重になったというよりも知恵深くなったというほうが当たっていよう。

 消費の本質的キーワードは「オプティマム」である。最高とか普通とかお買い得といった物と価格の概念を超えて、要は最適であったかどうかということなのだ。

 この「最適」の概念に一番ふさわしい購入方法は「オーダー」である。出来上がったものから選ぶのではなく、注文して自分のふさわしいものを購入する。先に作ってから売ろうとすれば、多すぎるか少なすぎるかであり、ジャスト最適数ということはほぼ不可能であろう。オーダーは注文した数しか作らない。その意味でオーダーは最適システムであり、無駄を出さないというエコ・コンセプトに符合している。

 つまり、これからのラグジュアリーブランドは、ある意味エコロジー・ブランドであり、オプティマム・ブランドであり、フィロソフィー・ブランドである。社会的思想、哲学を背景に持たないと、最上位ブランドとして支持されなくなってくるのである。

 物が物としての価値判断をされ、それで許されてきたのは工業化社会の発想である。物には「見えざる価値」があり、それはそのものの背後にある考え方や思想によって支えられているのだ。ラグジュアリーブランドには必ずある「神話」も、単なる伝説とかストーリーではなく、そのブランドがいかに社会的存在であるかのほうに比重が移ってくるだろう。物は「考え方」によって価値を判断されるようになってくるということだ。

 このような本質論議の中央を占めてくるのは、ミッション・マネジメントである。ミッションとその実践こそ、企業やブランドの価値を決定する時代がやってくる。ラグジュアリーブランドが、単なるハイエンドプライス、希少価値、限定価値だけに頼っていると、いつの間にか進化した顧客の精神深化によって、突然見捨てられることさえある時代なのだ。

 


【編集部ピックアップ関連情報】

○広告業界の現状と未来を語る 「富裕層へ広告は効くのか?」2008/04/09
 広告業界も富裕層マーケティングなどを強化して、より高価値、
 高価格のものを富裕層に売ろうと試みている。それは有効なのだろうか。
 私はあまり期待出来ないのではないかと思っている。なぜなら、
 商品オリエンテッドであり、売るために広告が必要な製品を本当の
 富裕層は必要としていないからである。
http://blogs.yahoo.co.jp/yassylucky/41380382.html

 

 


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