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自動車盗難大国ブラジルにて防犯上、義務化が予定される車両装備に議論錯綜

ブラジルは、自動車盗難大国である。路上駐車中の車の盗難はもとより、昼夜を問わない自動車強盗の発生率は世界でも高い水準にある。2007年には、一日の盗難車数は100台と報告されている。

盗難車数の上昇傾向に伴い、交通警察は、2006年以来専用のサイトを開設し、盗難にあった場合に登録すると、衛星を介して、480のブラジル全土の交通警察に情報がいきわたるようになっている。

盗難は組織的犯行が多く、盗んだ車はハンドル、タイヤひとつひとつ解体され、それぞれの部品が、闇市場で別々に売られる。また例えば、サイドミラー、ハンドルなどの部品のみが盗まれる場合もある。結果、部品を売りやすい車が盗難の対象になることが多い。警察によれば、都市部ではフォルクスワーゲンのゴル(Gol)、フィアットのウーノが高い盗難率を誇る。

盗難防止用の装置としては、アラームの設置が一般的だ。しかし路上で盗難にあい、アラームがなり続ける車に近づくことは、セキュリティー上避けるべきとされており、いったん盗難にあってしまえばあまりその効果はないといってもよい。あわてて自動車に近づいたため、隠れていた犯人に襲われ、鍵を奪われる可能性が高いからだ。また近年では、電子的な鍵の照合システム、イモビライザーを装着している車も多くなったが、実際に盗難は起きており、今後のさらなる技術開発が望まれている。

 

2007年にブラジル政府、Conselho Nacional de transito(Contran)が発表した盗難防止のためのシステム搭載の義務化の実施を目の前にして、現在様々な議論が展開されている。2009年8月1日以降発売される、全ての新車に車両追跡装置とイモビライザー装着を義務化するというものだ。

現在の新車販売台数から予測すると、2009年8月以降、ブラジル市場の車両追跡装置の販売数は、年間250万台以上に跳ね上がることになる。これは、サプライヤーにとって売り上げを伸ばす絶好の機会になる。

しかし、政府は車両追跡装置には衛星システムを採用すると決定しており、衛星システムを使用しない車両追跡装置を採用しているメーカーからは疑問の声が上がっている。

例えば、フォルクスワーゲンは現在すでに、携帯電話を利用したシステムを採用しており、サービス供給者も少なくない。同社によれば、「携帯電話を利用したシステムは、コストが低く、乗用車の電気システムに比較的になじみやすい。」という。チップを購入し、車に装着することで、携帯電話で直接車をコントロールできるシステムだ。

2007年3月から6月にかけ、フォルクスワーゲンは実験的に、衛星を利用したシステムを新車に装着し販売した。しかしコストが高く、利用するのに600レアルから800レアルの年間サービス料が必要となるため、購入者の20%しか契約しなかったという。システム搭載は義務化されるが、購入者がサービスを利用しない限り利益はあがらない。

購入者側には、保険が安くなるのではという期待がある一方、多くの懸念がなされている。自動車盗難が発生する根本的な治安問題を解決しない限り、自動車盗難が誘拐事件に発展するのではないかという疑問がある。また自動車購入価格の値上がりも指摘されている。

消費者保護協会が、この政府の新法案に反対し裁判に踏み切ったことも興味深い。ブラジルでは、日本の約10倍に近い、年間5万人が交通事故で死亡する。ブラジルで販売される乗用車は、エアーバック、自動ロックシートベルトなどの基本安全装備の装着が義務付けられていない。オプションである安全装備には高い税金がかけられており、購入者には手を出しがたい存在となっている。各メーカーは、新法案に対応するため、製品設計の変更に資金を費やしているが、それ以前にコストの低い安全装置開発に力を入れるべきだというのが理由である。

 
ブラジル自動車製造業者協会(Anfavea)によれば、2007年のブラジルの自動車生産台数は、前年比13.9%増の297万2,822台。国内販売台数は、同27.8%増の246万2,728台だ。前年比では、28%増、また2008年1から3月は31%増と、史上最高を記録した。自動車の長期ローンが普及しており、販売はますます拡大している。需要に供給が追いつかず、車種によっては納車まで数ヵ月待たなければいけない事態も発生している。活気付いているからこそ、この新法案に自動車産業界はナーバスに反応しているのだ。

 

 


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