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徹底したイメージ戦略が不況の航空業界生き残りに一役

(記事概要)

 ウエストジェット社は6月下旬、今秋以降の増便計画を発表して業界関係者を驚かせた。北米航空会社各社が相次いで廃止・減便を発表する中、カリブへの直行便2路線と国内線2路線を新設、メキシコへの既存路線増便という強化計画はある種異彩を放っている。

 設立当初から無駄を削った低コスト運営を続けているが、それに加えて『お客様第一主義』のイメージ戦略も顧客獲得に一役買っているようだ。

(2008年7月4日Globe and Mail)
Globe and Mail:カナダ二大全国紙のひとつ。政治・経済などカナダ東部を中心にしたニュースが充実している。


(解説)

 この『お客様第一主義』のイメージ戦略の表現方法が面白い。ウエストジェット社はカナダには珍しく労働組合を持たない。というのも従業員が株主という経営方針をとっているためだ。

 そして、この従業員が株主ということを前面に押し出し、利用者を満足させることが会社に利益をもたらし従業員の充実感も満足させると唱っているのである。

 その最も大きな役割を果たしているのがCM。“Why do WestJeters care so much? Because we are also WestJet owners”をキャッチフレーズに、従業員全員がどれほど利用者のことを思っているかをユーモアを交えたさまざまなパターンで放映している。これがなかなかおもしろい。お客様は神様です的なものではなく、あくまでも『フレンドリー』友達のように大切にというのが、広告のコンセプトに置かれている。(一部YouTubeで視聴できる)

 さらに、CBCが放映しているテレビ番組 “Rick Mercer Report”の中では、リック・マーサー本人を従業員として迎え、客としても従業員としても楽しいウエストジェットでの体験の様子を映し出していた。リック・マーサーはカナダを代表するコメディアンで、彼が持っているこの番組は政治家や社会情勢をブラックユーモアで斬っていくなかなか見ごたえのある人気番組である。この放送内容も太鼓持ちのような感じではないところに好感が持てた。

 こうした徹底した『フレンドリー』な『お客様第一主義』のイメージをうまく利用しながら、機内サービスがない低価格な短・中距離路線の定着を確実なものにしている。今では同じ路線でエアカナダも値下げしているため、特別な格安感はないもの、それでも業績を伸ばしている。

 ウエストジェット社は現在カナダ最大手エアカナダに次ぐ航空会社にまで成長しているが、1996年設立当時は、ボーイング737機3機で、アルバータ州・ブリティッシュ・コロンビア州を中心に5都市への就航から出発した。今では国内を中心に、アメリカ、メキシコ、カリブ海沿岸の47都市に就航し、B737を47機所有、2013年までには121機まで増やす拡張計画を打ち出している。

 今年3月には15カ月連続の搭乗率上昇で82.5パーセントまで達し、今年は前年比で16パーセントの搭乗率増を見積もっている。5月になって初めて燃料サーチャージを導入したものの、北米各社が実施している関連サービスへの追加料金などは行わない方針だ。

 カナダの航空業界は1999年のカナディアン航空倒産以来、2001年のアメリカ同時テロ、2003年SARSなどの影響を受け、新会社設立・倒産を繰り返しながら、現在のエアカナダ、ウエストジェット2社が生き残った形となっている。そこにイメージ戦略が一役買っているというわけだ。
 
 実際あのCMを見ると乗ってみたいなと思わされる。個人的に飛行機が大好きでいろいろな航空会社を体験したいのだが、バンクーバー・関空路線にエアカナダしかないので、サービスの質がどんなに低下しても仕方なく利用していた。そのためマイレージの関係で他の路線でもスターアライアンスを利用してきた。

 しかし、先月発表されたエアカナダの今秋以降の運航計画で、この関空路線が廃止されることになった。それはそれでショックだが、ならば前向きに、次回国内線、アメリカ線に乗る時には是非ウエストジェットを利用してみたいと思っている。前々からあのCMが気になって仕方なかったのである。

 

 


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