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オーストラリアの公立学校生徒130万人、OutlookからGmailに乗り換えで経費大幅削減

<記事要約>

ニュー・サウス・ウェールズ州教育省は、生徒が利用するEメールのプロバイダーとして、新たにグーグル社を選択したことにより、同社の世界最大顧客のひとつとなる。

SMSマネジメント&テクノロジー社が提供する『Gmail』をカスタマイズしたEメールシステムの導入は、年内に完了する予定。メールボックス容量は少なくとも6GB、と従来より大幅にアップし、最先端のフィルタリング機能やセキュリティ機能を備えている。新システムのユーザーは、公立学校及びTAFE(Technical And Further Education: 公立の高等専門学校)の生徒130万人だ。

契約は3年間で、費用はおよそ950万豪ドル(約9億5,000万円)。2年間の延長オプションが付いている。

2008/8/1 NSW Public Schools Homepage (http://www.schools.nsw.edu.au)より


<解説>

オーストラリアの人口の約3分の1は、ニュー・サウス・ウェールズ州に在住している。そこにある公立学校の生徒をまるごとアクティブ・ユーザーとして取り込むことに、グーグルは成功したわけだ。

州教育省が、これまで契約を結んでいたのはマイクロソフト社だったから、グーグルにとっては大金星。ユニシス社がインストールした『Outlook/Exchange』をプラットフォームにした従来のシステムは、5年間で3,300万豪ドル(約33億円)で、1年当たりの支出は、660万豪ドル(約6億6,000万円)から317万豪ドル(約3億1,700万円)へと、大幅に軽減することになり、州教育省にとっても乗り換えのメリットは大きい。

今回新たに導入が決定されたのは、単なるGmailではなく、ユーザーのニーズに合わせて『Googleカレンダー』『Googleトーク』『Googleドキュメント』といったさまざまなツールをブラウザー上で活用できる『Google Apps』と呼ばれるホスティング型アプリケーションの総合パッケージ。海外のサーバーにデータが保存されることに対する慎重論もあって、教職員の利用は見送られたが、グーグルは今後Gmailのホスティングをオーストラリア国内で行うことも検討しているらしい。

Google Appsは、統合や拡張が容易なのが特長で、家族やグループ用から企業向けまで複数のエディションが用意されている。非営利目的の教育機関を対象にしたEducation Editionは無償で提供されており、現在約2,000の教育機関が採用している。日本でも一橋大学や日本大学、東京女子大学などが導入済みだ。

リリースされてからわずか2年足らずで、ユーザーの主流は高等教育機関という状況の中、州内共通システムとしてあっさり公立学校すべてへの導入を決めたあたりが、フレキシブルなお国柄のオーストラリアらしい。

むろんシステム刷新にともなって、多額の費用が見込まれれば、こうはいかなかっただろう。Google Appsの場合は、サーバーなどのハードウェアはもちろん、ソフトウェアの購入やバージョンアップなどは一切不要。既存システムとの統合やセキュリティ強化、運用開始後の保守等にかかる費用をひっくるめて、3年間で生徒一人当たり7豪ドル(約700円)ちょっと、という計算になる。同様のシステムを独自に構築しようと思えば、膨大な開発コストと人的資源が必要で、導入後の運用管理コストや負荷も大きく違ってくる。

ニュー・サウス・ウェールズ州在住の生徒たちは、シングル・サインオンの実現により、既存の生徒用ポータルサイトを通じて、新アカウントにアクセスできるようになり、メールアドレスは、「studentname@schoolname.edu.au」などの学校ドメインが利用できる。

州教育省はGoogleトークを使用しない方針を打ち出しているが、Googleドキュメント導入の可能性を否定してはいない。インターネットにアクセスさえできればいつでもどこでも使えるウェブアプリケーションを日常的に使いこなすようになれば、おそらく卒業後もサービスを使い続ける可能性は高いだろう。

マイクロソフトもうかうかしてはいられない。折しも、海の向こうのアメリカでは、スタンフォード大学が米ヤフー傘下のZimbraを使ったEメールシステムを導入すると発表したばかり。教育市場争奪戦を制するのは誰だろうか?


<参考情報>

○Microsoftの最大のライバル「Google Apps」について知っておくべきこと
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20080129/292348/

○Web世代の学生をGoogle Appsのユーザーに――“Schoogle”に力を注ぐグーグル
http://www.computerworld.jp/topics/google/117349-1.html

○ライフハッカー日本版 2008/07/29 
 「Outlook vs. Gmail ─徹底比較─(前編)」
 Gmailがサービスを開始したのは2004年。以来、年々改良されています。
 でも、一番人気のメール・クライアントといえば、やはりなんと言っても
 マイクロソフトOutlook(とExchangeの併用)でしょう。それではGmailと
 Outlookを比較してみましょう。乗り換えどきかどうかが見えてくるかも、です。
http://www.lifehacker.jp/2008/07/outlook_vs_gmail.html

○ITmedia News  2008/04/15
 「Google Apps導入の米私立大学、学生にiPhoneを無料で配布」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0804/15/news114.html

○CNET  2007/09/13
 「Google Appsを検討するユーザーに自問してほしい10の質問」--MSが公開
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20356365,00.htm

 

 

 


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