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米自動車業界が16年ぶりの低迷。出口の見えない不振が続く。

  • 米国在住ジャーナリスト

 米国の新車販売台数が16年ぶりの低迷となった。ガソリン価格の高騰から消費者が大型車であるピックアップトラックの購入を控えたのに加え、信用貸しの低迷が続いたからだ。自動車メーカーが盛り返しを期待していた時期にもかかわらず、7月の前年販売実績は13.2%落ち込んだ。

 大手各社の実績によると、首位のゼネラルモータースが前年比26.1%減を記録したほか、クライスラーは同28.8%減となり数千台の販売減少。フォードも同14.7%減となった。米大手3社の合計では同42.7%の減少となり、昨年比で15万台少ない。

 これらの米メーカーの販売減少は、外国車メーカーにも影を落としている。トヨタ自動車が同11.9%減少したほか、ホンダは同1.6%減となった。ちなみに他メーカーに比べてトラック車種の少ないホンダは、今年1─6月の実績で大手自動車メーカーとして唯一、前年を上回る販売実績を記録している。一方、日産は小型車の需要の伸びに助けられ、7月は同8.5%上昇した。

 米国車メーカーの首脳はこの春、自動車販売は4─6月頃から低迷を脱出して上昇に向かうと予想していた。政府が国民に支出した税金の払い戻し小切手の影響や、住宅市場の回復が見込めるというのが根拠だった。だが、7月の販売実績はそれを裏付ける内容にはならなかった。年間ベースで見た販売台数予測は、このままの状態が続けば1255万台規模で推移すると予想されており、1992年4月以来の低迷となる。(ニューヨークタイムス8月2日付)


(解説)

 不透明な経済情勢とガソリン価格の高騰を背景に自動車メーカーが米国で苦しんでいる。

 資金の借り入れコスト上昇や、金融機関の与信基準の強化も自動車メーカーを悩ませる要因のひとつだ。超低金利ローンを提供することで顧客をひきつけるのは米国の自動車販売業界ではよく行われる手法。それがここに来て出来なくなってしまった。ゼネラルモータースでは、その影響から月間1万台の新車販売を失ったという。不透明な金融情勢に対して金融機関に打開策を求める声もでているが、具体的な動きはでてきていない。

 リース車両へも深刻な影を落としている。米国では、一般消費者が自動車の購入かリースを選べる。リースの場合は3年程度の契約となり走行距離の制限も生じるが、月々の支払いがローンよりも低く抑えられるのが利点。このため多くの人が気軽に利用し、自動車メーカーも積極的に宣伝を行う。ゼネラルモータースでは、販売の10─15%をリースが占めているほど。

 しかし、スポーツユーティリティ車やピックアップトラックの販売低迷はこれらの車の再販価格の低下を呼び込み、結果的に自動車メーカーに大きな損失をもたらすこととなった。クライスラーはリースプログラムの廃止を打ち出し、ゼネラルモータースとフォードもリース車両を削減する方針だという。クライスラーでは代わりに6年ローンを提供して月々の支払額をリース並みに抑える手法を採用。顧客離れを防ぐ狙い。

 ピックアップトラックやスポーツユーティリティー車は乗用車に比べて、もともと利益が大きい商品。これらの車種の販売が乗用車の倍近く落ち込んだことが、自動車メーカーに、より大きな打撃を与えている。7月の販売が伸びた日産でも大型車の苦戦は同じ。その影響から日産自動車の4─6月の連結決算は純益ベースで前年比43%減少。米国依存度が6割以上とされる同社では、3年で1200人に上る早期退職者を募るなどの対応を余儀なくされた。

 このままの状態が続けば、2008年の小型車販売は記録的な低水準になることは間違いないようだ。JDパワー・アンド・アソシエイツでは、7月の販売実績が出る前の試算で前年比12%減少の1420万台と予想。1993年以来の低い台数とした。この数値は3月の75万台から一度下方修正されている。だが、7月を終えても上向かない販売状況を見ていると、1255万台という数値も現実味を帯びてきたように思える。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○これからの自動車選び 2008/08/04
 「米、原油高騰、米国市場大型SUVから燃費の良い乗用車へ移行、需要変化」
 米国で過去10年以上も高い人気を保っていたライトトラック
 「(LCV)車輌重量1万ポンド以下(4.535kg)のスポーツ・ユーティリティ・
 ビークル「(SUV)スポーツ多目的車」、ミニバン「(VAN)多用途車」や
 ピックアップ・トラック(TUV)だが、記録的な燃料価格の高騰を受けて
 人気の陰りが顕著になってきている。
http://workshopsuzuka.blog.so-net.ne.jp/2008-08-04

 

 


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