NBCとマイクロソフトが共同し、2200時間に及ぶ北京オリンピック映像をネット配信
- 米国在住ジャーナリスト
今月8日、北京オリンピックが開催された。大国として台頭する中国が威信を賭ける今回のオリンピックは、歴史的な転換期のイベントとして特別な意味を持つが、それと同時に、放送事業におけるひとつのマイルストーンとしても長く語り継がれるだろう。
NBCとマイクロソフトが共同し、2200時間に及ぶオリンピック映像をインターネットで配信するのだ。2200時間─テレビ放送の限られた時間枠でオリンピックを中継していた時代に比べれば、20倍以上の放送時間だ。主要な種目はもちろん、比較的マイナーな競技のマイナーな試合までカバーして余りある。
25の試合がオンラインでライブ中継されるほか、その他のゲームもオンデマンドで視聴することができるのだ。ちなみに2年前のトリノ・オリンピックの時にNBCが用意したハイライトシーンのストリーミング映像が全部で2時間だったことから見ても、この2年間に如何に映像配信の環境が変化したか分かろうというものだ。NBCの試みは、今後のテレビ業界の方向性を示す壮大な実験である。世界中のテレビ局がその成り行きを見守っている。
とはいえ、端境期のテレビ業界の苦悩か、NBCのプログラミングは今ひとつ煮え切らない。陸上競技や水泳など、テレビで中継される競技はネットでライブ視聴はできず、アップロードされるまで12時間のタイムラグがある。NBCはいまだにテレビ局である。インターネットに軒を貸して母屋を取られるわけには行かないのだろう。また、視聴の多い種目の中継はサーバーに負担がかかり過ぎるという事情もある。NBC副社長、パーキンス・ミラー氏は「手に汗握る競技は52インチの大型テレビでご覧になることをお勧めしますよ」とコメントしている。
NBCの北京オリンピック放送の広告収入は10億ドルと発表されている。コカ・コーラやVISAといった大手がテレビスポットとインターネットの両方をスポンサードするほか、インターネットのみの広告主も多いという。テレビとインターネットの利益の比率は発表されていないが、アテネオリンピックの広告収入がやはり10億ドル程度だった事から、不況のための広告手控えを計算に入れてもインターネット広告の収益は10─15%くらいだろう。
しかし今後の広告収入がインターネットメインになっていくことは間違いない。今や、ネット世界の進歩はドッグイヤーの上を行くマウスイヤーである。大胆な予想だが、北京オリンピックは既存のテレビ放送による中継がメインである最後の大会になるだろう。
さて、今回NBCとタッグを組んだマイクロソフト。こちらもある意味で大きな賭けに出ている。今回の中継に使われるプラットフォームは、マイクロソフトが昨年発表したSILVERLIGHTだ。ウエブ上での動画再生はマクロメディアのFLASHの独占状態だが、マイクロソフトがこの牙城を崩すべく、満を持して投入したRIPである。
ちなみに日本でもasahi.comが使用している他、USENも導入を決めている。FLASHの寡占市場を切り崩すのは難しい、という専門家の予想に反して健闘するSILVERLIGHTだが、今回のNBCとのジョイントにより、一気に差を縮めようというのがマイクロソフトの目論見だ。現在SILVERLIGHTのシェアは5%と言われているが、今回のオリンピックでどの程度数字を伸ばすことができるか、要注目である。
【編集部ピックアップ関連情報】
○スポーツビジネス from NY 2008/08/16
「日米のオリンピック中継に見られる大きな違い」
日米のテレビ局では、ネットに対する認識に大きな差があると感じます。
やはり、日本のテレビ局は系列テレビ局モデルを崩壊させたくないためか、
ネットをメディア消費者にリーチするための主要メディアと位置づける
ことに消極的であるような印象を受けます。逆に、NBCなどの米国テレビ局は、
テレビへのこだわりが日本ほど強くなく、メディア消費者のコンテンツ
消費形態の変化に貪欲に着いていこうとする姿勢がうかがえます。
http://tomoyasuzuki.jugem.jp/?eid=431
○CNET 2008/08/06
「五輪映像がPCに届くまで--MSとNBCの挑戦」
数十ものオリンピック会場からハイビジョンビデオ映像が光ファイバーケーブル
経由で北京に設置されている国際放送センターに送られる。送られたビデオは、
たくさんのエンコーダ、「Windows Media」サーバによって、インターネットで
配信可能なフォーマットに変換され、衛星を通じて、ニューヨークにあるNBC
の本社に配信される。
http://japan.cnet.com/special/story/0,2000056049,20378294,00.htm
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